110-12 大晦日
母は、驚きの声を上げながら体制を起こすと、『えーお母さんいつ寝たの?』『○○さんが唄ってるとこまではお母さん観てたのね。それって何時頃?』などなど、謝りながら、言い訳をしながら、疑問を口に出しながら、忙しく口を動かして、髪の毛をまとめ直した。********擢斗に会いに行ったのは0時半過ぎ。薄明かりだけが付き、ピコピコと電子音が鳴る中、本当に気持ち良さそうに眠っている顔を見て、私も母も、それを見た看護師さんもニッコリと笑って新年の挨拶を済ませた。『年越しの瞬間一緒にいたかったんですが…』と、申し訳無さそうに笑う母に、『タックン、本当にずっと今日は調子が良いんですね。起きても、泣いたりしませんし、吸引も頑張ってミルクも全部飲んで眠りましたよ。』と、看護師さんが笑った。新しい年明け、擢斗の側にはほんの少し。看護師さんからの嬉しい報告でホッとした事もあったし、雪が降り続く中、母を早く家に帰したい気持ちも外に出てみて大きくなったせいもあった。『今日は安心して休んで下さいね。』と心強い言葉をもらって擢斗にバイバイをした。『明日はパパにもみんなでご挨拶しよーね。』『婆ちゃん寝ちゃってごめんね。』『おやすみ。』病院の廊下は早足で歩いた。外はもう空からビックリする程の大きな粒の雪が降り続いていて、目を開けて見上げられない位だった。『気をつけて帰らないとね。』『でも少し寝たからスッキリした。』『だから大丈夫。』そして、ちょっとの瞬間無口になると、廊下のピンクの壁のずっと続く可愛らしいイラストを見て、『本当に病院じゃないみたいね。』と夜に面会に来た時には必ず言う台詞を小さい声で又つぶやいた。