|
|
|
2010.09.07
観光スポットとして知られる東京・浅草寺の雷門前で、地元の台東区が
建設工事を進めている高さ約４０メートルの「浅草文化観光センター」をめぐり、 軋轢（あつれき）が生じている。浅草寺側が「建物が高すぎて歴史的な景観が 損なわれる」と異議を唱えているのに対し、区側も「観光情報コーナーなど 必要な機能を備えさせた結果、この高さになった」と譲らない。全国でも同様の 景観トラブルが相次ぎ、訴訟に発展するケースもある。果たして景観に調和して いるか否かはどのような基準で決まり、景観の恩恵はどこまで守られるのだろうか。 ■「雷門が日陰」浅草寺は不快感 浅草仲見世商店街の前にそびえ立つ浅草寺の総門、雷門（高さ１１・７メートル）。 門前の歩道を埋める観光客たちが雷門をバックに記念撮影を行う傍らでは、ねじり はちまきの人力車の車夫たちが威勢良く声をかけている。外国人たちの姿も多く、 ガイドブックに目を走らせる。 この雷門の斜め向かいで建設工事が進められているのが、「浅草文化観光センター」だ。 同じ場所にあった２階建ての旧センターが老朽化のため取り壊され、来年１２月に 地下１階、地上８階建ての新センターが誕生する予定だ。 この新センターがいま、浅草の町で物議を醸している。異議を唱えているのは浅草寺で、 同寺の守山雄順（ゆうじゅん）執事長はこう訴える。 「観光振興につながるセンターの建設そのものに反対しているわけではないのだが 内容に問題がある」 台東区によると、新センターは日本家屋の平屋を積み重ねたような外観のデザイン。 有識者や地元観光関係者、区議らで構成するセンター整備検討委員会が、約３００の 応募作品の中から選んだ。 外国人観光客から要望の多い外貨両替所、書籍が置かれた観光情報コーナー、喫茶店、 会議室などが備わり、高さは４１・２５メートル。最上階の展望テラスからは雷門、 浅草仲見世商店街、本堂といった浅草寺一帯の景色を一望することができる。 夜間には浅草寺がライトアップされており、区関係者は「展望テラスから見える 浅草寺の景色は大きな魅力になる」と期待する。 だがこの高さに浅草寺側が反発する。区によると、建物の高さなどから計算したところ、 冬至の日に１時間、雷門は新センターの日陰になるという。 守山執事長は「雷門が日陰になれば、門でお奉りしている風神、雷神にも申し訳ない。 また実際にセンターが建設されたら、圧迫感を感じるのではないか」と不快感を あらわにする。 ■「楳図さんの赤白外壁」や「ポニョ」も訴訟に 浅草寺は昨年９月、西側約４００メートルの地域で建設が進む高層マンションをめぐり、 景観が損なわれるとして、建物の高さなどの規制を緩和できる「総合設計許可」処分を 出した都を相手取り、処分の取り消しを求めた訴訟を起こしている。 守山執事長は「裁判を起こすことで景観問題に一石を投じたつもりだった。それなのに、 『歴史、文化のまち』を掲げる区が雷門周辺の景観を損なうような建物を建てることに 違和感を覚える」と怒りが収まらない。 全国では景観をめぐるトラブルが後を絶たず、訴訟に発展するケースも少なくない。 そこで争点となるのは良好な景観の恩恵を享受する「景観利益」が侵害されているか どうかだ。 東京都国立市の住民らが高層マンションの高層部分の撤去を求めた訴訟では、最高裁が １８年３月、景観利益について「法律上保護に値する」と初判断を示した。その上で 違法な侵害としては「刑罰法規や行政法規の規制違反、公序良俗違反や権利の乱用」 などが該当するとして、保護の条件を限定した。 漫画家の楳図かずおさん（７３）が東京・吉祥寺に建設した自宅の赤白しま模様の 外壁をめぐり、近隣住民が「周囲の景観を破壊する」として外壁の撤去を求めた訴訟 では、東京地裁が昨年１月、「（楳図さん宅のある地域は）壁の色彩に関する条例 などの法的規制や住民間の取り決めはない。保護されるべき景観利益があるとはいえ ない」と指摘して、原告側の主張を退けている。 また江戸時代の港と町並みが残り、アニメ映画「崖（がけ）の上のポニョ」の舞台と される広島県福山市の景勝地「鞆（とも）の浦」も訴訟で揺れた。 鞆の浦の埋め立て架橋事業をめぐり、反対派住民らが知事の埋め立て免許差し止めを 求めて広島地裁に提訴。