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カテゴリ:小説A
空は繋がっている。 人を、町を、山を、海を。 朝やけ、昼空、黄昏時、夜空。 いつも、絶たれることなく、包み込んでいる。 000 夜。ようやく私は廃駅から一歩、外に踏み出す。 月明かりが優しい。星が光っている。 昔はもっと星があった。 この駅がまだ運行して、電車が通っていたもっとずっと前。 星は、数えきれないくらいにあった。 ひとつの星座さえ、見つけるのに苦労した。 けれど今は、街中が光で溢れかえっている。星は存在を隠し、より強く光っているものしか見えなくなってしまった。 「……ふぅ。」 嘆息をついて、私は一歩、一歩と外へ出る。 001 「愛だな。」 「そうか、愛なのか。」 「もちろんだ。愛がなくてどうして語ることができようか、否、語れまい。」 「その反語法強調も、愛の一環か?」 「ようやく分かってきたではないか。そうだ。杉田玄白だって愛で解体新書を訳したように、俺達も愛でみつけようじゃないか!」 そう言って健一(けんいち)は俺に肩をかけてくる。 暑苦しいからやめろと一蹴、俺はもう一度空を見上げた。 健一が望遠鏡を設置し始める。 健一は天文部、といってもまだ同好会だが、それを立ち上げるくらい星が好きな奴だった。 なにか、何万年、何百万年かかってやってくる星の光に神秘を感じるのだと、初めて健一と喋ったときに語ってくれた。 俺も少しばかり星や空には興味があった。 だからこうして、二人並んで天文同好会の活動にいそしんでいる次第である。 「フッ…見よ、宵の明星、ヴィーーーーナスだ!」 「金星、そろそろ暮れる時間だな。」 「お前にも見えるか。やはり愛があれば金星とて肉眼で見ることができる!」 いや、愛がなくても、と胸中で呟いて金星を見る。 その金星は、明るい街の中でも、堂々と光っていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年03月05日 16時53分31秒
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