スジのおはなし その2
スジのおはなし、その2よく考えてみると、別にたいした内容でもなし、特別に変わった子というわけではない。外見は普通にかわいいし、性格も悪くない、ごく普通の高校1年生に見える。 スジが1,2回参加した基礎クラスの先生は、スジの実力はよくわからない、というので初日の授業はお決まりの「自己紹介」をさせた。最初は「え~」と、ぶりっ子していたスジだったが、私がいろいろ質問をすると、しゃべるしゃべる・・・ 「今日はなにを食べましたか?」 という質問から、スジは母が作る食事がおいしくないと話し始めた。スジは思春期だし、母への反発心もあるだろうし、スジ自身もまだ生意気な子供だから「母の料理はマズイ」というのだと初日の授業では思っていた。 だから、「先生も料理下手だよ。でも、スジのお母さんはきっと心を込めて作っているんだから、文句言わないで食べてあげようよ。そして、たまにはスジもお手伝いしようよ」とやんわりと言っておいた。 授業が終わって、スジのお母さんから電話をもらった。慶山道なまりのお母さんだった。もしかしてクレームがついた?とビビッたが、お母さんは「先生、どうもありがとう。スジがとっても喜んで帰ってきました」というので私も安心して「スジはとってもいい子で、日本語もほかの子より上手です。日本語の勉強を続けたらいいと思います」とスジをべた褒めして電話を切ろうとした。(授業中だったので)すると「あ!でも先生、娘が私の悪口言ったでしょ」「え!?それは、その・・・(しどろもどろ)」「確かに料理は下手なんだけど・・まったくあのこったら」「高校生なんてみんなそうですよ、私も母に反発してましたから」「そうかしら・・・」「スジはいい子ですし、勉強もがんばるといっていますから、安心してください」なんて言った。 その後の授業でもお母さんの料理下手の話が出たが、私は「スジやもうちょっとチョルドゥロラ~」と言ってきたのだが、先日、ホントにお母さんの料理センスのなさを実感することに。センスがないというより、これでいいのか?同じ母として、ちょっと問題だなと感じざるをえない話だった。 その日スジは青白い顔で授業に来た。その前の日の授業は体調が悪くて出られず、学校も休んだというので、心配になって聞いた。「大丈夫?ご飯は食べてきた?」もともと夜ご飯を食べて学院にくる時間はないのだが、その日は朝から何も食べていないというではないか。 私はお母さんから「スジがもっと自分でなんでもやれたらいい。ご飯も自分で作って食べてほしい」という愚痴を聞いていた。 あまりにしんどそうなのでキムパプを買ってあげてスジに言った。「スジも体が弱くて大変だろうけど、自分のことは自分でできるようにしよう。家にご飯は炊いてあるんでしょ」すると「炊いてあることはあるんですけど、お母さんはなんでも沢山作る人なので、ご飯も一度に沢山炊いて、なくなるまで食べ続けるから・・・」スジはお母さんと二人なので、炊飯器にいっぱい炊いたら、食べきれない。「だいたい4,5日それを食べ続けなければならなくて・・・何日かおいておくとご飯が変色して黄色くなるので、食べたくないんです」私はびっくりした。2日ぐらいならわかるけど、4、5日置いたら腐っちゃうんじゃない?「こういうキムパプも余ったら日の当るところに置いておくんです。そうすると、からからに干からびて・・・どう見ても腐ってるんだけど『まだ食べられる』って・・・そしてお母さんに新しいご飯を食べたいって言うとやっぱり『まだ食べられる』って言われるし」そりゃ、かわいそうだ。お母さんも余らない位に少しずつ炊いたらいいのに。「おかずは?肉とか魚とかちゃんと食べてる?」「お母さんは肉や魚を全然食べなくて、野菜しか買ってくれないんです」「え!育ち盛りなのに!」「この間は豆もやしを大量に買ってきて、大量のナムルを作ったんだけど、『こんなにおかずがある』って自慢されて、あいた口がふさがらなかった」それもなくなるまで食べ続けるんだろうな・・・ 「お母さん忙しいし、料理に関心ないお母さんもこの世にはいるんだから、あきらめて、スジが料理を作るようにしようよ。ご飯もスジが食べるときに少ずつ炊いたらいいよ。それから、お肉が食べたいときはお母さんにお金をもらって買って食べたらいいよ。そうしようよ」「お母さん、そういうお金くれないんです・・・そんなお金あるかって言われちゃう・・・それに、一人で食べるのは寂しいし・・・」 私は韓国で、どんなに貧しくても食べるものだけは食べさせるという家庭は結構見てきた。しかし、こういうケースは珍しい。ただでさえ弱い娘なんだから、自分で作れなかったらでき合いの物でも用意するとか、神経を使ってもいいんじゃないだろうか。料理が下手だという前に、あまりにも無頓着だと思った。世界でただ一人の娘なのに・・・ そう思ったら、私は一回一回心を込めて作っているかな?と反省されられた。食卓で子供は成長するのかもしれない。ご馳走でなくても家族が和やかに食事をする時に、子供の情緒も安定するのではないだろうか。スジにはそれがない。家に帰ると一人きりで、母親が炊いた数日前の黄色いご飯を食べなければならないとき、彼女に安定を望むことはできないのではないだろうか・・・ 彼女は確かに精神的に不安定だった。こういう子を抱える親も大変かもしれない。しかし、スジはまだまだ子供なのだ。(不定期につづく)