2008/06/02(月)12:21
ちょっと泣ける話
新耳袋(第8夜)の中に、こんな話もありました。
__________
太平洋戦争中の話である。
その人は当時、南方のとある島で戦っていた。
(中略)
手にする三八銃だけが頼りと抱き締めるようにして、ただただ朝を待った。
ふと人の気配がして、はっと身構えた。
その目の前を母親が歩いている。
漆黒の密林を、田んぼのあぜ道を歩くように横切って歩く母親。
背中が見えかけたところで、ふっと消えた。
『ああ、おふくろが、今、死んだ。』
と思った。
(中略)
戦後、奇跡的に内地に戻れた。
家に帰りつくとすぐに、家の者に母親の安否を問い質した。
『亡くなった日はもしや・・・?』
その日付までを正確に知っている事に皆がひどく驚いた。
理由を話すと、
『お前に会いに南方まで・・・』
とおやじが沈んだ。
母は会いに来てくれたのではない。
自分を一緒に村まで連れて帰りにきてくれたのだと思った。
戦地で会った母の姿が、子供の頃、夕方暗くなるまで
時間を忘れて遊びつづける自分を迎えに来てくれた姿と
同じだったことに、はじめて気がついた。
『早く家に帰ろう』
という母の姿と戦地での母の姿が重なって、声を出して泣いた。
いつまでも涙が止まらなかった。
おふくろは生まれてから1度も、村を出たことのない人でした、
と語り終えた。
__________
この方、今、何歳?というツッコミは止しておきましょう。
亡くなられる前に、戦地に、
『早く家に帰ろう』
と迎えに来られたのは、早く戦地から帰らせたいがための、
最後の母親のお迎えだったのでしょう。
そんな母心が哀しいです。
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