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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

ロボット死闘人「石狩の福次郎」第1章

ロボザムライ第2部
ロボット死闘人「石狩の福次郎」第1章 襲撃
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yama-kikaku.com/


(1)
「福さん、ひとつ、話にのっちゃくれないか」
 桃太郎が考え深げな顔で、福さんこと福次郎に思いをぶちまけていた。
「そうか、桃さん、思い詰めた顔をしていたようだが、やはり、何か大きい問題をその頭
に詰め込んでいたのか」
 福次郎は、幼なじみの桃太郎から頼まれれば、いやとは言えない。が、まさに桃は福の
その性格を読んでいたのである。
「ああ、そうなのだ。この俺の小さな頭脳の情報処理では、残念ながら手に負えないのだ。
それこそ、優れた経理ロボットとしての、福さんの腕を見込んでいるのだ。これこの通り」 
桃は頭を深々と下げている。目の前の酒盃はどちらもからっぽだ。福次郎は、今経理事務
所の事務職町人ロボットとして勤めていた。むろん、桃こと桃太郎も町人ロボットなので
ある。
「よしなよ、桃さん。お前さんと俺の間柄じゃないか。水臭いよ。おい、もう一つお銚子
をくんな」
 福はここ、ロボット居酒屋『いろり亭』の主人に言った。二人が飲んでいるのは、ロボ
ット向けのロボット酒『よいそろ~』である。これを飲むと、微妙に電子頭脳の働きがよ
くなると言われている。話を切り出しにくそうな桃に、福は尋ねた。
「そいでお前さん、どんな問題を抱えているんだい。ことと次第によっちゃ、俺が乗りだ
さなきゃならないという訳だろう」
 福は、桃の顔色をじっと見ている。ロボットの人工皮膚は、人間と同じように感情を表
現する。
「そ、そうなんだよ。俺はさあ、一大事に巻き込まれているんだ」「その話は…。ここでは、
できないという訳か」
 ちらりと、福は桃の顔を一瞥する。
「そういうことなんだ。福さん、騙されたと思って、あっしについてきてくれねえか」
「こ、これからだって…、いったいどこへ…」
 思いがけない提案だった。悪い予感がした。
「そ、それは悪いが言えないんだ。黙って俺を信じてくれないかい…。この友達の俺を信
じて…」
(友達の桃をな。確かに信じたいのだが…、今までも偉い目にあっている)その考えが頭
を巡る。福はぐっと…、つばを飲み込む。(何かからくりがあるのではないか…、でも桃の
ことだから)福次郎は自分で自分を納得させる。
「まっ、まさか、桃さん、その仕事は…」
(少しばかり、悪いイメージが頭を回る…)
「おっと、いけねえ、いけねえ、その先は言っちゃ、お手が後ろにまわるかも知れないよ、
福さん。まあ、黙っていておくんなさいよ」 二人は、桃にうながされるまま、居酒屋を
出た。ここ新大阪市は、西日本都市連合がロボット奴隷制を暫定的に廃止することが決ま
っているので、活気に満ち満ちている。道行くロボットの顔も明るいのだ。ロボットの未
来は光り輝いているように思える。西日本と東日本は、霊戦争後、ロボットに対する支配
態勢がことなっていた。西日本はロボット奴隷制が施行されていた。
 二人は、盛り場の人込み、ロボット込みの中をかき分けて歩いて行く。町行く人々の風
体、身なりは江戸時代のままなのである。因に二人は、町人ロボットだ。また、大阪弁I
Cは開発されているが、二人には装着されていない。ロボットの大阪弁を嫌う大阪人は多
い。それゆえ、大阪弁をつかえるかどうかで人間とロボットの区別がつくのである。
「ここだよ、この店に入っちゃくれないか」
 桃は、福をある店の前で促した。が、
「だって、桃さん…、この店は…」
 福は店の佇まいを上から下まで眺めている。
