記憶を探して (楊・良月)記憶を探してー オープニング ー アンティークショップ・レンの店主碧摩・蓮はある場所へと向かい歩いていた。 それは碧摩・蓮が頻繁に不思議な品物を手に入れる場所で少し変わった場所だった。 古い洋館の前にたどり着くと碧摩・蓮は呼び鈴を鳴らした。 と同時に扉が開き 「待ってたわよ、蓮。」 とその洋館「鏡の館」の主である由比真沙姫が現れた。 碧摩・蓮を居間に案内すると由比真沙姫はソファに座り用件を尋ねた その問いに碧摩・蓮は珍しく言葉を濁しながら一つの品をテーブルの上に出した。 「電話で話したのはこのオルゴールさ。入荷したのはいいが返品が続いてね。」 ため息を深くつくと碧摩・蓮は真沙姫に向かい言い放った。 「あんたの所で手に入れた品だったと記憶しているけど、一体なんなんだい?買った人間皆が口を揃えて悪夢を見るって言うんだよ。売るにしても何とかしないとこっちの商売上がったりだよ。」 碧摩・蓮は真沙姫に向かい少し怒り気味の口調で言ってみせた。 真沙姫はオルゴールを手にすると少し微笑み 「悪夢ねぇ。そう思うならこのオルゴールの持ち主にはふさわしく無いって言う事ね。まあ、そのうち本当の主が現れるわよ」 どうも由比真沙姫は碧摩・蓮の言葉を聞き入れる気が無いようだ。 碧摩・蓮は由比真沙姫を説得し返品するという事をあきらめ鏡の館を後にした。 アンティークショップ・レンにたどり着き扉を開けようとすると碧摩・蓮の後ろから声が聞こえた。 「あ、あの」 碧摩・蓮はその人物と手に持っていたオルゴールを見つめた。 (この人物が真沙姫の言う本当の持ち主なのかねぇ) 由比真沙姫の言葉を思い出すと碧摩・蓮は 「まあ、お入りよ。話は中で聞こう。」 そう言うとその人物とともにアンティークショップ・レンの中へと入って行った。 ー 楊・良月とオルゴール ー 「うーん、良いお天気。ぽかぽか陽気で気持ちいいなぁ」 楊・良月はそう言うと大きな伸びをして見せた。 赤い瞳に小麦色の肌。そして女性としてはかなり魅力的な体。 しかし、楊・良月は人間ではない。 仙人の中でも最高位に属する天仙だ。見かけは20代前後の女性だがその力は人とは比べ物にならない。 しかし性格は天真爛漫で純粋そのもの。人畜無害といった感じだ。 部屋の窓から差し込んだ光に銀色の美しい髪が輝き、一つにまとめた髪の毛が嬉しそうに揺れ始めた。 髪の毛が嬉しそうに左右に揺れている時、それは楊・良月がご機嫌な証拠だ。 親しい人間は髪の毛が揺れる様が”まるで犬のようだ”と言い、親しみをこめて「わんちゃん」と呼んでいる。 しかし楊・良月はそれが気に入らない様子で「わんちゃんと」呼ばれるたびに頬を膨らませて怒って見せる。 「さーてと、ではお買い物にしゅっぱーつ」 楽しげにそう言うと楊・良月は家から外へと飛び出した。 楊・良月はこの街に来てまだ日が浅い。買い物といっても町の探索も兼ねているので、昼頃に外に出ると帰るのはいつも夕方だ。 「ふふん、らららー」 天気が良いからか楊・良月は鼻歌交じりで髪の毛を揺らしながら目的の店へと向かった。 いつも通るお決まりの道だ。 そんな時、一件の家から美しい音色が聞こえてきた。 ふと、音色の方向を見ると大きな家のテラスで一人の少女がオルゴールの音色に聴き入っていた。誰かに買ってもらったばかりなのだろうか。 オルゴールの置かれているテーブルには薄いグリーンの箱とオレンジのリボンが置かれていた。 少女がオルゴールに聞き入る様子を見て楊・良月は数日前の事を思い浮かべた。 「オルゴールかぁ。そういえば蓮さんのところにオルゴールがあったなぁ」 この前ふと訪れた不思議な雰囲気を持つ女性、碧摩・蓮の店アンティークショップ・レン。 そこにあったのは美しい装飾のひとつのオルゴール。 中央に青い石がはめ込まれ周りにはバラの模様が描かれている。