地裁は昨年１０月、「鞆の浦の文化的、歴史的景観は国民の 財産というべき公益で、事業で重大な損害の恐れがある」と免許差し止めを命じた。 県は同月に控訴している。 こうした景観訴訟が相次ぐ一方で、景観保護の動きも広がっている。１６年に施行 された景観法により、「景観行政団体」である自治体が「景観計画区域」を決めて 条例を制定し、建築物のデザインや色彩が周囲にそぐわない場合には変更命令を出す ことができる。 都道府県や政令市、中核市が景観行政団体となり、そのほかの市区町村が同団体に なるには都道府県知事の同意が必要。国土交通省によると、同団体の数は今年８月 １日時点で４５３自治体に上る。 浅草文化観光センターは景観法上、どのような位置づけになるのか。 台東区は景観行政団体ではなく、東京都の景観計画区域となる。高さ６０メートル 以上か延べ床面積３万平方メートル以上の建物は事前に都に届け出て、色彩などに 関する景観形成基準に適合させる必要があるが、浅草文化観光センターは高さ ４１・２５メートル、延べ床面積は約２１７０平方メートルとなるため、景観法上の 届け出義務はない。 ■「浅草寺あっての浅草」話し合いを継続 だが台東区には独自の景観まちづくり条例があり、地域の歴史性や景観資源を大切に することなどを謳（うた）った「景観形成ガイドライン」がある。公共施設や大規模な 民間施設を建設する際には、デザインなどがガイドラインに適合しているかを有識者 らの景観アドバイザーが審査する。 センターは景観アドバイザーによる審査を通っており、同区の担当者は「景観上の 問題はないと考えている」と強調している。 同区と浅草寺の間ではたびたび話し合いの場が設けられてきたが、具体的な歩み寄りは なかったため、浅草寺は仲見世商店街振興組合と歩調を合わせた上で、今年３月、 区長と区議会にセンターの高さを低くするよう求める陳情を行った。区議会の文化 ・観光特別委員会は陳情について「継続審議」とする一方、区に対して浅草寺側と 話し合いを続けるよう求めた。 区は予定通り工事を進めるとしており、両者の溝は簡単には埋まりそうにない。 デザインを決めたセンター整備検討委に浅草寺は参加していなかったが、この点に ついても区側が「委員就任を打診したが断られた」と説明すれば、浅草寺側は 「立ち話の中でそのような話はあったかもしれないが、文書で正式に要請されていない」 と反論する。 区によると、浅草地区の観光客数は１８年度が１９６７万人、２０年度が２０６２万 ９千人と増加。隣接する墨田区では東京スカイツリーが２４年春に開業を予定しており、 台東区は観光客数がさらに増加するとみている。 台東区は新センターを観光客の受け皿と位置づけており、「『浅草寺あっての浅草』と いう気持ちはある。丁寧な話を進めていき、浅草寺に納得してもらえるように努力して いきたい」と話している。 工事は現在、旧センターの解体を終え、新センター建設に着手するための準備を進めて いる段階。景観に関する提言などを行うＮＰＯ法人「景観デザイン支援機構」の土田旭 代表理事は「完成イメージ図を見る限り、浅草の歴史的な景観と合っているデザインと いう印象を受ける。ただ地元で高さについて反発があるのなら、区側はしっかりと 話し合いを進め、柔軟に対応してもいいのではないか」と提言している。 ●浅草寺の雷門 http://www.sankeibiz.jp/images/news/100829/mca1008290702001-p1.jpg ●浅草寺の雷門前で建設計画が進む浅草文化観光センターの完成イメージ図 http://www.sankeibiz.jp/images/news/100829/mca1008290702001-p2.jpg ◎ソース http://www.sankeibiz.jp/macro/news/100829/mca1008290702001-n1.htm お気に入りの記事を「いいね！」で応援しよう
最終更新日
2010.09.07 19:17:21
コメント(0) | コメントを書く
[携帯電話・mobilephone・スマートフォン] カテゴリの最新記事
|
|
