テーマ:障害児と生きる日常(4430)
カテゴリ:障碍児の保育園生活
『うさぎ』をきっかけに落ち着いた、と思ったのも束の間。
6月に入ると、また、新たな噂が私の耳に届きはじめた。 どうも、娘が、保育園の『障碍児めぐり』をしているらしい、というのだ。 園には障碍児が娘の他に4人いる。 2人は1つ下の2歳児クラスのダウン症児。 1人は、0歳児からずっとこの園にいて、園生活途中に障碍児判定を受けた、年長の知的障害男児。 原因は何も分からず、社会性には問題がないのだが、何故か、言葉が出ず、手先も不器用で、 運動能力もゆっくりで、年長の今でも、まだ、トイレトレーニング中である。 そして、最後の1人が今年から入った年中の軽度の自閉症男児。 娘は、この4人を巡ぐりにめぐっているらしい。 『うさぎ』以来、2人のダウン症児に対しては、姉ぶった態度をとり、面倒をみたり、それは可愛がっていた。 が、2人の年中、年長の男の子2人に対しては、どうも、悪さをしているみたいなのだ。 年長児には強く出ているらしくて、物を取り上げたり、1つ下のダウン症児にしていたみたいに、 首根っこを締めるような抱きつきを、嫌がっても止めないらしい。 が、さすがに体格差もあるし、声の大きさも年少の、それも発達のゆっくりな女の子と彼とでは差がある。また、社会性には問題がないため、こういった接触も彼にとっては、なんだか絡んでくる女の子がいるなぁ、程度の認識らしく、本人が問題にしていることはない。 それどころか、私がお迎えに行くと、私の手を引っ張って、娘の場所を教えてくれるようになった。 きっと、彼は彼で、困った妹の面倒をみている、そんな気分なのだろう。 私が心を痛めていたのは、年中の自閉症の男の子、好太(仮名)君であった。 彼には、もっと、困ることを仕掛けていた。 彼の「こだわり」に手を出してしまうのだ。 好太くんは、慣れない保育園生活で自分を落ち着ける遊びを見出した。 レゴで家を作ることだ。 設計図でもあるのではないか、と思われるような、それは見事で美しい家をレゴで作り、 出来上がったそれを持って、食事の場所に移動して食事をしたりする。 娘は、その、彼の安定剤を壊してしまう、というのだ。 それも、家が欲しくて壊れてしまう、と言った反応ではないらしい。 「その家を壊すと、どういうことになるか分かっていて、わざとやっている」っぽいのだ。 それも、ただ壊すだけではない。 壊したパーツからレゴを1つ抜きとり、隠してしまう、という念の入れよう。 当然、彼はパニックになり、家を作りなおす。 が、レゴが足りなくて完成しない。 娘がレゴを返さないので、教室から保育士がレゴを持ってきて渡すのだが、 同じ色にも関わらず、これではない、と言って、更にパニックになる。 そんなことが何度かあった、というのだ。 「きっとさ、△△(娘の名前)ちゃんは私たちと一緒なんだよ。心を許しやすいんじゃないかな。」 好太くんの母と、そのお宅にお邪魔して一緒に夕食をした際、謝った答えに、こう言われて、はっとした。 一年間。 同じクラスの子どもともコミュニケーションが取れなかった娘が、 まず最初に心を開き、ヒドイ方法ながらもコミュニケーションを取ろうとしはじめた相手は、障碍児だった。 それは、まず最初に出来たママ友が障碍児のママたちだった自分と、なんら変わらないのだ。 「それに、好太(仮名)だって、それも人間関係の良い刺激だからさ。」 そんな話をしている私たちの横で、リビング狭しと走り回っている二人と、好太くんの妹の計3人がいる。 一緒に遊んでいるようにはとても見えないが、でも、お互いの存在は許しているように見えた。 そうやって、何度か交流しながら過ごしていたある日。 通院のため、早めに保育園にお迎えに行くと、娘がまたちょっかい出している場面に出くわした。 思わず、駆け寄って止めさせようと思ったが、別のクラスの中、担任の保育士もいるため、 一瞬、躊躇したとき、好太(仮名)くんが怒って大声で言った。 「んもおぉっ!△△(娘の名前)ちゃん、止めてくださいっ!」 隣にいた好太くんの担任の保育士が、えっ…と声をあげた。 「今、△△(娘の名前)ちゃんって言った?」 今まで、ブロックが壊された事実にパニックになっていた好太君が、こんな風に相手に怒っていくのをはじめて見た、という。 はじめて自閉症児の担任になった彼女の横顔が、安堵した表情に見えた。 1つ下のダウン症児に手をあげていた期間もそうだったが、 次の『障碍児めぐり』の段階でも、保育園から、娘を問題視するようなお話は一切なかった。 いずれも自分が見たり、世間話で耳にしたり、他の子どもから教えてもらったりして、こちらから担任の保育士に聞いて知った話である。 聞くたびに、方々で頭を下げ、迷惑をかけたクラスにも謝りに出向いていたのだが、 その度に、 「気にしないで、お母さん。△△(娘の名前)ちゃんも、どうしていいか分からないだけなのよ」 「どうやったら△△(娘の名前)ちゃんが上手に気持ちを出せるか、みんなで話しているからね、大丈夫よ」 と、言ってもらった。 娘の摂食障害も、給食室まで職員会議に参加して、娘のための対策を考えてくれた保育園である。 素直に任せようと思ったし、きっと私ではどうしようも出来なかっただろう。 「子ども同士から学ぶこともあるのよ」 と言われたら、私はきっと不安になっていただろう。 それは、障碍のない子ども同士の話だ。 ハンディのある子どもには、過保護なほど導いてあげてこそ、ようやく成果が出ることが多い、ということを、誰よりも、その母である自分が分かっていたからだ。 そして、8月になった今。 下のダウン症児二人に対して、特別な行動は何もなくなった。 乱暴もそうだが、特別に可愛がったりすることもなくなった。 年長の男の子の方は、あちらの方が気になるようで、娘がいると飛んできて握手をしたりするが、 娘の方は「あぁ」みたいな対応で、特別な関心を寄せてはいないようだ。 そして、その後、好太くんへの仕打ちも耳に入らなくなっていった。 こんな『障碍児めぐり』の間にも、一年間、ほとんど交流していなかった同じクラスの子どもとの関係にも、 少しづつだが兆しが見えはじめた、と、感じる出来事が、また幾つもあった。 次は、これも書き残しておきたいと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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