かなりの年代物の品だ。 その美しいデザインを楊・良月はいたく気に入りオルゴールの事を尋ねたが碧摩・蓮はそっけなく 「おやめよ。それは返品が続いているいわく付きのものさ。買うのなら良く考えてからお買い」 と言った。楊・良月はその言葉にその日は店をあとにし、家路についた。 「やっぱり気になるなぁ」 そう言うと立ち止まりオルゴールの音色を聴きながら少し考えた。 「うん。やっぱり買いに行こう!」 楊・良月はそう言うと方向を変えアンティークショップ・レンの方向へと歩き始めた。 数分後。 楊・良月はアンティークショップ・レンの前にたどり着いた。 しかし扉にかかっていたのは「閉店」の文字。 中を覗くが碧摩・蓮がいる様子がない。 「いないのかぁ。仕方ないです」 そう呟き来た道を数歩歩いた時、後ろから店の鍵を開ける音が響いてきた。 その音に楊・良月は振り向くとそこにいたのは碧摩・蓮。 楊・良月は駆け寄り迷わず声をかけた。 「あ、あの」 碧摩・蓮はその声に振り向くと手に持っていたオルゴールと楊・良月を見つめ、少し笑うと声をかけた。 「まあ、お入りよ。話は中で聞こう。」 そして二人は店の中へと入っていった。 ー オルゴールと中に棲む者 ー 「やっぱりこのオルゴールが気になって来たのかい?」 碧摩・蓮はオルゴールを店のカウンターに置くと傍の椅子に腰をかけた。 カウンターに置かれたのは先日の美しい装飾のオルゴール。 中央の青い石が妖しく光を放っている。 楊・良月はそのオルゴールに手を伸ばすと碧摩・蓮を見つめた。 「手に取ってもいいですか?」 その言葉に碧摩・蓮は黙って頷いた。そして独り言のようにオルゴールの事を話し始めた。 「始めはねぇ、オルゴールの美しさに惹かれて買っていく人がいたんだよ。いい値で売れたよ。でも、その買い主が次の日『悪夢を見た』ってオルゴールを返しにきたのさ。それが何人か続くと噂はたちまち広まりオルゴールは売れなくなったのさ」 楊・良月はその言葉を聞くとオルゴールをじっと見つめた。”何か悲しげな感じがする”そう思うと、静かにオルゴールの蓋を開けた。そこからは悲しげな音色が流れてきた。 「悲しい音色だねぇ」 碧摩・蓮は寂しげに呟いた。 その言葉に何かを決意した楊・良月は碧摩・蓮へ振り向くとポケットから財布を出した。 「ボクこれ買います。だから今少し調べさせてもらってもいいですか?」 楊・良月の言葉に碧摩・蓮は頷き 「ああ、好きにおし。値段はタダででいいよ。また返品になるだろうからね」 その言葉を受け楊・良月は符をとり出しオルゴールに施した。 碧摩・蓮の話からオルゴールの中に何かが入っている事を感じた楊・良月は残留思念を投影化する為符に向け念を込めた。 しかし、思念は朧げにしか映らず、それがが人であるのを感じたが、男性か女性かはたまた大人か子供かかさえ分からなかった。 「うーん、これじゃあ妖魔の類が憑いているのかもわからないなぁ」 楊・良月は顎に手を付け悩んで見せた。 「とりあえず持ち帰って調べておくれ。他のお客が来たからね」 碧摩・蓮のその言葉に楊・良月はカウンターに出した財布をポケットにしまうとオルゴールを抱えた。 「蓮さん、ありがとう。また来ます」 そう言うと楊・良月は他の客にぶつからないよう静かに歩き店を後にした。 「悪夢を見るオルゴール・・・」 楊・良月はそう呟くとオルゴールを見つめた。 ー 悪夢の正体と楊・良月 ー 「さてと。わからない以上確かめるしかないなぁ」 楊・良月は布団をひくと枕元にオルゴールを置いた。 眠って悪夢を体感する事で、楊・良月は原因と自分の感じた物を確かめようと考えたのだ。 「では、おやすみなさい」 そう言うと布団の中に潜り込み楊・良月は夢の中へと旅立った。 数分後。 静かな寝息が楊・良月の部屋に聞こえ始めた。 