「いいから、いいから、さあ、さあ入って…」
 むりやりに、桃は福を押し込んでいた。
「いいからって、お前…」
 その店は西日本政府ご用達の老舗『松前屋』である。格式の高いことでは西日本一であ
ろう。店に入っても、店の使用人が、ジロジロと二人の風体を見ている。その目にはあき
らかに、(ここはお前達の来るところではない)という意味が込められていた。服装が二人
ともみすぼらしいのだ。
「さあ、さあ、気にせずに…。ずっと上がっておくれ」
 福次郎は桃太郎に促されるまま、バイオ木材できれいに仕上げられた渡り廊下を歩いて、
奥深い一室に通された。欄干の仕上げなど見事なものなのだ。一瞬、福はそう思った。
「いま、お着きになられましたか。お連れさまは、お待ち兼ねですよ」
 ロボ仲居が二人に気付き、一室の障子をスッと開けた。中には、覆面をした侍ロボット
が一人、ぽつねんと座っている。かなりの老体らしい。体の動きから見て、福はそう思っ
た。(動くとギシギシと音が出るのではないか)
「御前、お待たせいたしやした。こ奴が、あっしのだちで、福次郎と申します。おみしり
おきをくださいまし」
 桃太郎が、畳に頭を擦り付けるように、お辞儀をする。
「おい、お前もするのだ」と福を促す。
「おう、そちが福次郎殿か。初にお目にかかる。桃太郎殿から、そちの話はよく聞いてお
る。気にせず、ささ、中へ」
 促されるままであった福次郎は、ここで桃に逆らう。
「桃、こりゃ一体、話が違うぜ」
「いいじゃないか、ここまで来たんだから」
 福次郎に二の句を告げさせないのだ。
「この面体でお許しいただきたい。実は拙者、東日本都市連合から新大阪へ遣わされたも
のでな、中西と申します。経理ロボットとして福次郎殿、なかなかのお仕事ができるとこ
の桃太郎殿より伺い、ぜひに、ぜひにとお願いしたじゃ」
「福次郎殿、西日本がロボット奴隷制を廃止するのを祝って、東日本都市連合から、かな
りの援助金が新大阪城にある金庫に運ばれるのはお聞き及びだろう」
「へえ」
 経理ロボットである福は、噂でそれを知っていた。
「それを盗んでいただきたいのだ」
 いとも簡単な仕事のように言い放った。
「ち、ちょっと待っておくんなさい。そういうのは泥棒というのでは…」
「その通り、我々は泥棒をするのじゃ」
 一瞬、福次郎の中では、何かが爆発していた。
「桃、騙しやがったな。俺を犯罪人にするつもりか。俺にはかわいい妻二人と子供一人、
じゃなかった、かわいい妻と子供二人がいることを知っているだろう」
 福次郎は恐ろしい表情で、桃太郎を睨んでいる。
「まあまあ、福殿。そうお怒りにならずともよい。話をよく聞いてくだされ」

(2)
 福次郎は怒りの表情で、二人を睨みつけている。
「まだ、思い出しちゃいないようだな、福次郎。自分の正体をさ」 意外なことを桃が言
った。
「何言ってやがる」(正体だと……)
「お前、本当に…」
 桃が福の顔をずっとのぞき込んでいる。
「福よ、我々の本当の職業はわかっているのだろうな」
「何をいいやがる。俺が経理屋で、お前が不動産販売の町人ロボットじゃないか」
 福次郎は、桃太郎に向かって言い放った。
「おいおい、どうしたのだ。俺とお前の仲だよ。本当のことを言っても、問題はないのだ
よ」
 重ねて、桃太郎が意味ありげなことを言うのだ。
「俺を怒らすなよ、桃の字」
 が、桃太郎は中西の御前を見て、話しかけている。
「こりゃ、ひとつ荒療治が必要かもしれませんねえ、中西の御前」「ここはひとつ、お主に
任そう」
 中西の御前が言う。中西の御前も、本当は東日本の侍ロボットではないことになる。
「そうさせていただけやすか。きっと、あっしが、この福次郎を元に戻してみせやす。よ
ろしゅうござんすか」
「いいとも、お主の好きなようにな」
 中西は頷いている。二人は昔からの上下関係があるようだ。
「やい、桃の字、お前を友達だと思っていたのになんてことだ」
