|
カテゴリ:過去を振り返ってみた
かなり昔の記憶を辿って書いてみる。
あれは確か・・・小学3年生の時の出来事だった。当方の小学生の頃ってのは、子供人口がかなり多く、小学校全体で1200人の生徒がいた。今考えればあり得ないくらいの生徒数で俗に言うマンモス校だった。 1クラスは40人ほどで構成されていて、だいたいどの学年も5クラスあった。みんな幼稚園からそのまま繰り上がってくるので周りは知った顔ばかり。毎日同じ友達と悪ふざけをしたり、給食を食べるまで残されたり、それはそれは楽しかった。 そんな毎日同じ時間を過ごす規則正しい生活に、時折刺激を与えてくれるのが転入生の存在だった。機械のような正確さで刻む当たり前のような時間に、自分のクラスへやってくる転入生がこれ以上無いくらいの刺激を発射する。 まずクラスの電波塔的な人間が即座に「本日転入生現る」という情報をクラス全体に発信後、男か女か、それから可愛い&カッコイイ、そういう流れで情報がほぼクラス全員に伝わっていく。 なので転入生のクラス挨拶の時点では、皆はもう全ての情報をキャッチしていた、と言うくらいのクラス全員にとっては、それがこれ以上ない刺激だったのだ。 しかし、数多くの転入生を受け入れてきた学校でも、その前後世、ひときわ伝説の域に達していたある転入生がいた。 そんな彼の名前は【マナブ】と言い、話に聞くと九州から父親の転勤によってこの地へやってきたらしく、肌は麻黒く焼けていて、背が他の人間よりも高く、いかにもスポーツマンタイプの人間だった。 その予想は体育の時間でもハッキリと証明されて、球技や身体測定など、どの種目でも適う奴が居なかった。勉強も非常に良く出来て、当方の通知表はいつも「あひるさん」が多数プカプカ泳いでいたのに対し、【マナブ】の通知表はいつも「オール5」。 話も面白く、女子にも多大な人気があって、休み時間になると【マナブ】の机の周りにはキャピキャピと女子が囲み、その「おこぼれ」を貰おうと企む男子にも人気があった。 【マナブ】は小学生ながらにして既に完璧超人だったのだ。 たちまち【マナブ】はクラス全体の人気者になり、しばらくしていつの間にか学校全体の人気者になっていた。 当方はいつも決まった友達としか遊ばなかったし、ハッキリ言って【マナブ】なんかアウト・オブ・眼中。どうでも良かった。どうでも良かったけど、日々の友達との会話の中でいつしか【マナブ】の話題が増えていく。 【マナブ】って野球が趣味なんだってさ 【マナブ】って算数が特に得意らしいよ 【マナブ】って昨日佐緒里に告られたらしいぜ 【マナブ】って・・・ ・・・まるで皆のヒーローだった。今考えてみても、その求心力は本当にスゴイと思う。子供ながらにしてこの明らかな「差」、地元では当方の方が何年も長く住んでいて話題性もあるのに、たった何ヶ月かでつけられた圧倒的な「差」。 【マナブ】の事を内心ではかなり羨ましかったって事は事実だったけど、あまりに悔しかったのでなるべく【マナブ】から離れて行動をしていた。己へのコンプレックスと、相手への羨望意識から「皮肉」にも否定派組織が出来るのは世の常なのだ。 そんなある日・・ 給食のグリンピースご飯が食べられなくていつもの様に居残りで給食を2時間かけて先生の前で平らげる事に成功した当方は、放課後生徒も疎らになった校舎をテクテク歩き、一人で家路についていた。 学校から家までは子供の足で歩いて約20分。その中間地点くらいに差し掛かったときに、後ろから当方のことを呼ぶ声が聞こえた。 「お~い、M~」 振り返ると学校のアイドル【マナブ】が走ってこちらへ向かってきていた。犬を連れていたので、どうやら犬の散歩の途中に当方を発見したようだ。正直嬉しかった・・・アイドルが大声で当方の名前を呼んでくれたことに。 すでにこの時、当方の中で【マナブ】へのカリスマ意識はここまで来ていた。 