三十九章一三十九章 大切なモノ ( ^Д^)「おぉぉおぉおぉぉぁああぁあぁあぁっ!!」 (;^ω^)「ッ!!」 袈裟掛けに叩き付けられる左腕の鎌を、右足で受ける。 草色の鎌は、白銀の脚の表面を火花を散らしながら滑り、そして見当違いな空間へと抜けた。 しかしすぐさま、翻る。 (;^ω^)(速い―――!) 首に迫る刃は、驚くほどに速い。 以前の彼の刃とはまるで別物だ。 ( ^ω^)「……でもッ!」 床を蹴りつけて、その反動で脚を跳ね上げる。 白銀の線は首と刃の間に滑り込み、甲高い金属音を上げて鎌を弾き返した。 ( ^Д^)「チッ……!」 再度鎌を翻そうとして、しかし彼は大きく後退する。 直後。彼が立っていた床に、複数の何かが高音と共に突き立った。 白銀に輝く鋭いそれは、羽根だ。 後退した先、プギャーは上空を睨み上げる。 視線の先にあるのは、白銀色に輝く翼を打ち広げたツン。 その姿は、思わず眼を奪われそうなくらいに美しかった。 白く透き通るような肌、人形のように端麗に整った顔。 その背に白銀に輝く翼を携えた彼女は、まるで天使のようだった。 ただしその天使は容赦のない、天使と呼ぶにはいささか酷なものであったが。 ξ゚△゚)ξ「はぁっ!!」 一つ叫ぶと、彼女はその場で翼を大きく二度羽ばたかせた。 連続する、軽やかで透明な音。 翼からは無数の白銀の光が放たれ、光は凄まじい速度で広域に降り注ぐ。 ( ^Д^)「んなもん喰らうか!」 迫り来る白銀の雨を、左腕で打ち払う。 そしてそのまま左腕で自身を護りながら、ブーンへと駆けだした。 ξ;゚△゚)ξ「くっ……」 それを見て、ツンは翼を羽ばたかせるのを辞める。 ブーンにプギャーが接近している状態で羽根を放てば、ブーンも負傷しかねないからだ。 ( ^Д^)「っらぁあ!!」 ( ^ω^)「おぉおっ!!」 斬りかかって来るプギャーに、今度はブーンも攻めの動きを見せた。 鎌の横薙ぎの一閃を、同じく横薙ぎの形で蹴り弾く。 そしてその勢いを殺す事なく旋回して、更に跳躍を交えた回し蹴りを放った。 (;^Д^)「―――チィッ!!」 引き戻した左腕で防御する。 しかし高威力の横への動きは、またしてもプギャーの腕を弾き飛ばした。 今度こそ隙が露わになったプギャーに、ブーンは拳を発射する。 白銀のガントレットが装着された拳は、一直線にプギャーの頭蓋へと飛び行って――― しかし、そこで響いた音は鈍い破砕音ではない。金属音だ。 続いて、聞き慣れた異音が響く。 “解放”の意を示す、不愉快なあの異音が。 拳を伸ばした姿勢で、ブーンは硬直した。 眉根は詰められ、瞳は見開かれている。 (;゚ω゚)「おっ……!?」 彼の拳を防御したのは、左腕ではない。 彼の驚愕の視線が捉えているのは、左腕ではない。 それらの答えは、右腕だ。 ( ^Д^)「驚いたか。だろうな」 彼の右腕―――“力”がない筈のその右腕は今、異形だった。 異形へと、解放を始めていた。 右腕全体が硬質の皮膚に覆われ、酷くくすんだワインレッドへと変色する。 そして肘から先、拳にかけて無数の突起が生え揃った。 突起の鋭さ、太さはまちまちで、針のようなものや鋭い錐体が乱立している。 肘からは一際大きい突起が生え出た。それは変形して飛び出た強化骨格だ。 手は一回り大きくなり、そして爪は鋭く太くなる。 (;゚ω゚)「プギャー……お前、これは……!?」 ( ^Д^)「見ての通り、異能者の腕だが?」 (;゚ω゚)「んな事を訊いてんじゃないお! 何だお、この腕は!! お前は、お前の“力”は、左腕にしかない筈だお!!」 ( ^Д^)「まぁ落ち付けよ。……俺の内側には、化け物が眠っていたんだよ。 過去の俺だったら起こす事も出来ないような、とんでもない“力”を持った化け物がな。 ―――いや、化け物じゃあないな。