2005/09/10(土)10:53
読書「愚か者の祈り」
「愚か者の祈り」 (ヒラリー・ウォー/創元推理文庫)
とある公園で顔を潰されたスタイルのいい女性の惨殺死体が発見される。身元が分かりそうなものは、古ぼけた指輪一つ。警察は彼女の身元を確認し、ついで空白の五年間を追い、犯人と動機を探っていく。
簡単に書くと普通の推理小説に思えるかもしれないが、決してそうではない。ヒラリー・ウォーらしく、警察の地道な努力と勘、或いは経験など丁寧に描いていく。捜査の細かな手順など、非常に説得力もあり、また選挙を控えた市長の横やりなど、やけにリアル。
まず被害者の身元割り出しに一苦労。分かったと思うと、今度は家出してから殺されるまでの五年間の足取りをたどらねばならない。苦労してたどっていくうちに、浮き彫りにされる一人の少女の人生。それは誰にでも起こりうることかもしれない。彼女だけが特殊なのではない。栄光を夢見て挫折し、それでも諦めずに立ち向かいつづけた一人の女性。
なぜ彼女は殺されたのか。
悲しい結末。
犯人は出てきた瞬間に分かってしまったものの(今回は動機もすぐに分かった)、警察が確実に証拠固めしていくさまが非常に面白い。
さらにヒラノー・ウォーの特徴の一つである「人間描写」(人物描写ではない)が相変わらず素晴らしく、夢中になってしまった。
社会派だと思う、この作者は。
読み応えがあり、テーマがあり、訴えるものがある。
そのメッセージ、毎回私なりにしかと受け止めてる・・つもり。
いい作家だなあ。