しかし【マナブ】否定派幹部でもある当方が、仲良さげに【マナブ】と喋っているところを他の連中に見られたら明日から「無視攻撃」に会うことは自明の理。ここは可も無く不可も無いままあしらっておかねばならない。 「今終わったの?」 「ああ、給食の豆が食べられなくてさ・・」 「今さ、犬の散歩してるんだ。あ、そうだ、確かMの家でも犬飼ってたよね」 「・・・。う、うん」 流石に物凄い記憶力だ。【マナブ】とは一言二言しか会話を交わしたことが無かったのに、それを覚えている。そしてそれは自分の家の犬の話題に他ならなかった。 「一緒に散歩しようよ!まだ俺さ、犬を散歩に連れて行く良い場所知らないんだ、だからさ、お願い!」 「・・・。ああ、いいよ・・・」 断る理由が見つからなかった。というよりも、【マナブ】と共に行動をする事に嬉しくなっている自分がそこに居た。 (もう仕方ない・・今日は・・今日だけはこれで良いのだ・・・) と自分に言い聞かせて、自分の犬を連れて【マナブ】と合流した。しばらく学校の事やクラスの事、先生の悪口などを言い合って、普段の友達と何ら変わらない会話が続く。 自分でいつも回っていた犬の散歩ルートを教えているうちに、【マナブ】が急に改まってこう切り出してきた。 「M・・・ちょっと頼みがあるんだけど・・」 「え?何?」 「・・・・うん。・・・・・・・・えっと・・・」 言い難そうだ。きっと何かの悩み事があるのだろう。即座に当方の脳みそが推定ならぬ推理を始めた。 推理その一・・・「好きな女の子に告白するための手助け」 推理その二・・・「勉強が解らないので教えてくれ」(0.004%) 推理その三・・・「こんど一緒に遊ぼうよ」 推理その四・・・ と、そのとき考える事ができた色々な場面を想定しながら考えては見たものの、次に【マナブ】が発した言葉は、当方の浅はかな推理を瞬時に破壊するに相応しいものだった。 「・・・えっと・・・M、今好きな女の子いるの?」 「え?いない・・けど」(本当は居たけど、恥ずかしかったので嘘ついた) 「・・・・じゃぁさ・・・・俺と・・・僕と、、、交換日記してください・・・」 「・・・え?交換・・・日記????って、、あの交換日記??」 どう考えてもこの世の不条理に他ならない。 31年間当方は生きてきましたが、今現在自分の人生を振り返ってみても、どうしてこうチンコがついたオスばかりにモテるのか。それに反して、なぜチンコの付いていないメスには・・・いっつも素通りされるのか。考えてみても答えは見つからない。 それは良いとして、 動揺を隠せなかった。というのがこの時の印象。今なら軽く流せる事も、純真だった幼少の当方は完全に言葉を全て受け止めようとするあまりに、もはや瞬間パニック症候群。 しかもその相手が学校のアイドルである【マナブ】であったという事が、そのパニックを100倍以上に加速させた。返答の出口が見つからなくて遠くを見つめ、そのまま突っ立っていると【マナブ】が意を決したように言った。 「考えといてよ、ごめんね・・・急にこんなこと言って。今日は楽しかったよ、じゃ、また明日学校で☆」 そう言うと犬が付いていけないくらいの猛ダッシュで【マナブ】はその場を後にした。後に残された当方と犬。尻尾を下げて何か不安を訴えているかのような犬と、明らかに次の日が不安な当方は間もなくションボリと家路についた。 家でテレビを見ている時も、机に向かって勉強するふりをしてチンコを触っているときも、夕方に【マナブ】が言った言葉が脳裏に焼きついていて、何度も何度もリピートした。 (あぁぁああぁぁ・・・どうしよう・・・。。断ることは間違いないんだけど・・・どうやって断ればいいんだ・・・・・。。「友達のままでいよう」・・かな、、でもただの交換日記なんだから告られたわけでもないし、これじゃ変だ。うぅぅぅんん・・・「やっぱり交換日記は嫌だ・・」・・・これか?