心理的契約の所在 (1)
最近特に重要視される概念のひとつに、従業員と組織(企業)の間での「心理的契約」(psychological contract)があります。これは、従業員の組織に対する愛着、同一化、忠誠心といった古典的なコミットメントとも関わりがあり、従来型の「自分は組織に対し、これだけの貢献をした、だから、その報酬としてこれだけはくれるだろう」という交換関係とその予測を、さらに心理的な水準まで掘り下げたものです。さらに言えば、自分の業績、貢献度といったインプットに対し、組織がどれだけ報酬をくれるか、インプットに見合ったアウトプットとしての報酬がきちんと釣り合っているか、という公平概念、そしてその内容・手続きは正当か、という公正概念が反映されています。ちょっとややこしい説明になりましたが、こう考えるとわかりやすくなると思います。成果給制度のもとで、目標を100%達成すれば1,000万円の年額給与が得られる約束を会社と結んだとします。その時には、毎日顔を合わせている上司との面談で決まったことなので、特にその契約を文書にしたり、署名捺印するということもありませんでした。他の同僚も同様です。順調に目標をこなして、年度末の締切日にはちょうど100%の目標が達成されたとします。当然1,000万円が報酬としてもらえるものと期待していたら、800万円に減らされており、上司の説明は、「最近景気が悪化して我が社も苦しい・・・状況が変わったんだ、わがまま言うんじゃない」だったらどう感じるでしょう。さらに、自分以外のその他の同僚が全員、100%の目標達成に対して満額給与支給がされていたとしたら。これは組織による裏切り・いじめ・不法労働行為と感じないでしょうか。また、自分に対してそのような対応をとった所属先にコミットし、愛着を感じたり、心理的なインプットをしてその見返りを必要十分に得られるものと、それ以降思えるでしょうか。(続く)