奴は、“蟲”だ」 (;゚ω゚)「化け物? “蟲”? 何を言ってるんだお。意味が分からんお。 お前は両腕に“力”を持つ異能者だったのかお? ハインのような?」 ( ^Д^)「いや、違う」 (;゚ω゚)「じゃあこの右腕は何だお!?」 ( ^Д^)「さぁな。それは―――お前が俺を圧倒出来れば、教えてやるよ」 異形と化した右腕を振るい、ブーンの拳を弾き飛ばす。 その勢いに乗って一歩を踏み出し。左腕の鎌を袈裟掛けに振り下ろした。 (;゚ω゚)「くっ……!」 脚を跳ね上げる。 草色の鎌と白銀の脚は正面から激突し、眩い火花を散らして互いを弾き飛ばした。 間髪置かず、ブーンの頭蓋目掛けて振るわれたのは、右腕だ。 ブーンは顔を傾がせて回避しようとするが、しかし右腕の突起が彼の頬を削り取っていく。 そして彼は、頬に走った厭な痛みに顔を顰めた。 (;゚ω゚)「なっ!?」 後退し、頬に手を当てる。傷は浅い。 だが血に濡れた頬は熱を持ち、じくじくとした痛みを訴えていた。 加えて、引き攣るような感覚がある。 (;゚ω゚)「これは……」 ( ^Д^)「毒だよ」 プギャーは見せつけるように、右腕を掲げた。 くすんだワインレッドが、鈍く、毒々しく輝く。 ( ^Д^)「毒虫の、毒毛の性質をこいつは持ってる。 安心しろよ。異能者にとってはあまり強くない毒だ。 つっても、喰らい続けるとかなりアレな毒だがな。……さぁ、行くぞ!!」 嗤いを後方に残して、プギャーは疾駆。 対するブーンは頬の血を拭い捨て、プギャーの接近に構えた。 ( ^Д^)「おおおぉおおぉおおぉっ!!」 (;゚ω゚)「くっ!!」 上方から叩き付けられる右腕を蹴り弾き、下から跳ね上がる鎌を上半身を反らして回避する。 そこで弾いた右腕が横薙ぎの形で振るわれ――― (;゚ω゚)「ぉ……ぉぉおぉおぉっ!!」 間一髪、跳ね上げた膝で防御。 右腕の毒の突起は、肌まであと数センチという所まで迫っていた。 舌打ちが目の前で聞こえ、直後、視界の隅で草色の輝きが翻る。 ブーンは鋭い呼気を漏らして、すぐさま床を蹴った。 草色の流線はブーンの視界に太い緑の軌跡を残し、しかし何も捉えずに抜ける。 大きく後退したブーンは、地面に脚が付くと同時に、跳躍するようにして接近。 受け身になってはいけない。先制を取って、こちらの流れにしなければ、と。 己で稼いだ距離を一瞬で詰め、そして右足で大威力の回し蹴りを放つ。 プギャーはそれを左腕で防御。 だがブーンはその左腕を蹴りつけるようにして旋回。そして加速。 後ろ回し蹴りだ。 文字通り、眼にも止まらぬ速度で空を横に切り裂いた白銀は――― しかし、くすんだワインレッド色の右腕に止められた。 表情が悔しさに歪み、それを見たプギャーの表情が嘲笑へと変わる。 瞬間、身体が一気に熱を帯びた。食い縛った歯が、軋む音を奏でる。 (#゚ω゚)「ハァァァアァッ!!」 脚を右腕に受けられながら、裏拳の形で拳を飛ばした。 対するプギャーは、迫る白銀のガントレットを身体を傾がせて回避。 その隙にブーンは受けられていた脚をそのまま跳ね上げ、打ち下ろす。踵落としだ。 しかし白銀は、すっと突き出された鎌によって何でもないかのように受けられる。 ( ^Д^)「っらぁ!!」 そして、跳ね上げられた。 ブーンの身体は脚から体勢を崩し――― (;゚ω゚)「―――ハァッ!!」 そのまま空を蹴って、空中で後方へ一回転。 そして着地と同時。身体を護るように、両腕を前方、縦に構えた。 そこに叩きつけられる毒の右腕。 厭な音が響き、そして火花が躍った。 白銀のガントレットを伝わって身体に衝撃が走り、その衝撃によって二歩を後退する。 腕の向こう側、プギャーは少しだけ驚愕の表情を見せていた。 ガントレットを破壊出来なかった、という事に対してだろう。 