『英雄の書(上巻)』宮部みゆき 、新潮文庫、単行本初版2009年2月1日、毎日新聞社
本書『英雄の書』は、上下2巻からなる宮部みゆきさんの長編ファンタジーだ。
森崎大樹は中学2年生。勉強もスポーツもでき、みんなからの人望も厚い。両親にとって自慢の息子だ。小学校5年生の妹・友里子にとっても自慢の兄だ。その大樹が、2人のクラスメイトをナイフで刺し、逃走した。
数日後、友里子は大樹の部屋で、赤い本に話しかけられた。それによると、大樹は「英雄」に捕えられ、この世と次元の違う「無名の地」に行ったという。また、赤い本は、大叔父の別荘にあった死者を蘇らせる『エルムの書』とともに、大樹が持って帰ったと言った。
友里子は、兄を探すため別荘に行き、そこから無名の地へと旅立った。友里子は、大樹を発見できるのか。本書は、友里子が兄を探すまでを描いたファンタジーである。
なぜ、大樹は英雄に取り込まれたのか。それは、大樹が大きな怒りを持っており、それを発散したいという欲求を持っていた。そこを英雄につけ込まれたのだ。では、大樹の怒りとは何か。
友里子は、調べてゆくうちに大樹の同級生の乾みちるから、ある事実を聞く。それは、大樹がいじめにあっていたというのだ。なぜ、兄はいじめられていたのか。
宮部みゆきさんは、人間の持つ怒り、それは正義感から出るもので、ここではいじめを取り上げている。ここに、本書のテーマがあるのではないか、と私は読んだ。
また、本書はファンタジーなので、得体が知れない様々なものが登場する。友里子は、無名の地で大僧正から『ユーリ』という名前を与えられ、ソラと名付けた無名僧と赤い本が変身したハツカネズミを従えて、冒険に出発する。
さらに、この世に帰ってきたり、別の次元の世界に移動したり、ユーリが魔法を使えるようになったり、奇想天外なエピソードがてんこ盛りで、映画にすればヒットしそうだ。
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