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11 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:41:47.00 ID:KaUUj71H0
タイムスリップ及び未来というものに憧れたのはいつ頃からだったろうか。 おそらく、小学校時代だったと思われる。 特に急ぐ必要もなかっただろうに。あの頃、未来は絶対にやってくるものだったはずだ。 その頃の私はとかく漫画を読むことが好きで、特に「ドラえもん」が大好きだった。 未来からやってきた青狸は、私のような落ち零れ少年を手助けし、成長させる。 とはいえ、当時の私にとってドラえもんはただの便利屋としか映っていなかったのかもしれない。 夢を実現させようと本気で思いはじめたのは大学に入学したての頃、両親が交通事故で死んだ直後のはずだ。 裕福な家庭だったため、遺産は十分すぎるほど相続できた。親族と呼べる人間がいなかったことも幸いした。 近くの静かな小山の中に無断で小屋を建て、そこを研究所と称して引きこもった。 タイムマシンなどできるわけがない……そんな当然すぎる意見が周囲を席巻していた。 だが私には関係なかった。ひたすら夢……いや、むしろ確実に到来するとわかっている先の時代に突き進んだ。 そして、完成させた。 まるでカプセルホテルの個室のような空間は独自の理論上時空を超えることができる。 過程にはいろいろあったような気がする。 まず、結婚したのは確定的な事実だ。 それを完成させたとき、私はほとんどのものを失っていた。 妻も、娘も、財産も。最早後ろに道はなかった。 ひたすら前に進むほか、生きることは難しくなっていた。 13 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:42:15.74 ID:KaUUj71H0 三メートル四方の小屋は夏の熱気で充満している。 中には卵のような形状の物体が一つと、様々な工具類、それにコードで繋がれたパソコンが数種。 卵には人一人が入れるよう設計されている。殻の中は殊更暑いことだろう。 この場に空調を設けなかったのはミスだったか、などと今更考えてみる。 汗を拭い、最後のキーを押した。 途端。卵の殻は真ん中で割れ、空間が露わになる。 そこにはあらかじめ、札束を一つと必要な衣類を詰めたカバンを入れておいた。 さながら、旅行気分である。 蝉のけたたましい叫び声が、木製の壁の向こう側から耳を刺した。 年代を2100年と設定する。 それから、遠隔操作用のリモコンを掴んで卵の中に足を踏み入れた。 毛布一枚だけ敷かれた卵の底に横たわる。リモコンを操作し、卵の殻を閉じた。 全ての音が遮断された。無音の空間で目を閉じ、これでいいのかとしばらく黙考する。 だが、すぐさま考えることなど何もないことに気づいた。 もう後悔するべき事項は残っていないのだ。 妻は物心つかぬ娘を抱き、二日前に家を出た。それで、私と繋がりのある親族はいなくなった。 定職に就いていたわけでもない。誰かが、私がいなくなったと気づいても行方不明と処理され、それまでだろう。 リモコンの、一際大きな赤いボタンを押し、再び目を閉じた。 今度目覚めたときには約百年後に時間跳躍……もとい、タイムスリップしていることだろう。 静かな電子音が、私の体を包んだ。 14 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:42:37.59 ID:KaUUj71H0 気がつくと、電子音は途切れていた。 果たして成功したのだろうか……殻の中からでは判断できない。 頭の上にあるスイッチを押そうとしてしばし思い悩む。 目の前に、どのような世界が広がっているだろうかと。 核兵器で破壊された街の風景だろうか。或いは、漫画で見るような近未来都市だろうか。 地球温暖化の影響で水浸しになった街かもしれない。 そのような期待を胸に抱きつつ、私は卵から外界に踏み出した。 途端、寒風が私の肌を突き刺した。 そういえば、季節について全く考慮していなかった……いや、考慮していない事項は他にも山ほどあるが。 とりあえず旅行カバンから手頃なコートを取り出して身に纏う。 小屋を出ると、葉を落とした森林が闇の中に鬱蒼と生い茂っていた。 今が何時頃なのか……知る術は無い。ただ、夜であることは明らかだ。 