普通の武器であれば、大抵の物は異能者の攻撃に一撃たりとも耐えられない。 しかしモナーの作成したこのガントレットは、攻撃に耐えてみせた。 白銀は未だ形を保ち、崩壊する様子を見せない。 これにはブーンも、小さくない驚愕を覚えた。 が、しかし。ガントレットの前腕部、攻撃を受けた位置は、僅かながら拉げている。 頑強に作られたとはいえ、元々、攻撃の為に作られた武器だ。防御には向かないらしい。 このまま防御に使っていれば、長くは持たないだろう。 とは言え現状、プギャーの攻撃は止められた。 ブーンは踏み出しの一歩を以て跳躍。遠心力を伴った左の回し蹴りを叩き込む。 ( ^Д^)「はっ!」 迫る白銀を、プギャーは毒の右腕で弾いた。 ブーンは弾かれたその勢いをそのままに、回転。 後ろ回し蹴りの要領で、左足で空間を薙いで行く。 ( ^Д^)「さっきと同じかよ! 芸がねぇな!!」 プギャーはそれを受けようと、鎌の左腕を跳ね上げて――― 空を切る。 腕は脚を捉えなかった。 ( ^Д^)「……何?」 (#゚ω゚)「おぉおおぉおおぉおぉおぉぉぉおぉっ!!」 ブーンは半ば跳ね上げた脚を、無理矢理に墜としていた。 左脚は唐突に軌道を変え、下方へ。その表面を削りながら、しっかりと床を捉える。 よってプギャーの振るった左腕はただ空を切り――― ブーンは左脚を持ち上げ、身体を旋回させつつ右脚で跳躍。旋回を加速させる。 そして遠心力を身に付け、極限まで威力と速度を高めた、右での上段回し蹴りを放った。 だが。 引き戻され、脚と己の間に間一髪のところで捻じ込まれた右腕が、それを阻止した。 壮絶な金属音と、それに見合う火花が生まれ、二人の顔を一瞬照らす。 片一方の表情は戦慄と無念。 片一方の表情は戦慄を内に秘めた嘲笑。 (;゚ω゚)「くッ……!!」 ( ^Д^)「……ハッ。良い線行ったが、甘いんだよ。 いくらてめぇが速かろうと、両腕ありゃあ止められる」 (#゚ω゚)「……嘗めんなお!!」 右腕を蹴り弾き、そして左脚一本で跳躍。 右脚を引き戻しつつ、宙空で左脚を横薙ぎにした。 しかし袈裟の形で突き出された左腕が、その脚を弾く。 そして身は、足を弾いた際の反動を利用して旋回。 右腕の裏拳が、がら空きのブーンの頭蓋に発射された。 (;゚ω゚)「ッ!!」 咄嗟、上半身を後ろに飛ばす。 鼻先の空間を異形が砕いて抜け、眼の前に小さな血華が咲く。 同時に小さな鼻の先に刺すような痛みが走った。 やむなく、後退する。 プギャーは舌打ちしつつ、しかし邪悪で楽しそうな笑みを浮かべていた。 (;゚ω゚)「接近戦は不利、かお」 後退した先、ブーンは床を爪先で掴んで――― ( ゚ω゚)「……ならっ!!」 蹴った。 その一歩で超加速。距離が消える。 そしてその勢いに乗せて、ブーンは前蹴りを放った。 ( ^Д^)「無駄だっつってんだろうが!!」 プギャーはそれを右腕で受けて、同時に左腕の鎌で斬り上げる。 しかし草色の刃は空間を切り裂いて上方へ抜けた。ブーンは捉えていない。 ( ^Д^)「お?」 ブーンは遠くにいた。 前蹴りを放った直後、すぐに後退したのだろう。 ( ゚ω゚)「おおぉぉおおおぉおぉぉぉぉおおぉおぉっ!!」 一瞬。その姿が、再度眼の前に移動する。 ほぼ反射的に振り上げた左腕が、そこで跳ね上がった脚を弾いた。 正に間一髪。少しでも遅れていれば、間に合わなかった。 (;^Д^)「―――チッ!!」 右腕を振るう。が、やはり抜ける。 ブーンはまたもすぐに後退し、プギャーの攻撃を逃れていた。 ( ^Д^)「ヒットアンドアウェイ、って奴か……!」 言い終わると同時、ブーンの足元の床が爆ぜる。 そしてブーンの姿が一瞬で眼の前に動き、そして足が横薙ぎにされた。 ( ^Д^)「しっ!!」 右腕で受け流す。 同時にブーンは後方へと動き―――プギャーは、それを追った。 