テーマ:障害児と生きる日常(4430)
カテゴリ:知的障害児からの脱却
保育園の運動会の全体リハーサルがあり、
仕事をしていない私は、こっそり覗きに行った。 近くの公園に併設された、フェンスに囲まれただけの小さな小さな運動場。 マイクを通した司会進行役の主事の声が、我が家まで聞こえてきそうなほど辺りに響きわたっている。 『かけっこ』と『出し物』。 この二つが娘のクラスの出場種目である。 娘に見つからないようにするのは簡単だ。 そんなに、いや、全く目ざといタイプではない。 が、クラスの一人にでも見つかれば、「△△(娘の名前)ちゃんのママがいるよ」と言われ、娘にバレてしまう。 いや、小さな保育園。 クラスが違う、年少、年中、年長クラスでも、私を見かけて話しかけてくれる子供が何人もいる。 彼らに見つからないように、でも、よく見えるように。 そんな場所を探して、あやしいほどウロウロと、 人の敷地にまで入って、ようやくベターなポジションを探し当てたときには、 娘の出場する『かけっこ』が、今まさに、はじまろうとしている時だった。 運動会の練習を、少しづつ、日々の活動に取り入れはじめた頃。 その様子を連絡ノートなどで確認しながらも、どうしても聞けずにきた。 『娘はどれぐらい練習についてこれていますか』 でも、この全体リハーサルを目前にした、ある日。 胸の中の風船がはじけたかのように、自分でも驚くほど唐突に担任の保育士に聞いていた。 答はある程度、想像した通りだった。 『出し物も、かけっこも、上手にみんなと出来ていますよ~』 娘のクラスの『かけっこ』は、魔女に扮装した担任の周りを、二人で走って回ってくる。 手をつないで、ではなく、2人同時に走りだすが、別々に走って回ってくる。 月齢の高い子供と低い子供と組ませ、低い子供が高い子供を追いかけて回ってこれるようになっているようだ。 娘のパートナーは、女の子では2番目に生まれが早い女の子だった。 心の準備が出来ないまま、娘と彼女の名前が呼ばれ、前へ。 司会進行役のマイクの合図で、走りはじめた。 あっという間に私の前を走り去り、 見えない位置にある折り返し地点を回って、再び私の前へ彼女が現れた頃。 ようやく娘の姿が私の目に入ってきた。 両手をあげて、体のバランスを取り、 一足一足、転びそうになりながら、走る。 まるで1歳の、歩きはじめの子供がやる、それのように、 危なっかしい足取りで、靴をすりながら、それでも走る。 とっくにパートナーがいなくなった『かけっこ』に、 「△△(娘の名前)ちゃん、はじめての運動会です」 「△△(娘の名前)ちゃん、頑張れ、はやい、はやい」 と、司会進行役のマイクを通した高い声が実況をつける。 折り返して、再び私の前に娘があらわれる。 ゆっくり、でも、スピードを落とさず、 ご機嫌のときに見せる満面の笑顔で走り、 ゴールで待っていた担任の胸に倒れるように、クラスの女の子で1番早く生まれた娘は飛び込んでいった。 私は何故だか涙が止まらなくて、突然、降ってきた雨を厭うフリをして、走って、その場を去った。 夕方、迎えに行くと、いつもと変わらない娘がそこにいた。 連絡ノートを開いてみると、 『今日、最後まで走れました。感動しましたよ~』 という一文が目に飛びこんできて、また、涙があふれてきた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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