最終日
この日、オレはファッションショップの店員として最後の日を迎えた。最後だからといってもちろん仕事は甘くない。平日だったが、売変作業と棚卸しが大量にオレを待っていた。今日が最後という余韻に浸る余裕は一切無く、この日はあまりの忙しさに、勤怠を切ったのは通常の勤務終了時刻よりも1時間以上後のことだった。最終日も相変わらず駆け抜けて、オレのバイト生活は幕を閉じた。まぁ、この仕事らしい終わり方だな、と自然と笑みがこぼれた。おもしろかったな。このバイトを通じて、オレが学んだものは大きい。なにより社会の厳しさを知ることができた。ノルマを達成しなければ、バッサリと切られる恐怖。常に「ファッション」を意識するプレッシャーと義務。すべてを把握しなければいけない視野。そして、ファッションスタッフとしての誇りと、ブランドを背負う責任。ここにはオレの知らない世界が広がっていた。オレはこのバイトをする前から、「オシャレ」するのが好きだった。そんな軽い気持ちでファッションショップの門を叩いた。そして今。「オシャレ」するのが好き、という気持ちから、「ファッション」を求める、という考えが生まれた。そう。「オシャレ」ではない、「ファション」という確立された分野を追求する意識へと、持つべき意識が変革されたのだ。店長はオレに、絶対的に持って欲しい考えを伝えてくれた。「ファッションとはこだわりです。そのファッションがファッションとして成り立つのか、それを追求し完成させるものです。」ファッションに対し、高いモチベーションを持ち、「これ似合いそう」という気持ちだけでなく、トータルコーディネートとして客観的にファッションを捉え、完成度をより高い部分へ持っていく。それは、紛れもない「こだわり」そのものだと。これこそが、ファッションなのだと。オレは今でも、服を見るときはその服ひとつだけではなく、その服の着こなし、トータルのバランスを頭の中に架空のコーディネート像を描き、観察してしまう。…もはや職業病だ、癖だ。いいんだか悪いんだかは良く分からん。まぁだからといって、言葉で言うほど、固く熱いもんじゃない。ただひとつ言える事。それは、この経験が必ず後に大きく役立つであろうことだ。この経験をオレは絶対忘れない。ひとつひとつのスキルが染み込んだからこそ、またそれを武器としてこれからの戦いに活かしていきたい。理想と現実は違ったが、得たものは大きい。一回り大きくなったことを実感し、新たなステージへと足を進める。オレは今、前へ進んでいる。