カテゴリ:小説 エンジェルダスト
第2章 ディサイデッド 12
「ミサトのウィンク日記(6月6日 火曜日)」、エリカ:1回、セバちゃん:2回、キキョウ:1回か? 次にあたしのウィンクで悩殺される対象者、即ちキルタイはやっぱりスグルだね~。 「あのう、ミサト様!お顔のメイクが落ちかけている上に、お顔が何かユルユルに成られていますし、わたくしも限界なのでそろそろ出ませんか?」 「だね~」 あたし達は、岩盤浴の部屋に入ってまだ20分も経っていなかったが、さっさと部屋を出た。 「次、ミストサウナ!エリカちゃん、行くよ!」 「は~い」 エリカは根性を発揮して、ミストサウナを10分近くも耐えた。 「じゃあ、最後に高温サウナね」 その3分後、エリカは高温サウナの中であたしに車中で羽交い絞めをされた時以上に、ぐったりとなってしまった。 「あら、大変!キキョウさん、エリカちゃんに警護・・・じゃなくて救護が必要です!」 「かしこまりました」 キキョウは、その鍛え抜かれた筋肉質の腕でエリカを抱えるとシャワールームまで運んだ。 「わたくし、こんなに気持ちが良いジャワーを浴びるのは初めてです」 隣のシャワーブースからエリカのはしゃいだ声が聞こえたので、あたしはホッと胸を撫で降ろした。 エリカは若いので体力が回復するスピードも速いようだ。 あたしはエリカに対する羨ましい気持ちを抑えながら、メイクをしっかりと落とした。 そこにはヘアスタイルに全くマッチしていない生来のマヌケ面が露出していたが、シンディが「アンバランスな美しさを追求した」と言っていたのを思い出して、これもアンバランスな美しさの極致かもね?とあたしは納得した。 それから休憩スペースで寛いていると、予約時間の10分前に館内放送であたしとエリカのロッカーキー番号がコールされた。 「何かが有ったら、錠剤のボタンを押して下さいね!」 キキョウの言葉に、あたしは「あいよ!」と答え、エリカは大きく頷いた。 マサージルームエリアの受付に行くと、赤紫蘇のエキスをアセロラで割った飲み物がウェルカムドリンクとして出され、ピンクソルトの足湯に浸かりながら、あたし達はその日の体調などを問診票に記載した。 次にエッセンシャルオイルを選定する事に成ったので、あたしはベースオイルに肌に滋養を与えるアンズの種子から作られる「アプリコットカーネルオイル」を指定した。 アロマオイルの方は、ここのSPAはフランスのプラナロム社製のメディカルアロマを薦めていた為、薬草感が強くてウェルカムドリンクの赤紫蘇と合わせる意味で濃厚な甘い薔薇の香りが特徴のシソ科「タイムゲラニオール」を選んだ。 最後にセラピストを選ぶ事になったが、事前指名制度がない為、誰もが手空きのセラピストの中から指名する事が決まりになっていた。 セラピストは当然ながら、全員が女性だった。 あたしはこうした本格的なアロママッサージを受ける事が初めてだったので、コミュニケーションを重要視して日本人のセラピストをお願いした。 エリカの方は英語が堪能な本場のベトナム人セラピストを選んだ。 そして、あたし達がマッサージを受ける部屋に案内されようとした時、キキョウが受付のスペースに入って来た。 あたし達がマッサージを受ける部屋を、予め確認しておく為だろう。 「あっ、お客様!マッサージのご予約でしたら、入り口の総合受付の方でお願いします」 マサージルームの受付を担当している女性がキキョウにそう言った。 「その人はあたし達のお友達で、次回はマッサージを受けたいらしいので、コースの説明とかをして貰えませんか?」 「そうでしたか?それは失礼致しました。お客様、どうぞこちらの席にお座り下さい!今、パンフレットを持って参りますので」 キキョウはあたしにウィンクした。 先刻のお返しという訳か! ジェファーの訓練メニューにはウィンクの訓練も入っているのかな? その熟練度と完成度に於いて、あたしはキキョウに対して完敗を認めざるを得なかった。 