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第6章 ゼブルズシャドウ 8
「あのさ、第2班のゲルシアから来ている2人だけど、後から支援部隊が来る事を知っていたんじゃないかな?」 「そんな事は別に言ってなかったけどなぁ?」 「だって、防ガスマスクはジェファーだけが常時携行しているんでしょ?それなのに、あの二人も眠らずに部屋から出て来たわ」 「確かに、あの部屋に麻酔ガスが噴霧された時、俺はゲルシアの2人は眠らされたと思った。だから俺はジェファーの3人で敵をやっつけて姫達の救出に向かう積もりだったんだ」 「だけど彼らも防ガスマスクを持参していた!」 「そうなんだ!だが、その時俺は不思議さを感じるよりも、ラッキーって感覚だったな。彼らが防ガスマスクを持参していたお陰で手間がひとつ省けたからな」 「だから何故、ゲルシアの2人も防ガスマスクを持っていたのか?なのよ。あたしが不自然に感じるのは」 「それは俺達ジェファーが敵に麻酔ガスを使う事を知っていたからじゃないかな?だって、味方が使った麻酔ガスで自分達まで眠ったら作戦に支障が生じるでしょ?」 「う~ん、そうかも知れない」 あたしは何か釈然としない気持ちが残っていたが、セキレイの説明はそれなりに辻褄が合っているので納得するしかなかった。 「姫はどうしてそんな事を訊くの?」 「あたし達ってさぁ、最初から囮として使われたんじゃないのかって言う疑いを、あたしが持っているからよ!」 「囮かぁ?少なくとも姫のガードとして付いた俺を含めた5人は囮じゃない」 「どうしてそう言い切れるの?」 「俺達が囮に成って生み出される効果は、敵を引き付ける事だけしかない。だけど敵は部屋の中を見に来た3人とドアの外側に待機していた2人の、合わせて5人だけだ」 「敵を5人を引き付けてても意味がないと?」 「ああ、そのくらいの数なら、グリーンピースだと一瞬で拘束する事が出来るからね」 このセキレイの説明も辻褄が合っているので、あたしはやはり納得するしかなかった。 「だが姫の場合は、囮と言うより魚の餌に成ったって言う可能性は高いかも知れない」 「えっ?」 「ゲルシアは最初からヨシエが姫を謎の組織に拉致させると予想していた事は間違いない。俺達が異変に気が付いたのは部屋にガスが噴き出した時だから。それからゲルシアに連絡しても部隊が間に合う筈がないからね」 「あたしはアヤカさんを救出する為に、ゲルシアから泳がされていたって事?」 「結果論だけどね。恐らく昨夜、ヨシエの棲み家に灯りが点いたと言う連絡を受けて、ゲルシア上層部の誰かがシンガポールに到着したばかりのグリーピースをそこに派遣する決断を下したんだと思う」 「これも結果論だけど、針が付いている餌のあたしにヨシエはまんまと喰いついてしまったって訳ね?」 「多分ね。でもまあ、ドクターグリーンが無事に救出出来たんだから良かったじゃないか?それに姫はこれからグリーピースに命の恩人と呼ばれるだろうし」 ドクターグリーンにグリーンピース、それにニコルクラブのグリーンブックか? 偶々だけど、今回は緑の符号が多い事にあたしは気が付いた。 まあ、緑は平和のシンボルカラーだし、これは吉兆なのだろう。 「ハハ、そうだね、確かにあのまま彼らがあのアジトでウロウロしてたら、今頃は溶けて消滅しちゃってるからね。でもその情報はヨシエがあたしに教えてくれたものだけどね」 「それも姫がヨシエに気に入られたからで、諜報の世界ではそれを情報を取ったと言うんだよ!敵の情報を取るのが諜報部員の勲章だからね」 そう言われてみれば、諜報活動は敵の資料とかを盗む泥棒が仕事ではない。 情報を持っている人間に接触して、その人間から情報を聞き出す事が本来の仕事で有る筈だ。 