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カテゴリ:小説A
068 私は壁にもたれかかって溜息をついた。 副島春樹と呼ばれた男に逃げようといわれても、何とも思わなかった。 胸は高鳴るどころか、冷めていくばかりだ。 こんなとこ、抜け出せるはずがなかった。 万が一にも脱獄者が出ないように厳重に警戒されている中で、私の力は小さすぎた。 多分、この男だってそうだろう。 けれども、この男は面白かった。 今まで出会ってきた者の中にはこのような男はいなかったように思う。 私は胸中で笑った。 私の処刑の日はすぐ近いように思えた。 実際、反乱者の処刑は、投獄されてから約一か月後に行われるのは通例だった。 私がここに投獄されてから約三週間がたっているように思う。 時間の感覚が狂ってきているので、正確にとは言えないが、そろそろだ、というのはわかっていた。 投獄された当初は、脱獄も考えたが、すぐに諦めた。 現実が、不可能だと告げていたのだった。 私はもう一度、深い、溜息をついた。 私は横になった。 おそらく、外は夜だからだ。 予想するのは簡単だった。夜の門番が決まっているので。その門番に交代されるときはたいてい夜だと確信していた。 男も諦めて私と距離を置いたところに横になる。 そんなに距離を取らなくても、と思うが間違いが起こると私もたまったものじゃないのですぐに目をつむった。 物音がしたのですぐにパチリと目を開く。 その瞬間、門番の首は遥かかなたに飛んでいたのが見えた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年07月28日 18時17分11秒
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