『悪道』森村誠一 、第45回吉川英治文学賞、講談社文庫、初版2010年8月9日
時は元禄、赤穂藩主の浅野匠守が江戸城松の廊下で、吉良上野介に斬りかかるという事件を起こした年のこと。
将軍綱吉は、柳沢吉保邸にしつらえた能舞台で、『高砂』を舞っていた。突然、綱吉が倒れた。その場にいた御典医が診察したが、すでに事切れていた。
柳沢は、綱吉が死んだことを隠し、影武者をたてた。そして、綱吉が死んだことを知った者たちを殺害していった。
しかし、柳沢の追及の手を逃れた者があった。将軍の警護をしていた流英次郎、影武者の教育をした立村道之介、御典医の娘・おそでだった。
3人は、奥州(東北地方)に逃げた。柳沢は、猿蓑衆といわれる将軍直属の刺客を放った。
3人は、何回にもわたってやってくる刺客を跳ね返した。そして、おそでが怪我の手当てをしたことから恩義を感じた雨宮主膳という浪人、猿蓑衆のひとり霧雨、元スリの銀蔵、馬子の弥ノ助が仲間に加わった。
一方、影武者はどうなったか。何と立派に将軍の仕事をこなしていた。
天下の悪法『生類憐みの令』を段階的に緩和し、柳沢に代わって仙石伯耆守を登用し、これまでの悪政を正していった。つまり、柳沢の操り人形にするつもりだったのが、本物の将軍になったのだ。ここに柳沢の計算違いが生まれた。
奥州に向かう英次郎一行は、自分たちが松尾芭蕉のたどった道を行っていることに気が付く。また、影武者になった男の生まれ故郷に行き着いた。
本書は、人の宿命とは、権力とは何かを一つのテーマにしている。
奥州の寒村に生まれた影武者は、たまたま姿かたちが綱吉に似ているということで、影武者として育てられ、本物の将軍としてその権力を使うようになった。
また、綱吉が影武者であることを知った英次郎らは、刺客から逃れるため逃亡の旅に出たが、綱吉に探しだされ、彼の側近になった。
一方、権勢をほしいままにしていた柳沢吉保は、影武者が将軍になったために失脚してゆく。
さらに、これに元赤穂藩の浪人、松尾芭蕉がかかわってくる。
また、まったく先の読めないストーリー展開が、読者を引き込んでゆく。
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