翼が欲しい?
4月から始まったNHK朝ドラ「虎に翼」は、男尊女卑の時代に生まれた猪爪寅子(いのつめともこ、渾名はトラコ)が人権意識に目覚め、女性初の弁護士・判事・裁判所長として活躍する姿を描く。モデルとなったのは三淵嘉子(武藤嘉子、1914-84)で、女性に法学の門戸を開いていた唯一の大学である明治大学に進み、1940年、同窓の中田正子や久米愛と共に女性初の弁護士となった人である(以下は主としてWikipediaを参照した)。 1941年、嘉子は武藤家の書生をしていた和田芳夫と結婚したが、太平洋戦争の勃発により、1945年に長男や弟の妻子と共に会津へ疎開。夫の芳夫は召集先の中国で発病し、1946年に長崎で亡くなった。1947年、嘉子は司法省に裁判官採用願を提出し、1949年に東京地裁判事補、1952年に名古屋地裁判事となった。1956年、同業の三淵乾太郞と再婚する。この年には、いわゆる「原爆裁判」を担当。国の賠償責任については請求を棄却したが、一方で「原爆投下は国際法違反」と明言し、注目された。 「虎に翼」は、古代中国の思想家・韓非(かんぴ)の言葉。Wikipediaでは「鬼に金棒と同じく、強い上にもさらに強さが加わる、の意味である」としているが、これは半分誤りで、本当は「権勢は人を従わせる大きな力であるがゆえに、それを扱う者が賢良かつ有能でないと、恐ろしいことになる」というのが正しい。夫れ勢は、治に便にして乱に利なる者也。故に『周書』に曰く「虎の為に翼を傅(つ)くる毋(なか)れ。将に飛びて邑(むら)に入り、人を択(と)りてこれを食らわんとす」と。夫の不肖の人を勢に乗ぜしむるは、是れ虎の為に翼を傅くる也。(『韓非子』勢編) すなわち、為政者が虎で、権勢が翼。虎に翼を付けてやったら、村に飛んできて人を食うようなことになるかも知れぬ。古代の聖王とされる堯(ぎょう)や舜(しゅん)なら良くて、悪逆を尽くした夏王桀(けつ)や殷王紂(ちゅう)は駄目だと言っても、堯・舜や桀・紂は特別な存在で、千世に一人出てきただけでも大変な珍しさである。だから中程度の、特別ではない人物が権勢を持てば世は治まるというもので、それを待つ方が現実的だ、と韓非は言う。 これを法律の話に置き換えれば、裁判官が虎で、法律が翼。裁判官は法律を恣意的に運用することがないよう、常に自らを戒めよ、という意味が込められたタイトルだと思うが、どうか。