そのまま草地を歩いて近くの道に出ようとする。 妙な不安が私を襲っていた。 視界を流れる光景が、一つも変わっていないからだ。 15 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:42:53.96 ID:KaUUj71H0 一時間ほどかけて街まで下りて、私は更に驚愕した。同時に絶望した。 夜景を見下ろしているときから嫌な予感はしていたのだが、それは的中してしまっていた。 街はほとんど変わっていない。 ところどころ、道路が舗装されている。古い一軒家の代わりに、新しい三階建ての家が建っている。 それだけだ。目新しい変化は何も無い。 住宅街を歩けば時折犬の遠吠えが聞こえる。 国道に出れば、ヘッドライトを輝かせながら車がいくつも目の前を通過していく。 車種に詳しくないのでよくわからないが、それらが目立った進化を遂げたようにも思えない。 そういえば、行き交う人々の服装もあまり変わっていない。 むしろ、私の知る時代より少し遡っているような気もする。 失敗の二文字が頭をよぎって、私は早足になってコンビニを探した。 とりあえず、今が西暦何年なのか、確認したい。 行きつけのコンビニは潰れてしまって新地と化していた。 駅前まで歩いてやっとコンビニを発見した。 旅行カバンを持ち歩いていることもあり、私はすでに満身創痍だ。 店内に入ってすぐ隣にあった新聞コーナーから売れ残った新聞を一つ抜き取った。 暖風が降ってくるなか、私はスポーツ新聞の上端に目を走らせた。 そこに書いてあったのは、私がタイムマシンを作動させて、ちょうど二十年後の四桁だった。 16 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:43:15.98 ID:KaUUj71H0 夜風が顔に突き刺さる。 私はおぼつかない足取りでどこかに向かっていた。 とりあえず暗いところへ……と思っていた。 私の行動は二割ばかり成功していた。 未来に行くには行けたが、2100年からはあまりにもかけ離れている。 これから普通に人生を送ったとしても22世紀を迎えることはできないようだ。 ドラえもんにも会えない。 おそらくタイムマシンの故障が原因だろう。 約百年跳躍しなければならないところを、途中の二十年で停止してしまった。 だとしたら、未来に行けただけでも幸運なことなのかもしれない。 しかしこれでは意味がない。 私はもっと、遠い時代が見たかったのだ。 そこにあるのがたとえ絶望でも……である。 ふと立ち止まる。 そもそも、未来に来て自分はどうするつもりだったのだろう。 旅行カバンに目を落とす。 そこに入っているのは何日分かの衣類と、少しの小物だけ。 とても未知の世界で生き抜ける装備ではない。 17 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:43:36.53 ID:KaUUj71H0 いや、そんなことはどうでもよかったのだろう。 私はともかく前へ進みたかったのだ、長年の夢を、叶えたかったのだ。 そして逃げたかったのだ。 ただそれだけのために未来にやってきた。 その後のことなど知ったことか、のたれ死にするならそれも運命でしかない。 古びたビルの入り口に座り込む。 そこは街灯もほとんどない、延々と暗闇が広がる場所だった。 二十年前、何度か通ったことがあるような気がする。 あまり変貌したわけでもない、捨て去られたような裏路地だ。 しばらく思考に沈む。 これからどうするべきかを真剣に考えてみる。 最善はおそらく、タイムマシンを修繕して更に先の時代へ飛ぶか、元の世界に帰ることだろう。 しかしそれにはリスクがまとわりつく。 またも失敗したらどうなるだろう。今度こそ、助からないやもしれない。 それを恐れているというわけでもないのだが、ともかく今は疲れている。 何をする気にもなれないのだ。 旅行カバンに顔を埋め、眠るつもりもないが目を閉じた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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Mar 9, 2007 10:19:56 PM
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