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小説家わかつきひかるのブログ

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2014.01.06
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カテゴリ:カテゴリ未分類
私はカルチャーセンターで小説教室をしていますが、スーパーの教室なので、「ちょっと小説を書いてみたい」という方が受講されます。

お年寄りの受講生の方は、戦争体験をされていたり、珍しい体験をされていたりして、お話がとてもおもしろいです。
戦争体験は語り継いで欲しいと思うし、ぜひ、ご自分の体験を、ご自分の手で書いて頂き、その体験を残していただきたいと思い、微力ながらお手伝いをしたいと思っていたのです。

ところがこれが悩ましくて。
お年寄りの方は達筆で、旧書体の略字のくずし字で、数字が尺とか寸とかで、読みにくいのです。
それはまだいいのですが、困るのは、神の視点の三人称になるところ。

体験「談」だから、「私は~だった。私は~思った」という書き方が望ましいのですが、「○○さん(自分のこと)は~であった。それは~であるからであろう。それはすなわち~であって、~の証左であり、よって~が可能となったと思われます。したがって~べきであり、~なのでありましょう」という、お説教的な論文調になるのです。
「談」なのに他人ごとで、批評研究レポートみたい。

これは読む方がつらいです。
戦争体験自体がハードだし、知らない言葉が説明なしでいっぱいでてくる。
いちいち調べなくてはならない。なじみがない知らない世界。
文字そのものも読むのが難しい。それで論文でお説教だと、重くて重くて読めないですよ。
私は仕事だから読みますが、普通の生徒さんの数倍大変です。

今の人たちにもわかるように書いて頂いて、貴重な体験を、若い人たちに伝えて欲しいとお願いしました。

私は、
を差し上げて、一元視点の一人称はこれです。こういう書き方だと若い人にも伝わります、と説明しました。

「永遠の0」はおもしろかったとおっしゃったのですが、文章を書いてもらうとやっぱりお説教論文になるのです。

「赤を入れるのではなく書き直してくれ」「私の言ったことを小説にしてくれ」とおっしゃられたのですが、それはできない。
私が書き直すと私の文章になってしまい、私の下手なところを伝えてしまう結果になる。
(正直、赤を入れるより書き直すほうが手間がかからないのですけど、私は書き直しはしません)
(私はライター経験があるから、聞き取りで記事を書くことはできますが、小説教室の趣旨は「自分で」小説を書くことだと思うのです)

体験「談」なのに、どうして神視点三人称になるのか、私にはさっぱりわかりませんでした。

別の受講生の方が、「昭和初期の作家って、神視点の三人称ですよ」と指摘してくださって、驚きました。

青空文庫でいくつか昔の小説を読んだら……。
たしかに、神視点三人称でした。

なるほど、お年寄りは、若いころに神視点の三人称の小説を読んで、それが美文だと思ってこられたのですね。

小説って、時代とともに変わっているんですね。ぜんぜん知らなかった。
まあ、私が生まれる何十年も前のこと、知らなくて当然なのですが。

そのお年寄りの方はお辞めになられたのですが、後悔しています。
カルチャーセンターにこられるのは、楽しく小説を書きたいからですよね。だったら、視点とか人称だとか指摘せず、好きに書いてもらったらよかったのではないか。

内容を誉めて、いい気分になってもらって、二時間楽しく過ごしてもらって、それでよかったのではないか。
カルチャーセンターの先生は、生徒さんを楽しませるためのサービス業だと考えるべきではなかったのか。

でも、私は、コッパ作家といえど作家です。作家としてのプライドがあります。
私は、文章は、他人に読んでもらってナンボだと考えています。
どれほど内容が興味深くても、読んでくださる方がわかるように文章を書かないとダメだと思っています。
難解で読みにくい美文よりも、平易で読みやすい文章を書くべきだと思うのです。

一元視点一人称と一元視点三人称をスイッチする「永遠の0」は、平易で読みやすい文章で書いてあったから、若い人も読むことができた。
戦争体験のない私も感動して大泣きしてしまったけど、崩し字の達筆の神視点三人称の他人ごとのようなお説教論文では、感動は伝わらないのです。
お説教されて楽しい人なんていませんから。

でも「読者を意識して、読者に伝わるように書きましょう」なんて、「ちょっと小説を書いてみたい」という受講生には、よけいなことかもしれません……。
答えはでません……。悩ましいです。





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最終更新日  2014.01.06 10:27:20



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