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2013.11.02
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テーマ:お勧めの本(7394)
カテゴリ:科学
「天才数学者たちが挑んだ最大の難問」
・・・フェルマーの最終定理が解けるまで
アミール・D・アクゼル著 ハヤカワ文庫 630円

拙ブログにコメントを下さるkopanda06さんにご紹介いただいた本です。
先ず、此の本は定理の証明の解説書では無く、其れに関わった数学者達のドキュメントとしての「物語」であり、数学に関する専門知識は殆ど必要ない事を前置きしておきます。若干の部分で楕円曲線だのトポロジーといった専門用語が出て来て理解に苦しむ展開になるやもしれませんが、素通りして数学者達の物語を楽しむ事に専念しても何ら著者の意図から外れませんし、面白さが削がれる事も無いであろうと思います。


(「Xのn乗 + Yのn乗 = Zのn乗」において、

        nが2より大きい時に自然数の解を持たない。)

17世紀にピエール・ド・フェルマーが提示した定理の内で、最後まで証明も否定もされずに残った定理なので最終定理という名称になっている様です。証明されるまでの理論には通常「予想」が使われるので「フェルマーの最終予想の証明」という表記も見受けます。
n=2なら三平方の定理が否定していますね。一見すると中学校の数学の証明問題かな?と思う位のシンプルな印象を受けるのですが、この本は導入部として紀元前古代バビロニアをルーツとする数学史・文化史の解説から語り始め、現代に至る天才数学者達のトピックを偉業とエピソードを絡めながら読ませる事で、フェルマーの最終定理の証明が如何に至難であるかという認識に我々を近づけてくれます。
数学史には人間そのものを考える時にも参照されるべき面白さを感じますし、天才数学者達が苦み抜く事で証明の難解さは伝わって来ますが、当然この定理の証明の過程も正体も最後まで私には理解不能です。しかし、それでも納得して読み進む事が出来るこうしたポピュラーサイエンスが成り立つ背景には、数学・科学という学問への人類の圧倒的な信頼がある様に思います。


(栄光なき天才達に祝福を)
「フェルマーの最終定理」は1995年に米国のアンドリュー・ワイルズによって証明されます。彼はこの証明を「20世紀の証明だ」と表現し、それが著者の当書出版のモチベーションにもなっている様に思います。この表現は端的には20世紀の数学者達と古の数学者達の成果の蓄積があってこそ「証明」は成されたというありきたりの意味を持つ謙遜ですが、何れの分野の研究でもこの構図で偉業は成されるものであり、何らワイルズ一人の功績が色褪せるものではありません。ただ、数学者達の業績への評価は彼等の人間として辿った運命と切り離す事は不可能で、そこにスポットを当ててワイルズの成果(ワイルズの運命)との因果を考える時、彼等の目立たぬ業績を「知らしめる事」で少しでも報いたいという気持ちが人間に湧くのは至極当然な事なのかもしれません。当書ではワイルズの成果の糧となる遺産を残した者としてポアンカレやガウス、オイラーといった超大家の名も挙がりその存在感に圧倒もされますが、「物語」は失意の内に死んで行った「栄光なき天才達」にこそ祝福を与えようとし、読者もまたそれを望みます。

エヴァリスト・ガロア(フランス)1811~1832
  不条理な決闘にて20歳で死亡
ニールス・ヘンリク・アーベル(ノルウェイ)1802~1829
  貧困・窮乏の内に結核死
谷山 豊(日本)1927~1958自殺

彼等は代表的な「栄光なき天才達」だと思われます。
いずれもガロア理論、アーベル群概念、谷山=志村予想といった数学界に名を残す業績がありワイルズの成果に決定的な影響を与えていますが、不遇と失意の内に若くして亡くなっています。政略と智謀による不遇も運の内と言ってしまえば身も蓋もありませんが、こうした難問証明の様な歴史的偉業の評価が成される時、受賞者が自分の成果の礎を築いた研究者達をアンカーマンとして公に再評価する姿勢は、ポアンカレ予想を証明したペルリマンの言動等にも見られるものです。


「もし谷山=志村予想が真なら、直接的帰結としてフェルマーの最終定理も証明される」という記述を目にした後は、本書終盤のワイルズの苦難の連続に「頼むぞワイルズ!」と日本人として手に汗握る逼迫感を感じる展開になりましたが、此処から先の証明されるまでの話は人間臭くて、非常に興味深く面白いので記述は避けた方が良いと思われます。
やはり一度手に取って実際に読んで欲しい一冊ですね。

注)「谷山=志村予想」が実は「志村予想」だという話もありますが、私に真偽を計る知識は無く、本書著者に敬意を表す意味も込めて「谷山=志村予想」をそのまま使わせていただきました。






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最終更新日  2013.11.03 01:50:52
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