「やい、福の字、どうしてもこの俺の言うことをきけないとならば」「何、きけないとなら
ば、どうするのだ」
「これを見な」
 桃は後ろのふすまをすっと勢いよく開ける。
「ちゃん!」「あなた」声が飛んできた。
 福の字の家族のロボットがぐるぐる巻にされ、転がされているのである。手下らしいの
が二人見張っている。
「どうだい、わかったかい」
 にやりと笑った桃の顔は、友達の福次郎の知らない別の顔であった。
「ひ、ひきょうだぞ、桃」
「いいかい、あっしらも必死なのだよ。お前の腕がどうしても必要なのだよ」
「俺の腕でと…」
「思い当たらないのかい、黄金の腕」
 西日本政府公認の経理ロボットだけが、アクセスすることのできるキーコード。それを
福次郎は知っている。(が、黄金の腕とは…)「あんた、お願いだから、悪いことだけは止
めておくれ」
 福次郎の妻、妙子が、涙ながらに訴えているのである。
「だから、桃太郎みたいな不逞の輩と友達付き合いをするなと、私があんなに言ったのに
…」
 ここまでくると、グチになっている。それを聞いた桃太郎、思わずカッときて、
「やい、この女、静かにするのだ」平手打ちを嫌わせた。
「えい、何をするのだ。手も足も出ない、か弱い女を打ちすえるなんて。なんて男だ。え
~ん」と後は涙である。
「黙れ、黙れ、おい、お前たち、何とかしろい」
「何とかしろといったってね、桃親分」
 子供二人も母親につられて泣き始めたから、さあ大変。
「ええい、三人ともさるぐつわをしてしまえ」
 中西の御前が、たまりかねて命令を下した。
「まあ、とういう訳だから、福次郎さん、私たちの命令に従ってもらいましょうか」と、
福次郎を見て、にやりと笑う。
「卑怯だぞ」
「卑怯。卑怯かどうかは、お前さんの体が、いずれ思い出すだろうさ」と、何とも意味あ
りげな言葉を吐くのである。(一体、俺は何者なのだ。単なる経理ロボットではないと二人
は言っているのが)「福の字、ここは黙って我々について来てもらおうか」

(3)
 料亭の裏は、新道頓堀だ。ここから新しい水路となり、大阪湾に通じている。
 時間は夜の八時過ぎとあって、酔客でごった返し、喚声があちこちで上がっている。皆
なごやかで、楽しげなのだ。その喧噪の中で、一人苦り切った表情の福次郎が、促される
まま堀に滞留されている川船に乗り移って行く。
「どこへ連れて行くのだ」
「まあ、よいではないか。黙っておれ」
 桃は命令していた。後もう一人、四十がらみの男が乗り込んで桃の字に挨拶する。白い
波を立てて、川船のモーターは動きだし、かすかな潮風が、福次郎の頬をくすぐっている。
 大阪湾に滞留されている外国船の一つに向かっていた。船名は『ゲルマニア』。どうやら
神聖ゲルマン帝国の船らしい。読者は覚えておられるであろう。あのルドルフ大帝が率い
る、今やヨーロッパ随一の大帝国なのである。
「お主、まさか、外国にその魂を売りやがったか」
「やかましい。金儲けに、日本も外国もあるものか」桃が睨みつけた。
 その船に着艦し、タラップを促されるまま登る、福次郎。
「おお、これは桃さんに、松前屋さんではありませんか」
 大仰な時代劇じみた仕草で、外国ロボットが近づいてきた。ウェーブの掛かった洋鬘で、
薄く化粧をしているのだ。おまけにきついオーデコロンで、ぷんぷんなのである。なぜ、
オーデコロンかというと、ロボット特有の機械油と生命液の匂いを消すためなのである。
もう一人の男は、『松前屋』だったわけだ。
「この男が黄金の腕、福次郎です」
「おやおや、はじめまして。私はキャプテン、チムニーです。お見知りおきを」手を握ろ
うとする。
「おや、どうも、ごきげん斜めのようですな、ミスター福次郎は…」「いや、我々の間で、
少し行き違いがありましたな」
「ほほう、日本側の問題ですな。私は内政には干渉しませんよ」
(てめえ、そう言いながら、日本の金を盗もうとしているじゃないか、この悪党め)
