『刑事のまなざし』薬丸岳 、講談社文庫、単行本初版2011年6月30日
<あらすじ>
10年前、夏目信人の娘・絵美が何者かに襲われ、植物状態になった。彼は法務技官を辞め、警察官に転職。今は東池袋署の刑事をしている。『刑事のまなざし』は、夏目が刑事として事件を解決する短編7篇が収められている。
『オムライス』。看護師の恵子のアパートが火事になり、内縁の夫・英明が死んだ。当時、放火が相次いでおり、警察はその線で捜査を始めた。
しかし、夏目は連続放火事件と違うと見て、恵子を調べた。
そんなある日、恵子の息子・裕馬が自首してきた。
『黒い履歴』。児童虐待が一つのテーマになっている。
小出伸一は、9年前まで殺人罪で少年院にいた。姉・奈緒子とその娘・春奈の住むアパートに居候している。小出は、前科があるので就職活動がうまくいっていなかった。
ある日、アパートの大屋・横瀬透が殺害された。
『ハートレス』。ホームレスのテントでショウと呼ばれる男が殺害された。松下雅之は数ヶ月前からここに住んでいた。ひとり息子がひき逃げに遭い、それが原因で荒れて妻に逃げられ、会社を辞めた。
事件後、ホームレス仲間はよそに移って行ったが、松下はナカという仲間の体調が悪かったので面倒を見るために残った。
『傷痕』。仲村有香は不登校でリストカットを繰り返していた。カウンセリングをおこなっているのが、大学院で夏目と同期だった田辺久美子だ。
ある日、沢村浩司の変死体が自宅マンションで発見された。彼の携帯の記録に有香の名前があった。
『プライド』。マンションの一室で女性の絞殺死体が発見された。そばに使用済みのコンドームが落ちていた。
夏目は警視庁の刑事・長峰と組んで聞き込みに回った。長峰は、10年前、夏目の娘を襲った事件の捜査をしていた。
『休日』。吉沢篤郎は製菓会社の営業課長で家に帰るのが遅い。妻を10年前に亡くし、中2の息子・隆太と2人暮らしだ。隆太は手のかからないいい子だった。
その隆太が、犯罪にかかわっていることが分かった。
『刑事のまなざし』。塚本聖治は、10年前に夏目の娘・絵美を襲った。たまたまそれを同級生の太田徹が見ていた。今になって、太田はそれをネタに聖治を脅した。
進退きわまった聖治は、太田を殺すことにした。しかし、太田の部屋に侵入したら、すでに彼は何者かによって殺されていた。
<良さんのコメント>
本書『刑事のまなざし』の最大の読みどころは最後のどんでん返しにある。普通、推理小説というのは、読んでいてこの人物が犯人ではないかと思う者が犯人ではなくで、まったく予想外の人物が犯人であることが一つの定石になっている。
しかし、本書もそうだが、結末が想像もつかない結果となる。犯人が自白して、事件が解決したかと思うと、夏目が「本当のことを話してください」と問いかけ、真相が明らかになる。
また、人間模様が展開され、推理小説としてはかなり完成度の高いものになっている。
(2013年12月23日)
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