後退するブーンを捉えようと、左腕を振り上げ――― ξ゚△゚)ξ「させないわよ!!」 上空からの声。 同時、肩から背中にかけて衝撃。鋭く激しい痛みが走る。 衝撃によって体勢が崩れ、ブーンへの追撃も無駄となった。 (;^Д^)「づぁ―――」 前に倒れかけた身体を、大きく一歩を踏んで確立。 そこで背中に手をやって―――そこに何かが生えている事を確認した。 ξ゚△゚)ξ「私の存在、忘れてたみたいね?」 (;^Д^)「ぐっ……あぁっ!!」 引き抜く。 手の中のそれは、白銀に輝く硬い羽根であった。 舌打ちを漏らして、背中の羽根を抜き捨てる。 しかし全てを抜き終えぬ内に、またもブーンの攻撃が飛来した。 ( ゚ω゚)「おぉおっ!!」 (;^Д^)「ちっ!!」 跳ね上がる脚を右腕で受け、左腕で眼の前を薙ぐ。 が、捉えられない。やはり後退のステップで、避けられる。 ブーンの速さは、プギャーの反撃を封じていた。 彼は追撃の為に踏み込もうとして――― ξ゚△゚)ξ「はぁあっ!!」 そこで上空から降り注ぐ羽根の雨。 踏み出していた足を引き戻し、そのまま後退して――― ( ^Д^)「ブーンのヒットアンドアウェイ、追おうとすれば羽根の嵐。 攻撃が途切れない。攻め手がない、か……・」 呟き。 しかし、その口端が釣り上がった。 ( ^Д^)「なら、そろそろだな」 そして突如地を蹴り、前進した。 右腕で羽根から身体を護り、疾駆する。 ブーンは迫る彼の笑みに、背筋に悪寒が走るのを感じた。 同時、焦燥に似た感情が全身に満ちる。 何か、良くない事を考えている。今の内にどうにかせねば。 だからブーンは、駆けた。 プギャーは今、右腕を羽根への防御に使っている―――潰すなら今だ。 ( ゚ω゚)「おぉおっ!!」 右脚を跳ね上げる。 対してプギャーは、それを左腕で防御。弾かれ、隙が露わになった。 腕を引き戻す暇は与えない。 ここで勝負を付ける!! 何か、音が聞こえた気がしたが、ケリを付ける事だけに集中した。 蹴りの流れをそのままに、跳躍して旋回。 最大威力の回し蹴りを放つ。 それは容赦もなくプギャーへと襲いかかって――― 抜けた。 (;゚ω゚)「!?」 自身の回し蹴りで体勢を崩し、ブーンは床に肩から落ちた。 すぐさま起き上がって―――眼を見開く。 ( ^Д^)「どうした、不思議そうな顔してんな」 嗤うプギャーは、遠くにいた。 常人の脚ならば、一瞬でそこまでは行けないであろうほど、遠くに。 佇んでいる。いつもと同じ、笑った瞳で。 しかし、そこに何か、違和感がある。 その理由は、すぐに分かった。 (;゚ω゚)「あ……」 ( ^Д^)「気付いたか」 違和感があったのは、プギャーの脚。 穿いているズボンの下、ふくらはぎより先。 靴が裂け、枯葉色の異形の脚が姿を現していた。 ( ^Д^)「俺は両腕の異能者じゃない、っつったな? つまりは、こういうことさ」 言って、眼を笑みの形にした。 嘲笑の笑みだった。 ( ^Д^)「昔から―――異能者になって異能者を知ってから、おかしいとは思っていたんだよ。 俺の“力”は左腕だけにしか宿っていないってのに、何で他の“力”がないのかって。 そしたら、こういう事だった。“力”は、眠っていた。そして今、目覚めた」 ( ^Д^)「つっても、見ての通り両腕の異能者だったってわけじゃあない。 フサ、居るだろ? 奴と同じだよ、俺の“力”は。 肉体の各部位を、蟲の特性を備えた得物に変える」 (;゚ω゚)「……と、言う事は」 ( ^Д^)「あぁ。両腕の異能者だなんて、甘いもんじゃない。 ―――全身だ。お前達は、俺には勝てねぇよ。 モララーさんの元へは行けない。行かせない」 言い終えるのと、同時だ。 彼の身体から再度、異音が放たれた。 (;゚ω゚)「ッ――――――!」 