と、福次郎はにこやかなキャプテン・チムニーの顔を見ながら思った。
『福次郎さん、たとえ頭の中でも私の悪口を言わぬ方がよい』
 急に、福次郎の頭の中に、考えが流れ込んできた。(何だ、これは…)福次郎は急なこと
で戸惑う。
『ふふう、あなたは超能力ロボットのことを聞いたことがないようですね。私がそれです』
電流が福次郎の体を通ったようだった。
 超能力ロボット、略してER、噂には聞いたことがあった。が、会うのは初めてだった。
体に触れなくても、相手のデータを読み取ってしまう、そんなロボットがいると聞いてい
た。(本当に存在するのか)
『そうです。驚きましたか』
 福次郎の顔からたらりと冷や汗が出ていた。
「どうした、福の字。顔が真っ青だぜ」
 桃が不思議そうに、福次郎をのぞき込んでいる。どうやら桃太郎はキャプテン・チムニ
ーがそんなロボットERとは知らぬふうである。
「この船にいるロボット全員が、我々の仲間なのだ。驚いただろう、福の字」
 中央集会所に入るドアを桃太郎が勢いよく開けると、一斉にロボットたちが、福次郎た
ちの方を見た。その数、ざっと五百名。かなりの数を集めたものだ。(が、なぜこんな多数
のロボットがいるのだ)不思議に思う福次郎だった。

(4)
 とうとう、福次郎は自分の腕を、その企みのために使わざるを得ないはめに陥っていた。
 その企みは、いままでロボットたちが仕掛けたこともない程、大きな犯罪であった。
「よろしいですか、西日本都市連合からの援助金は、東京から海路、この大阪要塞に運び
込まれる予定なのです」松前屋は、回廊から身を乗り出して、下の会議所にいるロボット
に説明していた。
「それで、その総額は…」
「聞いて驚くんじゃありませんよ。何と三二兆五千億円なのですよ」「ひえ…、それは一国
の国家予算ではないか」
「そうなのですよ」
 どよめきが船室に満ち満ちた。誰かが叫んでいる。
「ちょうどよい、俺の腕がなまっていたところじゃ」
 腕自慢の浪人ロボットが、大きな声で叫んで自分の刀を抜きはなそうとした。が、刀の
手入れが悪く、そう簡単に抜けずにまごまごしている。
「おいおい、然様な手捌きでは、相手に切り刻まれて、大阪湾のサイボーグ魚の餌にされ
てしまうぞ」誰かが、その侍ロボットをちゃかしている。
「何を言う。これは名刀空陣なのじゃ。抜けぬ訳はない」
 やっと、抜けた。が、中はボロボロなのであった。
「それでは、皆様方には特訓していただきましょう」松前屋が騒ぎを制して言った。
「何ですと、特訓ですと…」
「我々の腕を信じられぬか、松前屋殿」
 怒りの声が会場に満ち満ちている。
 皆、腕に自慢のあるロボットたちである。松前屋の一言にカッと来たのだ。ロボットに
も怒りの感情はあるのだった。
「いえいえ、皆様、ものには手順というものがございます。手前も商人である以上、手順
を踏まなくてはならないのですよ」と皆を睨みつけるように言った。松前屋の威光にけお
されて、たじろぎ、ロボットも返す言葉がない。

(5)
 霊戦争の後、人類及び全ロボットは、冷子星の監視下に置かれている。神の眼ボルテッ
クスは地下上空三〇〇〇kmに数基設置されている。現在、全人類は上空一五〇〇km以
上を飛ぶ飛行体の開発は禁止されていた。その禁を犯すものはボルテックスのレザー光線
が情け容赦なく打ち込まれるのだった。
 そして、地球上における大出力のレザー武器も禁止されていた。全人類はローテクの兵
器を使用しながら、人類の再生をはかっていた。
 しかし、一部には、世界史後、新たな戦国時代ではないかと考える社会学者もいた。い
わば弱者は強者に飲み込まれる事態になったのである。その時期、ロボットのスタンスは
非常に微妙なものになっていたのである。
 ロボットを味方に取り入れる勢力は、ある種のパワーを見方にしたも同然であった。ロ
