2007/08/14(火)22:42
夏ゆれて、夏にゆれて
夏の芙蓉が一輪、風にゆれて、風もないのにゆれて、
サー・トマス・ブラウンの言葉、「過ぎ去る時間の阿片には、解毒剤はない」
きみの花びらの、五つの花びらの、その奥にある蕊の性別がわからない
重なる花、百日の紅を生きて、過ぎ去る時間、過ぎ去る時、シリウスの日々
それでも生命の五点形(クインカンクス)に夏ゆれて
教会の下の公園で、夏にゆれて
「神の言葉は生きていて、力があり、もろ刃のつるぎよりも鋭く、‥
関節と骨髄とを切り離すまでに刺しとおして‥」
あたかも解剖台の医師のように、いや解剖台の死体のように
きみの花びらが切り裂かれ、地に堕ちる
過ぎ去る時間の阿片
審判のときまで、夏にゆれて、夏ゆれて
しかし、罪深い肉体は頭蓋骨となって葬送の火を逃れた
再生のむなしさよ
異教徒の火に焼け残った
祖母の小さな腿の骨をぼくはまだ持っている、ポケットのなかに
甘酸っぱい腿
翡翠(かわせみ)が低空で片倉の蓮池を飛行して消えた
蓮の緑の大きな葉が揺れた
風もないのに
生きているものたちがここにいるのだ
夏ゆれて、夏にゆれて
過ぎ去ることなく