カテゴリ:小説 エンジェルダスト
第3章 ビギンオブミッション 1
朝、あたしが目を覚ますとエリカの姿はなかった。 エリカはメイドだから朝が早いのだろう。 あたしの方は、やや二日酔いが残っていたけど、今日はスグルが大阪から戻って、あたしにお願いを伝える日だから頑張ろうと誓った! あたしにお願いがあるって事は、あたしにして欲しい事があるって事で、そしてそれはスグルに取って必要な事で、だからあたしが絶対に出来ない事以外のお願いなら全て承諾しよう! あたしは丸投げが得意だから、きっと丸呑みも出来る筈! 自分の覚悟と決心を再確認すると、あたしは会社に連絡を入れた。 憐れにも、愛媛の叔父さんはあたしから病気で亡くなった事にされたのだ。 そして、あたしの本年度最後の有給休暇1日も取得した。 あたしは一階に降りると洗面を済ましてから、リビングルームで暫く外の雨模様を見ていた。 「まあ、6月に入ったからね。スグルや皆と一緒にいれば、雨もまた楽し!」 あたしがリビングのソファーに腰を下ろすと、セバちゃんが部屋に入って来た。 セバちゃんも、昨夜、あれだけ酩酊していた事が嘘のようにシャキっとした表情をしていた。 エリカといい、セバちゃんといい、プロ意識を持ってる人は飲酒からの回復が早いのかな?それに比べてあたしには、プロ意識のプの字もないのだから何とも情けない話だ! 「お早うございます。こちらにいらっしゃいましたか?直ぐに熱い珈琲をお持ち致しましょう。ですがその前に・・・」 「その前に?」 「ご主人様のガードを担当している者から、先程、連絡が有りまして、午後2時にご主人様が指定された場所に来て欲しいとの事でした」 「あたしへのお願いの件かしら?」 「恐らくは!そこの場所までは橋本がお送り致します」 「分かりました。宜しくお願いします」 あたしは、朝食と昼食を兼ねた食事を済ますと、テレビニュースを見た。 どの局も、新型ウィルスの話題が大きく報道されていた。 昨日の段階で、東京都で新たに100名を超える新規感染者が確認され、関東圏だけでなく関西圏や沖縄県、北海道など18都道府県に感染が拡大しているとの事だった。 現在、世界的に流行する兆しを見せているその新型ウィルスは、明らかに人間が関与した人工的なウィルスらしく、WHOもその名称に苦慮していたらしい。 このウィルスの発現様式が、第4群の1本鎖RNA+鎖(mRNAとして作用)で、ニドウイルス目のピコルナウィルスとコロナウィルスの両方の性質を備えている為、「ピコルナ型コロナウィルス」、略して「Pコロナウィルス」と命名されたようだ。 空気感染力が非常に強い為、マスクの着用と、人々が密集する場所での会話や不要不急の外出、帰省などを控えるように警鐘を鳴らしていた。 また、発熱の症状が有った場合は、速やかに自治体が指定している医療機関で検査を受けるようにとも伝えていた。 一体、世界で何が起こっているのだろう? 「ミサト様、お車の準備が出来ました」 セバちゃんは、あたしに傘とマスクを手渡した。 黒塗りのベンツは、小雨がそぼ降る都内の街道を安全速度で走った。 「橋本さん、スグルさんと待ち合わせる場所は何処なんですか?」 「西麻布の高級賃貸マンションの一室です。そのマンションはご主人様が経営されている日本型の不動産事業を世界的に展開しているデュウェルマッチング社の日本法人が所有しているマンションです」 「そうですか?」 あたしは、待ち合わせる場所がマンションの一室だったので、スグルと新婚気分とかを味わえるかな?と期待してしまった。 「そのマンションは、単身赴任などの理由で公邸に入らない大使クラス向けのマンションで、そのセキュリティレベルは都内でも最高峰だと言われています」 「大使クラスって、大使館の?」 あたしは愚問を発した。 「ええ、そうです。日本でも産業スパイは暗躍していますから、セキュリティレベルは高いに越した事はないのです。大使同士がそれぞれの自室で密談する事も多いらしく、大使館よりも安全だと言われています」 「スグルさんが経営する会社って、凄いのね!」 「勿論、日本人も入居してはいますが。今日、ご主人様がお待ちになられる部屋は、バルト海に面している某国の大使が家族を引き纏めて公邸に入った為に、先頃、空き室になったお部屋でございます」 「大まかな事は分かりました。有難う、橋本さん」 橋本に連れられて23階建ての20階に有る一室の前に来ると、ドアの前に二人のガードが立っていた。 あたしはそのガード達に軽く会釈をすると部屋の中に入った。 スグルは既に到着していて、ソファーに座って笑顔であたしを出迎えた。 「やあ、いらっしゃい!雨の中をここまで来てくれて感謝するよ。ミサトさん、ここに座って!」 スグルは、テーブルを鋏んで自分の向かい側の椅子をあたしに薦めた。 「その髪、とても似合ってるね」 「これもスグルがシンディを差し向けてくれたからよ。有難う、素敵なサプライズを」 「何か、ミサトさんの新しい魅力をシンディが引き出してくれたみたいな・・・」 「そう?」 あたしはミステリアスな笑顔を作ろうとしたが、どうせ不気味な笑顔にしかならない事が分かっていたから止めにした。 「早速だけど、僕のミサトさんへのお願いについて話すね」 「うん、あたしもそれを先に聞きたい!ずっと気になっていたから」 あたしはスグルに正直に答えた。 「僕のお願いは3つ有る!」 「3つも?」 「そう、3つ。ひとつはこの部屋に引っ越して欲しい事、次のお願いは会社を辞めて欲しい事、最後のお願いは僕と一緒にドバイまで行って欲しい事」 スグルは3つのお願いの内容をあたしに伝えた。 「今の安アパートからこんな豪華なマンションに移れるなんて夢の様だし、会社も辞表を提出すれば良いだけだし、ドバイに行くのも、一昨年、会社の創業40周年記念慰安会でソウルに行く為にパスポートを作ったから問題はないし・・・」 「それじゃあ?」 「あたしは、スグルの力になれるのなら、自分に絶対出来ないお願い以外は全て引き受けるように決心していたから、あたしで良ければそれ全部OKです」 「ヤッター、理由も聞かずに引き受けてくれるなんて!流石はミサトさん、僕が思ってた通りの人だ」 スグルは立ち上がると、わたしも立たせてハグの何倍も強い力であたしを抱き締めた。 「凄く嬉しいよ!有難う」 スグルはあたしの瞳を真っ直ぐに見つめた。 この部屋では二人共ルームシューズに履き替えていたから、スグルとあたしの唇の位置関係は水平に成っていた。 これはスグルとの初キスのチャンス到来? 「だけど、或る事情でそれらはとても急いで行われなければならない。引っ越しは今日、辞表は来週月曜日に、ドバイ行きは来週火曜日から・・・」 「そ、それは確かに急な話ね」 「うん、その理由を今から話すから、ミサトさん、またここに座って!そうだ、何か飲み物を持って来させよう!紅茶で良い?」 「ええ」 あたしの初キスは、どうやら次回のチャンスまで持ち越されてしまったようだ。 ![]() ![]() ![]() ファンタジー・SF小説ランキング →ここまでグニュ~と押して戴けると、この作者はギャオイ~ンと叫んで喜びます。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022.12.18 14:36:15
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