2006/10/14(土)20:50
FARM 連詩「光」4~6
1物語の始まりはそれぞれに
かがやく夢を抱いているだろう
雨上がりの朝に張り渡すクモの糸
ここからそこ そこからまたその先へ水滴の
透明な玉のひとつぶひとつぶを連ねて
すべてはそれら
鈴なりの小太陽から始まってゆくのだとすれば (豊美)2誰かが
Look for the silver liningと歌っている
悲しみと敵対の雲に覆われた世界でも
どこかで太陽は輝いていると
分離壁のそれぞれの内側で
誰かが歌っている
苦さをかみしめて 雨にうたれながら (英己)3どんなことにも よい半面があってくれなければ
と歌の願いに染まって 夢からさめ
まだ明けきらない 弱い光に
不随意の装置が動きだすのを 私は感じとった
まだ語られていない物語の
小さな窓がひらく
遠いとも近いともいえない そこに
姿は見えないが
人がいて その心臓がしずかに打っている (健二)
4光の少ない日には
身近な発見を数えよう
窓辺の鉢植えのサボテンについた花芽
幼な児の口元に出現した真っ白い乳歯
こんにちわ
カタコトがこぼれる
水道の蛇口が開かれる
匙が、コップが、皿が、薬缶が、テーブルが
身の回りのあらゆる些事がうたいだす
懐かしいあの小声の唄 (豊美)5暮れてもまだ光の残っている秋の空
「汝は一つの死体をかかえている小さな魂にすぎない」
マルクス・アウレリウスの言葉をかみしめながら地上を歩く
水は増水の汚れをすっかり払い落とし、澄んだ川として流れる
樹木は緑の剣先を凋落の予感ゆえに懸命にのばし
黄色の蝶がコスモスの花の上を
夏の愛を想起するかのように踊っている
この足の一歩が
小さな魂の足跡である
笑う仮面や、泣く仮面
「さんたんたる配慮」と文三は言うが
この心臓の音の途切れるまで、あそこの緑のその向こうまで
澄明な秋を歩いてゆこう (英己)6ぎしぎしと鳴る床を歩いて
存在を証明した
飛べない魂
その夏の事情は キッチンの籠の
十数本の茄子となって艶やかに休み
「トルコでは、茄子の調理法を
五十くらいおぼえておかないとお嫁にいかれないよ」
庭仕事に戻る私は
本で読んだそんなセリフを思い出して
自分の死体からにじむものを薄くした
元気を出した ということだが
もう秋のゆうぐれだ
切り落とした枝と葉を大袋に入れ
光を 心の小屋の
闇のなかにしまって
茄子と酒をもって人に会いに行く (健二) (めも)光を 心の小屋の
闇のなかにしまって
茄子と酒をもって人に会いにゆく福間さんの上のフレーズはすごく印象的で、「心の小屋」にいつまでも残りそうだ。(やがて八王子米に)