ボットの存在が勢力圏活動において、大いなるキャスティングボードを持つこの時代を後
世の学者は、『ロボット重要主義の時代』とも、『ロボット帝国主義の時代』とも呼んだ。 
この時代の人々は、まだ新たに勃興する第三勢力である『機械生命』の存在に気付いてい
なかったのである。

 福次郎は船のハンモックに押し込まれて眠った。次の朝。
「こ、これはどうしたことだ」
 気が付くと、福次郎は高繊維ロープで、ぐるぐる巻にされている。「一度、あなた様の腕
をね、確かめておきませぬとね。我々も他のロボットの手前、示しが付きません。あなた
の腕前を見せていただきましょう」遠くの方から、松前屋の声が響いてきた。
 どうやら深い穴の中に、福次郎は降ろされているらしい。何か横合いで時間を刻むもの
がある。それらを見た。巨大なドラム管が二個、加えて何かの制御装置が上部に付けられ
ている。
「松前屋、これは一体」
 福次郎は、穴の上部にいる松前屋に怒鳴り掛けていた。
「よろしいですか、福次郎様。あなたのその横に転がっているのは、陽子爆弾です。その
横にあるのは、御用船に使われているのとほぼ同じタイプの鍵なのです。その金庫の中の
タイマーを止めることができれば、その爆弾を止めることができますが…」
「で、できなければどうなるのだ…」
 福次郎の人工皮膚にうっすらと、人工汗が滲んで来ている。かなり緊張しているのだ。
「それじゃ、上でお待ちしておりますよ。あなたの黄金の腕をお見せ下さいませ、福次郎
様」
「ま、待て」
 福次郎の叫び声を後に、松前屋は、穴のうえのハッチを締めてしまった。真っ暗闇なの
である。聞こえてくるのはタイマーの音だけだ。(くそっ、俺は単なる経理屋でというのに、
なぜこんな目に会わなければならぬのだ。くそっ、桃太郎め、きっと覚えていろ。生きて
会う機会があるならば、きっと首をかき切ってくれる。が、あやつ俺が、何か別の存在の
ような言い方をしておったから、気に掛かる。いやいや、今はそれどころではない。とに
かく、この戒めを解き、タイマーを止めなくば、俺のからだが吹き飛んでしまう。本当に
俺はその『黄金の腕』を持っているのか)煩悶する福次郎であったが、そのうちにも非情
に時間は過ぎ行きて行くのである。何かが、福次郎の心の中で起き上がって来た。それは
普段の福次郎が思いも掛けないものだったのである。攻撃的で非常に頭の良い、野生の動
物のようなものだった。そいつが福次郎に話しかけていた。
『悩むのではない、福次郎。動け、早く動かぬとお前が滅んでしまう』
「一体、お前は何なのだ」
『私が、お前の別の人格なのだ。本来は奥深い所に潜んでいるのだが、このような危険な
状態ではお前では切り抜けることはできまい。私のために体を明け渡すのだ』
「お前に体を明け渡すだと…」
『わからぬのか。私の方が本来の福次郎の人格なのだ。何故に石投げの福次郎と呼ばれる
のか、また黄金の腕と呼ばれるのか分かっておらぬのか、ばかものめ』
 福次郎は急に表出してきた別の人格から、ばかもの扱いをされているのである。これに
は、さすがの福次郎もむっとしてしまった。「何をいいやがる。俺は自分の人格で切り抜け
てやる」
『ほほう、大見えを切ったな。それじゃ私は消えさせてもらうぞ』 怒りの言葉を発した
ものの、このような状態になれてはいない福次郎、急にびびってきた。
「いえ、そのあの、すみませんが、この事態では…」
『早く決めろ。この事態では、さすがの黄金の腕の私でも、時間が掛かるのだ』
「わ、分かりました」
『それでは』
 急に福次郎の意識は無くなった。後は何がどうなったことやら、元の福次郎の意識が戻
ってみると、
「いやはや、さすがは福次郎殿だ。あのような難しい鍵を開けられるとは。さすが、さす
が」
 回りには松前屋などが取り囲んで、ほめそやしているのである。どうやら成功したよう
だ。福次郎は気になることを聞いた。
「ところで、松前屋殿。あの爆弾は本物なのですか」