だから諜報部員は相手が異性の場合、好んで疑似的な恋愛関係を結ぼうとするのだ。 あたしは今回、とても重要な敵の情報を取ったのだ! そう考えると、あたしは何か爽快な気分に成った。 「仕事をした現場に長居をしないのがエージェントや特殊部隊の鉄則だけど、あの場合、敵は去っていて危険性が無いので、あのアジトでもし興味深い物でも発見していたら、そのまま調査を続行した可能性も皆無ではないんだ」 もし彼らがそうしていたらアウトだった。 それにあたし達の付き合っていたら、あたし達まで蒸発して跡形もなくなっていたかも知れなかった。 こりゃあ、心底、ヨシエに感謝しなくちゃいけないかもね! 「エージェントや特殊部隊の世界では長居していた方が悪いって事に成る」 「えっ?そうなの?」 「敵が爆発をセットしていたのは、奴らが逃走して2時間後だ。裏社会に於ける不文律の決まり事では、この場合は証拠隠滅が目的で殺意はなかったって事に成るんだよ!」 「へ~?そう成るんだ?」 「だから、ゲルシアも正面から謎の組織に報復を宣言する事が出来ない。つまり、奴らには爆発をわざわざ相手に教える必要はなかった!それが姫が大手柄を立てたと言える根拠だよ」 「そうか、あたしは大手柄を立てたのか?」 「そうだよ。今回の姫はドクターグリーン救出の立役者だし、その上、ゲルシアに取って掛け替えのない精鋭部隊のロストまで防いだ!ゲルシアは姫を表彰するべきだ!」 「じゃあインコちゃん、あたしに大手柄のご褒美を頂戴!」 「褒美ならゲルシアから貰ってよ!」 そう言うと、セキレイはまたルークチンを口にほうばった。 「訊きたい事は粗方訊いたし、何かあたし、急にお腹が減って来ちゃったなぁ~。アアッ!!!」 「ヒッ、急に大声を出して驚かすなよ!姫、今度はアアッ爆弾かよ」 「あたしの分のルークチンがない!」 「えっ?姫はルークチンが口に合わなかったみたいだったので。それに誰の分とか初めから決めてないし・・・」 「黙らっしゃい!あたしの大手柄のご褒美を、ルークチンで我慢してあげようと思っていたのに!アアッ!!!」 「ヒッ、だから急に大声を出すのはヤメレ」 「今、神様からあたしにお告げが有ったの!」 「神様からお告げ?神様は何だって?」 「今夜は、苦手で有っても辛い物を食べなさいって!」 「ほんとかよ?」 「さあ、インコ!貴方は、今からタクシーで屋台まで行ってあたしのルークチンを買って来るのよ。唐辛子ももう少なく成っているからそれも忘れずにね」 「何で俺が買いに行かなくちゃならないんだよ!」 「神様から罰が当たっても良いの?」 「罰が当たるのは姫にだろ?」 「お黙り!あたしが買いに出掛ければ、どうせインコちゃんはガードで付いて来ないといけないから同じ事でしょ?」 あたしはその言葉をセキレイに放った時、自分が勝利者で有る事を確信した。 「分かったよ。ほんと人使いが荒い姫なんだから」 「それから、お腹に溜る物もお願いね」 「へいへい」 「その代わり、あたしが美味しい赤ワインを開けて待っててあげるから」 「ふいふい」 「何?そのふいふいって?」 「行って来ま~す!」 そう言うとセキレイは足早にこの部屋から出ると、あたしのお使いに向かった。 そしてその夜は、慰労会を兼ねた祝勝会と言う事で、あたし達は二人切りで深夜までワイワイと騒ぎながら飲み明かした。 ![]() ![]() ![]() ファンタジー・SF小説ランキング →ここまでグニュ~と押して戴けると、この作者はギャオイ~ンと叫んで喜びます。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022.07.21 22:58:01
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