厭な気配を感じて、床を蹴って後退する。 そして彼は、息を呑んだ。 視線の先。プギャーの足下から、異音が鳴り響いていた。 ズボンは腿半ばから千切れ、だらしなくぶら下がった布へと変わった。 砕けるような異音が一つ鳴るたびに、彼の脚の異形が広がっていく。 まず脚の筋肉の全てが異常に発達し、表皮が金属質のそれへと変化。 そして全体が枯葉色に染まり、膝周辺が黒の色へ染まる。 続いて足首から先が巨大化し、踵の先にスパイクが発生した。 足の指は三本へと変わり、鋭い鉤爪へと変化する。 (;゚ω゚)「脚が……!?」 ( ^Д^)「そうだ。“蟲”の……これは、バッタの脚だろうな。 これで、ブーン。お前の速さは、俺に通用しない」 呟くその姿がブレて色を失う。 反射的にブーンは後退のステップを踏んで―――直後、目の前の床がプギャーの脚によって粉砕された。 (;゚ω゚)「くっ!!」 流れのままに後退する。 が、しかし ( ^Д^)「逃がさねぇよ、バァァアァカ!!」 (;゚ω゚)「!?」 ブーンの速さに、プギャーは迫ってきた。 砕いた床から、跳ねるように―――そう、バッタのような動きで。 対するブーンは横方向へと直角に向きを変える。 プギャーの身体はブーンの身体があった空間を突き抜け―――しかしすぐに停止、方向転換した。 ( ^Д^)「ひゃぁぁぁあっはぁぁあぁぁあぁ!!」 膝を深く曲げる事によって力を溜め、解放する。 生まれる爆発的なその勢いは小回りは利かねど、直線的な速さにおいてはブーンのそれを凌駕していた。 (;゚ω゚)「ッ!?」 横に並んだプギャーに眼を剥き、一瞬の逡巡の後、更に床を蹴って加速。 距離を開けたブーンに、プギャーは楽しそうに眼を弓にして―――彼も床を蹴る。 二つの力が床を爆砕して加速し、二人の影は信じられないほどの速度で空間を駆けた。 片方は逃げ、片方は追い。 逃げる者が小さな動きを以て逃げようとすれば、追う者はそれを無意味とする大跳躍で追う。 ( ^Д^)「っるぁああぁっ!!」 (;゚ω゚)「くっ!」 やがてプギャーの跳躍が、ブーンを捉えた。 加速する空間の中。 跳躍から、勢いを乗せた前蹴り。 ブーンは振り向きざま、それを右足で蹴り落とし―――しかし直後、上方から毒の右腕が迫る。 右足は地に着いたばかりだ。間に合わない。 やむを得ず、左足で受けた。 強い衝撃が不安定になった身体を襲い、加速した勢いの中、身体が後方へと傾く。 (;゚ω゚)「がっ!!」 床に強く背中を打ち付け、息が詰まる。 プギャーの身体はそのまま自分の上を抜け――― 自分の隣で強制停止。振り向きざま、旋回の動きを含んだ踵落としを繰り出した。 (;゚ω゚)「――――――!!」 詰まる酸素を無理矢理に体内に送り込み、全力で横へと転がる。 脚はその身体を掠って床へと落ち、破片をぶちまけた。 ブーンは転がる動作の中、床に脚を突き立てて停止。 更にそのまま、脚に力を込めて跳躍する。 ( ^Д^)「馬鹿が!! 小回りの利かない上空に逃げてどうする!!」 嘲笑。間を置かずして膝を深く曲げ、跳躍。 床を爆砕し、影は超速度で空を抜け―――― ( ^Д^)「墜ちて、死ね!!」 上空、ブーンに追い付くや否や、左腕を振り上げた。 が、しかし。 (#゚ω゚)「お前が墜ちろお」 言葉、そして一瞬。 プギャーの身体の右側面に、相当な速度を伴った白銀の何かが激突した。 凄まじい衝撃にプギャーの全身が軋み、一時の停止の後――― (;^Д^)「が―――あぁあぁああぁっ!!」 墜ちる。 崩れた体勢の中、しかし辛うじて脚で着地。 (;^Д^)「何だ……!?」 上空を見上げる。 そこには自身を撃墜した、白銀に輝く巨大な銃弾のような形状をしたもの。 それは軽やかな、しかし金属質の連続した音を奏でて展開した。 その姿は翼。ツンだ。 