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百花繚乱

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2008年10月11日
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カテゴリ:小説A


#4


その日も僕は、教会の裏に足を運んだ。
もしかしたら、昨日の女の子に会えるかも知れない。そんな期待をしていた。

―――秋穂、夕。

名前を胸中で呟くたびに、何とも言えない感覚がした。
それが僕にとって二度目の恋であることは、自分でもわかっていた。
たとえ、一目ぼれで、昨日初めて会って、昨日の女の子が僕のことを何とも思っていなくても、それは仕方のないことだった。
けれど、その反面、僕はもう恋なんてしないと、誓っていたはずだった。
だから、この恋は不覚だった。してはいけないものだった。
恋なんて報われるはずがないのだから。


○○○


高校一年の時、初恋をした。
一般からしたら、遅いのかもしれない。もしかしたら、それよりずっと前に、初恋なんてしているのかもしれない。
けれど、この時、初めて"恋"という感情に芽生えたんだと思う。
その時の僕は、まだ、本ばかり読む物静かな感じでも、友達がいなかった訳でもなかった。
安定した仲間と、それなりのノリをもった、普通の高校生だった。

――そんなとき、僕は初恋をした。

その時も一目ぼれだった。近くの有名な神社の娘だった。
小柄の、かわいらしい少女だ。
彼女を追いかけるように、同じ文芸部に入った。廃部になりかけの文芸部には三年生一人しか部員はいなく、その優一の部長も、受験があるらしく、ろくに顔を出さなかった。
文芸部に入ろうと思ったモノ好きは居る訳もなく、毎日、僕と彼女は放課後、部室で本を読みふけっていた。

ある日、僕は彼女に想いを伝えた。そして、あまりにもあっさりと、僕たちは彼氏彼女になった。

「海って、世界中と繋がっているんだよね。うらやましい。私も、そうやってたくさんの人と繋がって、必要とされる人間になりたい。」
彼女はいつもこういった。
僕は、それを軽い意味として、ただ相槌を打った。そうして、彼女を抱きしめた。
小柄で細い彼女は、力いっぱい抱きしめると壊れてしまいそうだった。ウサギや猫を抱いてあげる感じで、僕はそっと彼女を包みこんだ。僕はその時、彼女にキスをしようと思った。
体を離して、彼女に向きなおった。僕の顔が、彼女に近づいていく。
「ダメ…」
彼女が呟いた。僕は慌てて顔を離して距離をとった。
赤面しながら、その場をお互いに誤魔化した。


夏休みから、彼女は僕を避けるようになった。
僕は戸惑った。
「どうして、僕を避けてるの?」
僕は彼女に迫った。けれど、彼女は首を横に振って僕から逃げるのだった。
取り残された僕は、泣きそうになった。けれど、意地で歯をくいしばって泣かなかった。
まずは彼女が僕を避けている理由を訊こう、と前向きに考えた。

夏休みの中盤、僕は再び、彼女に迫った。
「別に、避けてなんか、ない」
彼女はそう言ったが、眼は僕を向いていなかった。
「嘘だ……」
「嘘じゃ、ないわ」
「じゃぁ、どうして僕から逃げるんだ?言いたくはないけど、いい雰囲気になったとき、いつも誤魔化すのはどうして?」
「それは……」
夕日が二人を照らした。
遠くから見ていたら、こんな話をしていなければ、かなり幻想的で、最高の光景だったのだろう。そうならなかったのが、残念で、悔しかった。
「私、もうこれ以上、高橋君とは付き合えない…」
静かな声でそう切り出した声は僕の頭の中を何度も駆け巡った。
「ど、どうしてだよ…。僕が、嫌いになったのか…?」
頭を強く打った感覚に襲われ、目眩がした。
急すぎる別れ話に、度惑いとショックを隠せなかった。僕は口を半開きにしたまま、理解に苦しんだ。
彼女は首を振って、今でも好きよ、と言った。そして、俯いた。
「―――私には、許嫁が、いるから…」
世界が歪んだ。
許嫁?今時、そんなもんが残っているのか?
有名の神社の娘だからか?いくらなんでも、許嫁は、ないだろ…?
許嫁という本の世界でしか見たことがない言葉に僕は唇をかんだ。少し、血の味がする。
「家のしきたりだから。分家の方から選んで、結婚するの。昔から、そうしてきたから」
そういった、彼女は少し、泣いていた風に見えた。逆光で分からなかったけれど、僕の勘違いかもしれないけれど、眼に、涙を浮かべていたように見えた。
僕は『しきたり』を呪った。呪って呪って呪って呪って呪って呪って、恨んだ。
高校生の僕には、その『しきたり』という言葉が、大きすぎた。
どうすることも、できない。
そんな僕の非力さに、今度は自分を呪った。

―――彼女といたい。
―――けれど、許されない。

彼女と付き合ってから、手は握ったが、キスは一度もなかった。
いつも彼女が、その場を制して、ブレーキをかけた。
そうやって僕との距離に一線を引いていたのかも知れない。
僕一人だけが、心踊っていたのかもしれない。彼女は、はじめから分かっていて僕との交際を受け入れたとしたら、彼女は苦しんでいたのかもしれない。
『好き』という気持ちと『しきたり』という呪縛の中で彼女は苦しんだはずだった。
どちらかを選ぶかは、決まっていた。
「だったら…、だったらどうして僕と、付き合ったり、したの?」
「反抗して、みたかった。親に。いつも私は親の言うとおり勉強して、進学して、しきたりを守ってきた。けど、そうしてるうちに自分が虚しくなって、一度でいいから、親に、反抗したかった…」
そう語った彼女を僕は直視できなかった。
拳を強く握った。怒りと、苦しさで体が震えていた。爆発してしまいそうだった。
それをギリギリのところで抑えているのは、彼女の前だからという、ちょっとした意地だった。
「やっぱり、僕のことは、別に…」
「それは、違う…。初めは、誰でもよかったけど、けど、今は、高橋君にしてよかったと思ってる。私は高橋君が好き。それは変わらない。けど…」
数秒間の沈黙が流れた。
とても長く感じられた。立っているのに精いっぱいな僕にとって、その時間の沈黙は僕には重かった。
「これ以上、すすんだら、もう、戻れなくなる…から。私は、これでも、水島家の一人娘だから…」
最後にそう残して、彼女は僕の前から去った。
僕の初恋も終止符が打たれた。僕は、恋は、辛いと知ってしまった。
数日は立ち直れなかった。
彼女の顔を見るのも怖かった。見たら、自分が壊れてしまいそうで、必死に布団の中で彼女の存在を消そうと努力した。
彼女―――水島は確実な一歩を踏み出したんだ。僕と別れることで、水島の名を守ったのだ。多分、勇気のいることだっただろう。けれども、彼女はちゃんと勇気を出した。
彼女の勇気を犠牲にしてはいけない、そう思った。

―――僕は、恋という感情を捨てて、彼女に笑顔を向けることができる人間になろうと、努力した。

―――僕は、もう恋はしないと、誓った。









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最終更新日  2008年10月11日 22時24分26秒
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