「さーてと。どこにいるのかなぁ?」 楊・良月は夢の中でオルゴールの住人を探し始めた。 普通の人間なら出来るはずはないが、楊・良月は仙人。こんなことは訳もない。 夢の中でしばらく待つと変化が起き始めた。 オルゴールの音色が聞こえてきたのだ。 楊・良月はその音色のする方へと歩き始めた。 「ん?青い石?」 そこにあったのはオルゴールにはめ込まれているはずの青く美しい石。 楊・良月は石を手に取り耳に当てた。 「ここからオルゴールの音色が聞こえてる」 そう言った瞬間だった。 青い石が黒く変わり周りを闇で包んだ。 そしてその闇は楊・良月をも飲み込もうとした。 「もう!ボクを飲み込むとひどい目にあうよ」 楊・良月はそう言うと青い石に向かい符を投げつけた。 「グ!」 青い石は声を上げ人の形を成さぬ妖魔となった。 妖魔は苦しみながらも楊・良月へその鋭い爪を向けてきた。 「わ!」 楊・良月は声を上げその爪をかわした。符はまだ妖魔についたままだ。 「あとはボクが力を込めれば完成!」 妖魔の攻撃をかわしながら楊・良月は中国武術を巧みに使い妖魔に近づいた。 「残念だったね」 妖魔の腕をつかむと楊・良月は少し笑い妖魔の額に付けた符に力を込めた。 「や!!」 楊・良月の力は符を通し妖魔に行き渡った。妖魔は光に包まれ楊・良月はその変化を見つめた。 「ひっく。う」 光がおさまると誰かの泣き声が聞こえてきた。 そして妖魔がいたはずの場所には幼い少女が立っていた。 「ごめんなさい。ごめんなさい」 少女は楊・良月に向かい泣きながら謝った。 そんな少女を優しく抱きしめると楊・良月は少女に囁いた。 「もう大丈夫だよ」 少女はその言葉を聞くとさらに大きな声で泣き出した。 楊・良月は少女が泣きやむまで優しくその体を抱きしめた。 ー オルゴールと少女 ー 「キミは何で妖魔になっちゃったのかな?」 少女が泣きやむのを待って楊・良月はずっと抱いていた疑問を少女にぶつけた。 「私、病気でずっと家の中にいたの。お友達が欲しいって考えていたらいつのまにかあんなことになっていたの」 少女は腰までの黒髪を揺らし、大きな瞳を楊・良月に向けて答えた。 「いつもお外を見ては元気に遊んでいる子がうらやましかった。憎かった。でも私もお友達が欲しい、そう思っていたら黒いものが私を包んでいたの」 「オルゴールはキミのなの?」 楊・良月がそう聞くと少女は黙って頷いた。 「ベッドの横に置いていつも聞いていたの。誰もいない時はオルゴールに向かって話しかけたりしてた。だからオルゴールの中に入っちゃったのかもしれない」 少女は心配そうに楊・良月を見つめると言葉を続けた。 「お姉ちゃん。私、消えちゃうの?ここからいなくならなきゃ駄目?」 悲しそうなその声に楊・良月は少女の肩を優しく抱きしめた。 「ううん。消えなくて良いよ。悪いのはボクが退治したから。ボクでよかったら友達になってあげるけど、どうかな?」 その言葉に少女は楊・良月に抱きつくと嬉しそうに言った。 「ありがとう。お姉ちゃん大好き」 「また、夢の中でね」 楊・良月はそう言うと夢の中から現実へと戻っていった。 不思議なオルゴール。 これからは悪夢は見ない。 これから見る夢は幸せな、幸せな夢。 楊・良月は小さな友達が出来た事を考え一人微笑んだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー このページに掲載している作品は(株)テラネッツが運営するオーダーメイドCOMにて製作した物です。 イラスト又は文章の使用権は各作品を発注したお客様に、著作権は『月宮 蒼』に、全ての権利はテラネッツが所有します ジャンル別一覧
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