彼女は、自身を翼で包み込んで突進したのだ。 ξ゚△゚)ξ「ブーンに集中し過ぎね。もしかして、私の事見縊ってないかしら? 私だって戦えるのよ!」 (#^Д^)「このクソアマ……!!」 憎々しげに漏らしながら、しかしプギャーは横方向に飛び込むように跳ぶ。 直後、目の前。上空より降りてきたブーンが床を粉砕した。 (#゚ω゚)「くそっ―――」 (#^Д^)「てめぇ!!」 一歩を踏み、右腕を突き出す。 ブーンはそれを足で防御。間を置かず、残った脚だけで後方へ跳躍。 プギャーはすぐさま左腕を振るったが、草色の鎌はブーンの身体に浅い紅の線を残したのみ。 (#^Д^)「チッ!!」 追おうと、足に力を込める。 が、しかし。 溜めた力を解放しようとした瞬間、目の前の空間に白銀の雨が降り注いだ。 放たれた鋭く疾い羽根は、硬き床を容赦なく穿ち、途切れない。 そして眩い弾幕は、その軌道と役割を変更した。 目の前の空間から、本人へ。足止めから攻撃へ。 (#^Д^)「この野郎……!!」 溜めていた力を解放し、横方向へ跳躍。 迫る白銀の弾幕を回避する。 そして着地すると同時、その脚を以てして上空へと跳躍。 目標はツンだ。 ξ;゚△゚)ξ「くっ!」 迫り来るプギャー。 羽根を放ち続けていた為、翼を使っての回避は出来ない。 だから、羽根を放ち続けた。迫り来る脅威に向けて。 だが、プギャーもそれで墜とされるほど甘くはなかった。 毒の右腕と、鎌の左腕。両腕を使って、己が身を護る。 腕が護れなかった個所には白銀が突き立つが、それは大きな意味を為さない。 間もなくプギャーの身体はツンの元へと辿り着く。 そこで彼は、防御に向けていた両腕を攻撃に転化――― (#゚ω゚)「おおぉおぉおおぉぉぉぉおぉっ!!」 させようとして、阻止された。 開こうとした両腕の、真正面からとんでもない衝撃が襲い来る。 両腕の向こうに見えた影は、ブーンだ。 (#^Д^)「てめぇも跳んで来やがったか……!!」 衝撃によって吹き飛び、身体が落下の動きを開始した。 落下する中、空を蹴りつけて身体のバランスを調整。 そして中空で、脚を軽く曲げた。 落下する。 十分に曲げられた脚は衝撃を逃がし、そして同時に力を充填。 数メートル先、ブーンの着地に合わせて、解放された。 距離は一瞬にして零へ。 (#^Д^)「っらぁあああああぁっ!!」 (;゚ω゚)「ぐッ!!」 勢いを乗せて叩きつけられる右腕を、後退しつつ左脚で受ける。 残った右脚で後退しようとして――― (#^Д^)「何度も逃がすかよ!!」 素早く踏み込み、そして左腕を振るった。 ブーンはどうにか、それを跳ね上げた右脚の膝で防御。 だが。 (;゚ω゚)「!?」 右脚。受けた左腕は、鎌の柄だ。 鎌の刃は―――首の後ろにある。 逃げられない。それどころか――― (#^Д^)「死に晒せ!!」 鎌が引かれる。 スライドによって脚との接触点が厭な金属音を奏で、火花を散らした。 一瞬の判断。ブーンは、左斜め前方へと跳ぶ。 それでも首の右後ろが僅かに切り裂かれ、血飛沫が爆ぜた。 姿勢を極限まで低く、かつ前傾にして、プギャーの横を駆け抜ける。 すぐ頭上を右腕が抜け、髪が数本千切れて舞った。 (#^Д^)「ちょこまかと……!!」 追おうと振り返れば、目の前の空間を空からの白銀が穿つ。 プギャーは舌打ちして、一歩を後退。 それと同時、白銀の雨がぴたりと止んだ。 何事かと頭上を見上げ――― (;^Д^)「あ?」 眉根を寄せる。 上空、ツンは強く羽ばたいていた。下方、プギャーへと。 一度の羽ばたきで、彼女の身体は一気に加速。 連続の羽ばたきで、加速の度合いは一瞬にして跳ね上がる。 ある程度降りたところで、彼女の身体は軌道を変えた。降下から直進へ。 それは、狙いも変更されたという事になる。つまりは、移動から突撃へ。 