カテゴリ:小説 エンジェルダスト
第5章 ドクターグリーン 10
「緑川親子は、ウィルスから人類を守る研究をしていたから、彼らは二人共、ニコルクラブのメンバーなんだ」 スグルが説明を始めた。 説明内容が極秘扱いなので立ち聞きや盗聴を防ぐ為に、ディナーはスグルの部屋でルームサービスの料理で済ます事に成っていた。 「彼らがマザーウィルスを発見した時、その研究成果が悪用されない様に、ニコルクラブに対して自分達の身柄と研究資料の警護を依頼したが断られたんだ」 「ええ~っ?ニコルクラブがゲルシアに警護させていれば、今回のPコロナ騒動も未然に防げたかも知れないのに!」 あたしが訊きたかった事を、セキレイが先に質問した。 「これが期間限定の警護だったら、多分、ニコルクラブも承諾したと思う。だけど何時盗難に会うかが分からない以上、警護は無期限に成らざるを得ない」 「確かに」 「それだけじゃない。緑川親子は悪用されては困る肝心な情報は、僕と同じ様に自分の記憶に中だけに留めているんだ。だから資料類が盗難に遭って仮に悪用されても、被害は限定的だとニコルクラブは判断したんだと思う」 「成る程ですね。ニコルクラブが警護を断ったのも、或る意味で仕方がないか?」 セキレイが納得した。 「その警護を断ったニコルクラブに、猛烈に異議を唱えて上層部にも強く働きかけたのが、今は亡き間宮麟蔵氏の忘れ形見、間宮佳恵嬢と言う訳なんだ」 「ヨシエさんもニコルクラブのメンバーだったの?」 今度はあたしがスグルに質問した。 「いや、ヨシエ嬢はメンバーではないよ。あっ、折角のスープが冷めちゃうよ!話の続きは食事を摂りながらするね」 そう言うと、スグルはスープを口に運んだ。 あたしの質問に答えるよりも、そっちか? スグルは別に悪気が有った訳でもなく、あたしを軽んじた訳でもなかったのだが、あたしは何となく不貞腐れた気分に成って、スープをズルズルと軽く音を立てて啜った。 「ヨシエ嬢がマミヤインテリジェント社のトップだった頃は、スパイ用品をゲルシアにも提供していたから、ゲルシアの現最高指揮官のミルフォード・マクガバンとは旧知の仲で、彼の了解を取り付けてヨシエ嬢はアンダーソン家に乗り込んだんだ!」 「一寸、待って!先刻からヨシエ嬢って言ってるけど、彼女は23歳で社長に成って、その4年後に会社を手放して、それから10年が過ぎてるんでしょ?と言う事は今は37歳、立派なオバさんじゃん!」 先刻から、何かしら腹立たしい気分に成っていたので、あたしはどうでも良い事をスグルに訊いてしまった。 「あ~、その事ね。ははは、オバさんは少し気の毒かも知れないけどね。実は彼女の父親の麟蔵氏は、何故かヘンリーお爺ちゃんに気に入られてね。彼はアンダーソン家に出入りする度に、彼女も子供の頃から一緒に連れて行っていたらしく、アンダーソン家では彼女の事をマミヤのお嬢ちゃんって呼ぶものから」 「分かったわ。ごめんなさい。あたしは些末な事を聞いてしまったみたいね」 「いやいや、そんな事はないよ!ヨシエ嬢は明日からミサトさんの交渉相手に成るんだから、何でも訊ねてよ。僕で分かる事だったら答えるから」 スグルは、あたしの言葉に大きくかぶりを振った。 「それにしても御膳、どうしてヨシエさんは緑川綾佳さんの逃亡を手助けなんかしたのでしょうか?」 キキョウが、良いタイミングで話を元に戻してくれた。 「その点はヤーイン財閥でも分かっていない。二人の接点だが、間宮親子はアンダーソン家と親しいが、通常兵器とは言え人を殺戮する機械を生産しているから、当然、人類救済が目的のニコルクラブに加入は出来ない。だからニコルクラブが直接的な接点ではない」 「間接的には有り得ると言う事ですか?