・・でもこれじゃ攻撃的過ぎるしなぁ・・どうしようどうしよう・・・ブツブツ・・) そう考えているうちに気疲れしたのか寝てしまった。 ・・・・・ 次の日の朝。 (しまった!!寝てしまった・・・あ~学校行きたくねぇ・・・マナブに会いたくねぇ・・・こんな事を友達に言ったら、それこそ「ホモ」扱いだ。間違いなく中学生になっても「ホモ」というあだ名が付いてしまう。駄目だ駄目だ、そんなのは嫌だ・・とにかくマナブの今日の行動で断るタイミングを計ろう。それしかない) ・・・・ ・・ 学校についてから1時間目の授業、2時間目の授業、と一日がいつものように過ぎていく。【マナブ】は相変わらず休み時間になると女子と男子に机を囲まれていて、昨日の考えも行動さえも当方は目視することができなかった。 (えぇぇい!!くそが!!どうすれば良いんだ!!今日を逃したら、こんな狭苦しい毎日がしばらく続いてしまう!そんなの絶対に嫌だ!!!・・・そうだ!今日、犬の散歩時間を狙ってマナブに接触しよう、そして言うんだ、交換日記は出来ない!と、はっきり!) その日という一日は本当に狭苦しい一日だった。誰かがこのことを知って、誰かがそれを噂しているように感じた。それくらい精神状態が乱れていた。 ・・・・・ 学校が終わり、帰宅する。昨日と同じ場所で、狙っていたかのように【マナブ】が 「お~い!Mぅ~!」 と声をかけて走ってきた。 (なるほど、こっちのほうが話が早い。向こうからわざわざ姿を現してくれるとはな、俺が行く手間が省けたぜ。) 犬を連れて爆走してくる【マナブ】を立ち止まって待つ当方。両者の「気持ち」は明らかに磁石のSとNのように別方向を向いていた。 「はぁはぁ・・えっと・・・昨日の事考えてくれた??」 「あぁ、あの事ね、うん考えたよ」 「それで・・えっと・・・」 「うん、交換日記ってさ、やっぱ男と・・・ 「ちょっと待った!それ以上はちょっと待って。一緒にまた犬の散歩しようよ」 「・・・。うん解った」 昨日通った同じコースを回る。しかし2人は無言だった。各々で考えることがあったからだ。テクテク歩くも、しかしその考えがお互いに別の結果であることは、この時既に【マナブ】は感じていたのだろうと思う。昨日「交換日記」をしようと告げられた場所で【マナブ】は立ち止まった。 ふぅ・・と、大きく息を吐くと、 【マナブ】が昨日に引き続いて驚愕の言葉を口にした。 「実話さ・・俺、、明後日転校することになったんだ・・だからこの場所に友達残したくってさ・・・この場所には少し長くいれると思ったんだけど・・・・M、ほんと今まで有難う、交換日記したかったけど交換できなくなるから・・・だから・・・だから、、これを受け取ってくれ!!」 「こ、これは・・ガンダムのシール・・・それよりも、、転校ってマジなのか?」 「友情の証だ、貰ってくれ、、たぶんもう会えないと思うから・・」 「ちょっと待ってろ!」 と言って、【マナブ】をその場に待たせて家に直行し、自分の住所と電話番号を紙に書いてマナブに渡した。 「これで、また連絡できるよな、手紙でも電話でもしてこいよ!友達だからよ!」 学校のアイドル的な存在、絶対のカリスマを持っている【マナブ】は顔をクシャクシャにして泣いていた。当方はこの時から心がドライだったので涙は出なかったけど、何となく"もう会えない"と考えると少しだけ寂しかった。 ・・・・・ ・・・ そして現在 【おい!M!最近、ブログの更新滞ってるんじゃねぇのか?楽しみにしてるんだから毎日書けよ!!】 昨日、マナブからこんなメールが来た。 お~~い、見てるか?マナブー。ネタにしてやったぞ、有り難く思え。 今ではその時のアイドルの面影も無く、腹の出たタダのオッサンだけど、非常に頭がキレる。これが本当の腐れ縁ってやつですね。ハハハ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[過去を振り返ってみた] カテゴリの最新記事
|