そして彼女は、十分に膨れ上がった速度に、仕上げに一つの羽ばたきを加えた。 加速―――そしてその翼が折り畳まれ、更に回転運動が生まれる。 その姿は、さながら銃弾だ。全てを弾き返す外殻に包まれた銃弾。 先ほど上空でプギャーを撃墜した、白銀の銃弾だ。 (;^Д^)「なっ……!!」 戦慄する。 が、しかしその戦慄に硬直している暇はない。 行動をしなければならない。 受けようか、と考えてすぐに否定。 あれだけ加速した物体を受ければ、直撃でなくともダメージは大きいだろう。 腕や脚が無事だったとしても、他の部位が安全である可能性は無きに等しい。 ならば、答えは一つ。 避けるしかない。 完璧に避けることはもはや不可能だ。 だから、両腕を使って受け流しつつ、この脚で回避行動を取る。 それが一番の安全策だ。 その思考にプギャーが辿り着くのと、ほぼ同時。 ツンを内に包んだ白銀の巨大銃弾が、プギャーに突進した。 (#^Д^)「っずぁああぁぁぁあああぁあぁぁぁあぁっ!!」 脚で斜め後方へと移動しながら、両腕で銃弾に触れる。 耳が痛くなるほどの金属音。大量に弾け飛ぶ眩い火花。 それに表情を顰めて、間もなく。全身にとんでもない衝撃と圧力がかかった。 (;^Д^)「がっ……!!」 身体が軋み、戦慄が身体に寒気を生む。 これは、早くどうにかせねばならない。予想以上に強力で、危険だ。 思考し、全力で巨大銃弾を後方へと流しにかかった。 回転を伴った巨大銃弾は凄まじい音と火花を上げ、尋常でない負担をプギャーにかけて――― しかし、抜ける。プギャーは辛うじて、巨大銃弾から逃れられたようだ。 抜けた先、銃弾は床や壁に触れる前に、展開して翼となる。 そして飛翔。ツンは舌打ちを漏らして、しかし眼の端に笑みを乗せて言った。 ξ゚△゚)ξ「何だか自信満々に勝利宣言してた割に、苦戦してるじゃない。 流石に二人を相手にするのは苦しいのかしら?」 (#^Д^)「……苦戦している? ん、あぁ、そうだな。 確かに俺は今、苦戦しているんだろうな――― 一応は」 意味深に呟いて、そして口端を吊り上げ歯を見せた。 彼の言葉に、ツンは眉根を寄せた。 何だ、この余裕は。何か隠しているのか、と。 観察する。 プギャーの表情は怒りを含んだそれ―――だが。 その怒りの表情は、どうやら本気で憤慨しているわけではなさそうなそれだ。 よくよく見てみれば、彼の表情は怒りというよりは笑みだ。 眼が笑っている上に、口元にも微かに笑みの欠片が見えている。 つまりプギャーは、興奮した上で楽しんでいるという事か。 何を隠している。 この状況にあっても崩れない、その余裕の根源は何だ。 ξ゚△゚)ξ「……一応、ですって? 強がっているのかしら?」 (#^Д^)「はン。それは、後々分かるだろうよ。 知りたければ、もっと俺を圧倒してみな!」 叫んで、そしてプギャーは床を蹴った。 対するツンは、彼が到達する前に上空に回避。 彼女の眼下、プギャーは床に脚を突き立てて停止。 即座上空に跳躍しようと脚を撓ませて――― (#^Д^)「来たな!!」 叫びと同時、跳躍の為の姿勢をキャンセル。 そして後方へと後ろ回し蹴りを飛ばした。 枯葉色の脚は空間を抜ける事無く、そこで超高速で接近していた物体を捉える。 脚だ。白銀に輝く、どこまでも力強い脚。 その持ち主は、枯葉色と白銀の向こうで悔しげに唇を噛み締めていた。 (#゚ω゚)「お……おぉぉっ!!」 しかし今度は、彼は後退の選択を採らなかった。 枯葉色の脚を自ら蹴り弾き、攻撃の姿勢を見せる。 既に追撃の姿勢を取ろうとしていたプギャーは、軽い驚きに眼を見開き―――しかし笑みを深くした。 ( ^Д^)「良いねぇ、その心構え!!」 跳ね上がる白銀の線を、毒の右腕で殴り落とす。 直後、逆の脚が膝蹴りの形で伸び、プギャーはそれを鎌の左腕で受けた。 ( ^Д^)「両脚は受けられたぞ、さぁどうする!」 (#゚ω゚)「まだだお!」 ( ^Д^)「あ?」 左腕で受けた膝。 それが、押しの力を伴って上方に伸びる。 膝だけを受けていた左腕は、伸びた先、鋭く撃ち込まれる爪先を受けられない。 (;^Д^)「なっ!!」 咄嗟、こちらも足を跳ね上げた。 壮絶な金属音が空気を震わせる。 一瞬の停滞、沈黙。 彼が跳ね上げた枯葉色の脚は、白銀と己の間に辛うじて入り込んでいた。 しかしそこに、数滴の血液が落ちる。プギャーの頬からの血だ。 ブーンの爪先は、プギャーの頬を僅かに捉えていたのだ。 あと少しだった。 ブーンは荒い息をついて、舌打ち。 対するプギャーは、舌を伸ばして頬の血を舐め取り―――そして笑いだした。 ( ^Д^)「良いねぇ、楽しい。楽しいぞ、ブーン。 お前達は強くなってきてくれた。俺のこの“力”に対する事が出来るほどに。 ……今だけは、ハインさんの気持ちが分かるぜ。強者であるほど楽しいってな。だが―――」 枯葉色の脚が、白銀を弾き飛ばす。 それとほぼ同時。白銀のガントレットに包まれた左の拳が飛来、右腕で叩き落とした。 ブーンは咄嗟に後退のステップを踏む。 プギャーはその動作を知っていたかのように、ぴたりとそれに追随した。 その左腕の鎌が振り上げられ、口元が笑みに歪む。 ( ^Д^)「それは己の強さを自覚出来る事の楽しさ、強者を力で叩きのめす楽しさだ! つまり、俺が勝つ! お前達は俺には勝てねぇよ!!」 (;゚ω゚)「ッ!!」 草色の輝きが、鋭く翻る。 横薙ぎにされた鎌の刃は、ブーンの脇腹に深く喰らい付いた。 紅い奔流が溢れ出し、ブーンの表情が苦痛に引き歪む。 プギャーはそのまま、ブーンの胴を両断しようと力を込めて――― (;゚ω゚)「おぉおぉおおぉおおおぉぉぉおぉっ!!」 ブーンは膝を跳ね上げ、進む鎌を静止。 残る一本の脚で後方へと跳躍した。 鎌の刃は粘着質な液体音を上げ、脇腹より抜け落ちる。 大量の血液が床を染め、尚も流れ落ちる血がブーンの軌跡を紅く残した。 プギャーは舌打ちしつつも、追わない。その表情はやはり笑顔。 ブーンは荒い息を吐き、熱い傷口を手で押さえた。ガントレットが、紅に濡れる。 ( ^Д^)「今のを逃れるとはな。ちょっと驚いたぞ。 まぁ、つっても時間の問題なんだけどな。すぐ殺してやるよ」 (#゚ω゚)「……うるさいお。殺れるもんなら殺ってみろお」 手に付着した血液を振るい飛ばして、ブーンは脚に力を込めた。 その動作にプギャーは笑い声を漏らす。 そして彼も脚に力を込めて、体勢を低く落とし――― (#゚ω゚)「おぉおおおぉおおぉおおぉぉぉっ!!」 ( ^Д^)「らぁあぁあぁあぁあああぁあぁあぁっ!!」 同時に床を蹴った。爆砕された床による粉塵が二つ、舞い上がる。 二人の距離は一瞬にして消失した。 跳ね上がった枯葉色の脚と白銀の脚が、正面から衝突する。 零になった距離が生み出したのは、轟音と弾け飛ぶ光。 そして音は、連続する。 (#゚ω゚)「おぉおおぉっ!!」 ブーンは脚を止めず、連続で、縦横無尽に空を走らせた。 跳ね上げ、振り落とし、回転させ、突き出す。 右脚を叩き落とされれば、左脚で。左脚を弾き飛ばされれば、その動きと勢いを利用して、新たな動きに。 一撃ごとに速さを増していく彼の脚は残像を残し、彼は無数の白銀の線を纏っているかのように見えた。 が、しかし。 それらの攻撃は、プギャーには届かない。 ( ^Д^)「っるぅぁあああぁあぁあぁあああぁっ!!」 彼は両腕両脚を用いて、ブーンの攻撃の全てを防御していた。 速さでは完全にブーンが秀でていたが、しかし彼の両腕はその遅れを無とする。 脚で応じ、遅れれば右腕で。右腕が遅れれば左腕で。左腕が遅れれば、脚で受けた。 戻る 目次 次へ |