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南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

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 (5)カウノスの遺跡


《2月―銀色の休日》 ~2003年2月の記録

 ∬第5話 カウノスの遺跡

夜が明けると雨は止み、風は随分おさまったようだった。
多少ホッとはしたものの、まだ不安の種は消えていなかった。
いったん舟が走り出せば、強い川風が骨身に沁みるだろうし、相当な揺れを我慢しなければならないのでは、と。
なにはともあれ、出発しないことには。前日のうちに話をつけておいた舟の船長は約束の時間になっても現れず、急遽ホテルの懇意の船長に舟を出してもらうことになった。

リキア式岩窟墓群


右手にリキア式岩窟墓群を見ながら、最初の目的地カウノスの遺跡に向った。
次第に雲の切れ間から薄日が差し込みはじめ、舟を降りる頃にはポカポカとした日差しを感じることができるほどになった。
言われなければ、どう見ても船着場とは思えない浅瀬で舟を下りると、カウノスの遺跡までは、車1台がやっと通れるくらいの農道を約10分の道程。

道端にはすでに春の花が咲き始めていた。パパティヤ(カモミール)に似た小さなマーガレット様の白い花。黄色いタンポポ。
特筆すべきは紫色のアネモネ。ややラベンダーがかった優しく気高い紫色をしている。
我が家の周辺に取り残された空き地で美しく可憐な花を咲かせていた鮮紅色のアネモネとの出会いは、前年の3月のことだったが、再びアネモネの咲く季節を迎えたこと、初めて見た紫色の野生のアネモネに感動を覚えながら、子供たちが夢中で花を摘む脇で、私は何輪かのアネモネに夢中でカメラを向けていた。

野生のアネモネ


カウノスの遺跡は、アクロポリスと要塞がそびえる険しい岩山と、その下に位置する劇場や浴場、教会の点在する丘、港と港の近くに設けられたアゴラ(広場)のある開けた平地の3層構造となった都市で、私たちが辿り着いた入り口は、教会や浴場のある丘に位置していた。

日差しを遮るもののない丘の上で、ようやくコートを着ていては汗ばむほどの陽気に恵まれ、教会、浴場、劇場の順番に遺跡の中を散策していった。
この丘からは遥か下に位置する旧港やアゴラがきれいに見晴らせ、そちらの方まで散策の足を伸ばしたかったものの、長々と先まで続いている小道を子供連れで歩く勇気が持てず、丘の上に残る遺跡群だけで良しとした。
またアクロポリスのある山上からは、遺跡全体のみならず、ダルヤン川の蛇行する様子、イズトゥズ海岸の方まで見晴るかすことができ、たいそう景色が素晴らしいとの事だが、こちらは最初から無理と諦めていた。

劇場から古代港を遠望


帰りの農道で、例のアネモネを1本手折ってガイドブックの中に挟みこみ、押し花にした。今この文章を記しながらガイドブックを開いてみると、花びらの甘い紫色と、雄しべの一段濃い紫色のバランスも見事なアネモネがパッと目の前に現れ、若草の萌える丘に点描のように小さな紫色を散りばめていた野生のアネモネの鮮やかな印象が、今更のように蘇ってくる。

当初の予定では、あれこれ欲張らず、カウノスの遺跡を終えた後は昼食を取り、午後からは温泉だけというつもりだった。
しかし、時計を見ればまだ12時。幸い天気も回復したことだし、もう少し舟下りを続けて、イズトゥズ海岸まで、エーゲ海への入り口まで行ってみることにした。

 (つづく)


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