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2004.08.06
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カテゴリ:築いていく家族
私たちは宵越しの喧嘩をしない。
どんなに前日の夜、喧嘩をしても、
次の日の朝、仕事へ行く彼を見送るときは、笑顔で手を振れるようになるまで、お互いに改善しようと努力し、修繕する。

これは、彼の提案だった。

いつだったか、もう結婚していたのか。
喧嘩したまま離れようとしたときに、
「このままどちらかが死んで二度と会えなくなるかもしれないのに、最後にこれでは悲しいでしょ」
と、言った。
その価値観に共鳴して、私も心がけるようになった。
以来、これは暗黙の了解になっている。

そのせいか、宵越しの喧嘩になりそうなネタは、彼が連休の時に勃発することが多く、
これまた、お互いに暗黙の了解になっている。

先程、聞いたこともないような切迫した声で、彼が私の名前を呼んだ。

彼は3日前から熱があり、悪化して昨日は仕事を休み、点滴を午前中と午後の2回、受けてきた。
今日から元々のスケジュールで彼は3連休であり、点滴の効果で昨晩、熱もだいぶ下がり、安心していた。

朝方、うとうとしていたら、夫がトイレに入るのが聞こえた。
風邪らしいので、娘と私は寝室を別にしていて、体を起こすことなく、ぼーっと寝ていた。

すると、彼が私の名前を、絞り出すような声で呼んだ途端、下半身裸のままで、どさっと廊下に倒れこんだ。

慌てて駆け寄り、彼の名前を小さく呼んだ。

彼は答えない。
代わりに、着ているグレーのTシャツがぼつぼつと色を濃くしていき、見る見る間に濃い部分が増え、油汗でにじんでいく。

救急車…呼ぼうか…。

少しの沈黙の後、いや…、と、彼は首を横に振った。

そうして、どれぐらいかたって、彼はのろのろと身を起こし、
温かいお茶…くれる、とだけ言って、トイレに戻っていった。

彼は座椅子にもたれ、温かいお茶を口にしながら、先程の状況を説明した。

腹痛でトイレに入ったのだが、次第に気持ち悪さが強くなってきて、意識が薄らいでいった。
△△(私の名前)に知らせなければと思って、とにかく外へ出てきた…。

その後、彼はゼリー飲料を口にし、薬を飲んで、寝室に戻っていった。

彼は私に知らせるために、意識が遠のくなか、体を外に投げ出した。
動揺することなく、私に心配かけるまいと冷静に指示を出し、
最後に、○○(娘の名前)を起こしちゃったかな、○○をよろしくね、と、気を使ってくれた。

私なら動揺して、泣いてしまうかもしれない。
その前に、人知れず、トイレで倒れているだろう。

先程だって、倒れている彼の前で、何も出来ずに、どんな風に声をかけていいかも分からず、立ちつくしているだけだった。
頭はフル回転していたのだが、つまらないことばかり考えていた。
このまま、吐いたりしたら、汚物はどうやって片付けようかな。
今日、予約していた美容院は無理だな。
今日の昼食どうしようか。
朝食は…食べないかな。

今になって、肝が冷える。
あのまま、救急車を呼んだとしたら、どうなっていたのだろう。
きちんと、症状を説明できただろうか。
家の場所を説明できたのだろうか。
いや、119を思い出してかけられたのだろうか。

寝ている娘を起こして、必要なものを詰めて。
自分も着替えて、保険証を用意して、財布を持って。
病院はどこを指定しようか。
その前に、家に鍵をかけることを忘れないようにしないと。

「このままどちらかが死んで二度と会えなくなるかもしれないのに、最後にこれでは悲しいでしょ」
と提案した彼には、覚悟とか、死への意識も備わっているのだと思う。
一方の私は猿真似をしてきたに過ぎなかった。

いつ、また、こういう状況になるかも分からない。
娘に起こらないとも限らない。
そんなとき、彼や彼女に2度と会えない状況を少しでも遅らせることができるように、私も覚悟と意識を備えておきたい。





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Last updated  2004.08.06 08:15:31
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