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カテゴリ:フィクションハクション
初めて来ていただいた方に
秋の日差しがいざなうので うそです 久しぶりのショートショートです。 --------------------------------------------------------------------- 怜という名前だった。これで「れい」と読む。 「りょう」とも読めるし、女にも男にも使えるはっきりしない名前。 英語で書くときにはRayにするかLayがいいか。意味が違うし迷うところ。 そして、この字体。なんか幽霊っぽくないかな。 「へん」のところが手みたいだし。力なさそうだし。 名前負けせず彼女は捕らえどころがなかった。 「聖徳太子ってどこの大使?」 尋ねられたとき、何を言ってるのかわからなかった。 あの時、説教すべきだったのか。 日本人なら日本の歴史をちゃんと勉強しろと。 めんどくさいし、嫌われるとやだからやめた。 「アメリカの大使だよ。それにね、福沢諭吉はアメリカ軍基地。 どちらも、1万円札に載ってるでしょ。 あれは、密かにアメリカが日本を支配しているっていう暗号なんだよ。」 天然ボケにボケで返しても、反応がないことが多いのでやめた。 今日みたいな天気のいい11月。 町外れのこじんまりとした林を、怜と散歩していた。 こずえの向こうに青空が見えたとき、あまり焦点が合ってない彼女が、 頼りなさげに吐息交じりで言った。 「ねえ、どこか連れてって」 またか、と呆れた。静かなところに行きたい、と言ったのは怜だった。 だから連れてきたのに、これからどこへ行けばいいんだ。 いっそ、ラブホテルにでも入って、 SMルームで新しい刺激的な世界でも味あわせれば良かったのか。 呆れてすぐ思った。もっと深刻な気分かもしれない。 でも、怜に自殺願望はなかったはずだ。 こんなとき、あせってはいけない。 「えっ、何?」 聞こえていたのに、わざと聞き返すと 「なんでもない」 さっきよりはっきりとした口調で返事が戻ってきた。 その後は、いつも通りの明るいボケ子ちゃんがいた。 今、思い出すと、怜の身体は林に溶け込んでるようだった。 彼女は木のニンフ? そういえば、時々、二人っきりでいるときも、 何人かが集まっているときも、彼女がどこを見るともなく、 何かを見つめていることがあった。 あの時の言葉は、ぼくに向けられたものじゃなかったのかもしれない。 怜は異界を感じていて、呼びかけていたのかも。 決して不幸なそぶりは見せなかったけど、 この世にはなじめない人だったのかもしれない。 名前もれいだったし。 --------------------------------------------------------------------- お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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