「何をおっしゃっておられます。本物でございます。あれ、いかがなされた。おい、大変
だ。福次郎殿が倒れたぞ」

(6)
「う、腕が高鳴るう」
 名刀空陣のロボ侍が叫んでいた。攻撃当日なのである。他のロボットたちの興奮も同じ
ようなものなのである。西日本のロボット制打破の戦いが、大阪湾上で行われて、何年か
過ぎている。それ以降、大きな戦いはないのであった。
「我々はどこへ向かうのでございますか」
 松前屋がキャプテンに尋ねていた。
「よろしいですか。向こうは東日本政府の船、おまけに大金を積んでおります。襲撃に対
する構えもしておりましょう」
「それゆえに…」
「皆様方のお力が大切なのでございますよ」
 松前屋は攻撃ロボットたちを前に、しゃべりかけていた。
「御用船の防備は我々に任せて下さい」
 キャプテンチムニーが大見えを切った。
「あなたがた方は、御用船の内部を制圧するだけでよいのです」松前屋が、重みを持って
言った。

 帆船の姿が、彼らの目に入って来た。帆船と言っても、帆はソーラー受光器なのである。
東日本政府の御用船『関州号』である。全長二〇〇m、重さ三〇〇万トン。甲板上に特別
に設置された兵器が見えていた。上室には、監視用の飛行船が、低空飛行をしているのが
目に入って来る。後ろと前には小型の護衛船がいる。『ゲルマニア号』からは密かに小型船
が三隻発進していた。
1隻には飛行船対策である。他二隻は関州丸の護衛船を襲う役割である。船足の速い小型
船が使われているのも、そのためなのである。
 この襲撃団に集められた無頼ロボットたちも、各々にテストを受けているらしかった。
それでなければこのような大仕事はできない。とりあえず西日本にいる腕自慢のロボット
が集められたと言えよう。 福次郎は大穴での恐ろしいテストを受けてからは、丁寧な扱
いを受けていた。しかし、福次郎は、
(もう一度あのような事ができるのだろうか、それにその黄金の腕を使った折の記憶がな
い)
 というのが不安の種だった。
(まさか、本番の時に、できません、開けられませんでは、このロボット盗賊団五百人か
ら、どのような仕打ちを受けるか考えただけでも恐ろしいではないか)と、福次郎が考え
ている間、見る見る内に東日本政府の小型の護衛船に、福次郎たちの別班が襲い掛かって
行く。別動隊であった。
 これといった抵抗もなく、関州丸に接舷して、甲板に乗り込んだ福次郎たちだったが、
(あまりにも無防備過ぎるのでは…)福次郎の胸の中に疑問が生じてきていた。福次郎の
勘というものが働いているのだ。
「何かあやしくはありませんか、伸藤さん」
 福次郎は、浪人ロボットの頭と目されている伸藤に話しかけていた。
「お主もそう思うか。実は私もな…」
 が、有無を言わせず、六十人ばかりのロボット盗賊団が、御用船甲板を上にずりあがっ
ていた。各々の手には刀をはじめとする武器が手にされているのだ。具合よく、御用船の
側を航行する船は居ないようだった。

(7)
 福次郎は大金庫相手に大奮戦していた。が、やはり、金庫を開けることができない。あ
の意識を呼び起こそうかとしている矢先に、金庫の扇が自動的に開いた。「さすがは、福次
郎殿じゃ」皆がどよめいた。
「いや、俺の腕じゃあり…」
「ご謙遜、ご謙遜」
「奥ゆかしい方じゃ」
 が、何か大金庫の中で、蠢くものがある。人の気配がする。
「何だ」
 誰かが叫んだ。急に照明が灯る。パワードスーツの都市連合軍が武器を手にして、待ち
構えていたのである。
「うわっ…」
頭目らしい男が、
「松前屋、ご苦労であった。この者どもが、西日本政府に逆らいおる不貞のロボットども
か。一網打尽にしてくれるわ。それ、皆かかれ」西日本対ロボット警察特別班・長谷川警
部だった。
 松前屋の裏切りなのであった。西日本政府は、政府の方針に逆らう不満ロボットを、一
網打尽にする計画を東日本政府に相談していたのである。