何れにしても二人共、日本人女性だし、それなりに裏の世界では有名人だから米国の何処かか、ヨシエ嬢は日本の大学に留学していたから、案外、日本で出会ったかも知れませんね」 「そうだね、だが今は二人の接点よりも、何らかの理由で、ヨシエ嬢はアヤカ女史を助けて、何処かの安全な場所に匿っていると言う事の方が重要だ」 セキレイの推理を引き取る形で、スグルが問題の核心について語り始めた。 「ヨシエ嬢は、民間の軍事会社だとアヤカ女史の居場所が漏れる可能性が有るので、マミヤインテリジェンス社時代に彼女の腹心だった連中を呼び寄せて、アヤカ女史の警備に当らせているらしい」 「彼女は、父親からの遺産と会社を売却した金が有るから、資金力は豊富だからなぁ」 今度はスグルの話を引き取って、セキレイが喋った。 「ここからは、我々が以前から聞いていたヤーイン財閥の情報に成るけど、アヤカ女史は信頼が置けるニコルクラブの人物と会いたがっているそうなんだ。そしてその人選を自身の逃亡を手引きしてくれたヨシエ嬢に一任している」 「そう成ると、差し当たりニコルクラブ事務局長のロバート・コーネル氏辺りが有力候補か?」 セキレイが自分の予想を開陳した。 「アヤカ女史は、謎の組織が差し向ける追っ手から逃れる為に、絶えず居場所を変えている。だが或る時、彼女の居場所を特定出来たニコルメンバーが彼女に相談に行ったのだが、彼女にはニコルフラブに対する不信感が有る為か、男性のメンバーは全員不適格だとの返答を受けたんだ」 「え~?それじゃ女性メンバーしか駄目って事に成りますよね。あっ、そうか!それで姫が急遽、ニコルクラブに入会させられたのか?」 あたしは、ヨシエを喰いつかせる為のエサか? 「そう言われると身も蓋もないけど、ヨシエ嬢がニコルクラブから警護を断られた後に、入会した人がベストな事は確かなんだ」 「要するに、あたしがヨシエさんに認められてアヤカさんに会えたら、アヤカさんの居場所が分かるので、それから救出作戦を実行するって事ね!」 「うん、その通りだよ」 スグルが久し振りに天使の笑顔をあたしに向けた。 「その為の第2班なんでしょ?あたしには余り自信はないけど、スグルさんの為ならやってみるよ!当たって砕けろだね!」 あたしはその時、毒喰らわば皿までと言う諺を思い出した。 「流石はミサトさんだ!やはり僕が思った通りの人だ!大丈夫、ミサトさんならきっと上手く行くよ。僕が保証する!」 その根拠は?と聞き返しそうになったが、スグルなら「それは天才の勘さ!」と答えるに決まっていたので、あたしは口を閉じた。 「ヨシエ嬢の今の居場所は、今回、クアラルンプールでフォン・ヤーイン会長から直々に聞いている。そこは彼女にして珍しく一軒家で、家財も運び入れてガードも付いているらしいので、そこそこの長居にはなるだろう」 「それでも、早いに越した事がないわね。第2班は明日から活動を開始します!」 あたしは、スグルにキッパリと宣言した。 不安がない訳ではなかったが、今ここでこれを辞退して、シンデレラの階段を降りる積りもあたしには全くなかった。 「俺が姫を、必ず守ります!」 セキレイは、プロのエージェントとしての血が騒ぐのか、ワクワクとした表情で誓った。 「うん、セキレイ、宜しくお願いね。目的の場所は僕から同行するゲルシアメンバーに伝えておくよ。連絡体制、方法、定期相互報告の時間については何時もの通りで行くよ!」 「お~!」 あたし達4人は声高く乾杯をすると、スグルの報告会もそこでお開きに成った。 ←ここをポチっと押して戴けると、この作者は大変喜びます。 ←PVランキング用のバナーです。ここもプリっと押して戴けると、この作者はプウと鳴いて喜びます。 ファンタジー・SF小説ランキング →ここまでグニュ~と押して戴けると、この作者はギャオイ~ンと叫んで喜びます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2022.07.07 22:24:56
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