あたしが案内されたマッサージルームは、壁がチョコブラウンで床のフローリングは濃いベージュだった。 棚や調度品からは東南アジアの雰囲気が醸し出されていた。 あたしにはそれらがタイ製なのかインドネシア製なのかマレージア製なのか、全く区別が付かなかったが、このお店が出来た背景からすると恐らくベトナム製品が多いに違いない。 「若しスマホをお持ちでしたらご連絡が入るかも知れませんので、ガウンをこちらのハンガーラックでお預かり致します」 あたしはセラピストにガウンを手渡した。 「後は、そちらのブースでお着替えを済まされてから、バスタオルをお体に巻いた状態でベッドの上に腰掛けて下さい」 あたしはセラピストの指示に従って、試着室の様なブースでパープル色の紙製ショーツとブラに着替えると、バスタオルを巻いてベッドに腰を下ろした。 「先ず、リンバの出口が有る鎖骨と肩周りをほぐして行きますね。鎖骨のコリには老廃物が詰まり易いのでむくみの原因にも成るんですよ」 あたしの初体験、高級アロママッサージが始まった。 「受付でお会いした時から思っていたのですが、お客様のヘアスタイルは本当に素敵ですね。どちらのお店に行かれたのですか?私も一度行ってみたいな」 セラピストは、特にクライアントが初めて施術を受ける場合、緊張を和らげる為にさりげなく相手を褒めるトークをするのだろう。 「お店ではなくて自宅の方にアーティストが来てヘアとメイクアップをして貰ったんです」 「まあ!出張で?何で贅沢なんでしょう!ご自宅にそれだけの設備がなければ出来ませんから。羨ましいな~」 「シンディ・ヘルナンデスって人が助手を2人連れて来たくれたんです。自宅の設備の方は余裕で大丈夫でした」 「シンディ・ヘルナンデス?マァ~、お客様ったらご冗談がお上手ですね!シンディは米国在住ですよ。でもこの技術の高さはシンディに匹敵するかも」 「匹敵するも何もシンディ本人ですから。彼女は今、来日中なんです。そうだ、爺やが撮ってくれた写真があるので、あたし・・・いや、わたくしのガウンからスマホを取って来て貰えます?」 「爺や?」 セラピストは、あたしの爺やという言葉に感動した様子だった。 あたしはすっかり桂川家の一員になったような気分でいたから、別に嘘をつく積りはなかったのだが、肝心な修飾語を省略していた事に気付いた。 「自宅」はスグルの自宅で、「爺や」はスグルの爺やだったのだ。 だが、それを今更説明するのも面倒なので、この場はそのままの流れで行ってしまおう! あたしはスマホに写っているあたしとシンディの写真をセラピストに見せた。 「本当だったんですね。大変、失礼しました。お客様は超セレブでしたか。わー、このメイクも素敵!あれ?でもこのお写真の日付は今日の午前中じゃ有りませんか?」 「そうですけど」 「僅か5時間足らずで、シンディのメイクを落としてしまわれるなんて!超セレブの方にはそれが普通の事なんですね、私、ため息で指の方が疎かになりそうです」 そのセラピストは「凄いお写真を見せて戴いて有難うございました」とあたしにお礼を言うと、あたしのスマホを錠剤のケースと重ねてガウンのポケットに戻そうとした。 「あっ!その錠剤を触ってはダメ!」 「えっ?」 あっさー!セラピストは押してはいけない錠剤を押してしまったようだ! ![]() ![]() ![]() ファンタジー・SF小説ランキング →ここまでグニュ~と押して戴けると、この作者はギャオイ~ンと叫んで喜びます。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022.05.21 10:49:25
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