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カテゴリ:今を歩む
昨日、自分の部屋の玄関口でタバコの灰を落としてしまいました。
先を急いでいたので灰が落ちたのは解っていたんですけど、取りあえずその場は落ちた灰を無視。 用事を済ませてから部屋に戻ってみると、アリンコ1匹が一生懸命先ほど当方が落とした灰をヨイショヨイショと運んでいたんです。 踏まないように注意しながら屈んでそのアリンコを10分くらい観察していたんですが、その真面目な働きっぷりにマジで感動しました。 ********** 「リッキー!今日は灰が食べたいわ!」 「は、は、はい!女王様、ただいまお持ち致します!」 女王様は俺を含めた兄弟200匹の母だ。そんな俺たちの世界では母には絶対服従。女王様が暑いと言えば皆で穴を増やして風通しを良くしなければいけないし、寒いと言えば穴をふさいで風が入らないようにしなければならない。 そんな女王様が「灰が食べたい」と仰っている。しかも俺に。これは何としても灰を探しに行かねばならん。 女王様に「お持ち致します!」と景気のいい返事を返したのはいいけど、灰っていったら俺たちの間では相当なご馳走なのだ。ご馳走と言う事は、イコール貴重品ということでもある。 何メートルも歩いて灰に巡り合うだけで幸運なのに、見つけたとしてもそのほとんどが塊でしか存在していないので、持って帰れるくらいの灰を探すのに一苦労する。 ということは、これは長い旅になるだろう・・そう思った俺は、すぐさまその事を妻に告げた。 「パパー!行っちゃ嫌だ~」 息子のマリオが泣きながら俺に抱きついてきた。 俺は小さなマリオの頭を撫でながら、 「パパはな、女王様に大事な大事なお仕事を貰ったんだ。だから、パパがお仕事に行っている間はママの言うことをちゃんと聞いて、イイ子にしてなきゃ帰ってきてからゴツンだぞ☆」 俺は喉の奥から込み上げるものを必死に飲み込みながらマリオにそう言った。 「あなた・・・気をつけてね・・私、ずっとマリオと待ってるから・・・」 「ナンシー・・・今回は正直、帰ってこれるかどうか解らん。だから、、俺にもしもの事が・・ 「馬鹿なこと言わないで!!!!!!!!!」 「・・・・ すまない・・弱気になったな。必ず帰る、帰るから・・・待っててくれ」 「もちろんよ・・リッキー・・・愛してるわ・・・」 「ああ、俺もさ、、ナンシー・・・・」 俺はナンシーとマリオに見送られながら、あまり気温の高くない夜に出発することに決めた。荷物は1週間分の水分だけ。これ以上重くなると、帰り道に支障をきたす。 ・・・・・・・ ・・・・・ ・・・ もうどれくらい歩いただろう、5日間成果なしだ。灰の一欠けらも見つけることが出来ない。もしかしたらこのまま見つけられずに・・・ その時だった。 俺の体の数倍はあろうかと思われる灰が上から落ちてきた。落ちてきたものは俺たちの中でも最高級と言われる、出来立てでほんのり暖かいタバコの灰だった。 「神様・・神様ってやっぱり居るんだ、、ありがとう・・」 女王様に献上する前に、自分で先に味見をするのが兄弟内の掟だ。出来立てのほんのり暖かい灰を、少しだけちぎって口に入れる。 「・・・極上ものだ・・」 血が滾った。俺は持てる力を振り絞り、灰を運んだ。しかし、大きすぎて中々思うように動かない。半分に割れそうな感じはするけど、俺の力じゃ無理だ。 灰の前で右往左往していると、上から突然肌色の物体が降りてきて、その灰を見事に細かく粉砕してくれた。 「神様・・ああ、神様。感謝します・・」 俺は自分で運べるであろうその細かくなった灰の一部をヨッコラセと持ち上げると、神への感謝と共に女王様の待つ、そしてナンシーとマリオが待つ、我らの巣へ帰りの歩を早めた。 ************* きっと「アリンコの中でもこんなドラマがあるんだろうな」とか、「神様なんて呼ばれたら照れるじゃんか☆」などと思いながら気持ちが良くなった当方。 「これも持って帰れよ、リッキー。奥さんに宜しくな!」 と心の中で言いながら小さくちぎったパンもその場所に置いて仕事に戻った。 再度、数時間後に部屋に戻ってから床を凝視してみると、 リッキーが灰と一緒に潰れてた・・・ ゴメンよ、リッキー・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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