「逆らう奴は殺してもよい。この者どもは生かしておいては、我が日本のためにはならぬ
ロボットどもじゃ。皆殺しじゃ」頭目は西日本政府のパワードスーツ部隊に呼びかけてい
た。
 都市連合軍の攻撃を受け、御用船から逃げ出し、『ゲルマニア号』に戻ろうとしたロボッ
トたちもあったのだが、甲板に戻ってみると、すでに『ゲルマニア』の姿はない。
「ま、まて…」と、伸藤は叫んでいる。
「ひきょうものめ、裏切りものめ」
 と、言っても、聞く耳は持たぬ『ゲルマニア号』である。ゲルマニア号は外装を残して、
急速潜行して行くのである。外側は普通の船に見えたのだが、内身は潜水艦だったのであ
る。
「ああ、これが、我が希望は、水の泡と化するのか」
 呟く伸藤。目の前には『ゲルマニア号』の沈下した後から、あぶくが上って来るのであ
った。
 『ゲルマニア号』は潜水している。その中のブリッジで、二人の男が話している。
「ふふう、後の始末はよろしくお願いしますよ、斎藤さん」
 キャプテン・チムニーは、西日本都市連合の使者・斎藤に、そう告げていた。
「お役目ご苦労である」
 斎藤は裃姿でお辞儀をした。猿顔であった。他の者は謀られていたことに気付いたが、
もう後の祭りである。西日本の選び抜かれた武闘に優れたロボットたちが、一網打尽にさ
れたのだ。

(8)
 運送船関州号奪取に見事に失敗した福次郎は、裁判を受け、ロボット監獄に送り込まれ
ることになった。霊戦争の後、大阪湾上に小さな人工島が作られていた。西日本都市連合
が共同管理し、各都市で犯罪を犯したロボットが、その島に送り込まれているのだ。島の
名を通称レイガン島という。
 レイガン島は周囲一五kmで、中央部が霊山と呼ばれる三二七mの山であり、南半分が
おだやかな緑に包まれている。ここは西日本都市連合の共同管理地となっている。が、北
半分はまったくの荒れ地で、地肌も荒々しく、荒涼たる風景が広がっていた。
 この霊山も霊戦争の前は、何かのタワーであったのではないかと言われているのだが、
今となっては調査方法もないのだ。
 島の親分衆・七人委員会が仕切っているレイガン島の犯罪人牧場は、この北の荒地に設
置されている。犯罪人を働かされる場所は、牧場と呼ばれているのである。この荒地は、
先の霊戦争の折、何かの光線攻撃を受けて、地層全体が何か別の物質に地下深くまで変化
しているのだ。それがある種のエネルギー源になることを、西日本政府の秘密調査部隊が
発見したのである。それ以降、犯罪人が送り込まれ、鉱石の発掘作業に従事させられてい
るのである。
 二十人ほどのロボットを乗せたモーターボートが、俊足に大阪湾を駆け抜けて行く。そ
の中に福次郎の姿が見える。白波を蹴立てるその姿は勇壮なのだが、中に乗っているロボ
ットたちは皆憂鬱そうだ。五人の看守ロボットの姿が見える。赤色とオレンジ色に塗り立
てられたモーターボートを見ると、湾上に航行する船は、かかわりあいを避けて、船足を
変えていた。赤・オレンジのツートンカラーを持つ船は、すべて囚人輸送船なのである。
 が、この囚人輸送船に似合わぬ、数人のロボットと人間が乗っていた。その数人の男た
ちの会話が、福次郎の耳に入って来た。
「ふふう、この世の中にあのような愉楽があるとは、この年になるまでしりませなんだ」
中年のたかぶったような声だった。
「ふふう、奈良屋殿も好きものじゃ。お竜が泣いておりましたぞ。後々使いものにならぬ
と…」別の声が言う。
「ふふ、ひひ、いやはや、お前様こそ。年甲斐もなく、ロボット美女に入れ込まれてのう」
奈良屋と呼ばれる男が言う。
「いやはや、西日本政府の奴も、悪い遊びをはやらせるものよ」
「ところで、この船には女の囚人は乗っておらぬのですか」奈良屋の声がうわずっている。
「おやおや、奈良屋殿。早速新たな女ロボットに、目をつけるおつもりか」
「皆様方、お許し下さい。今回は男どもです。例の反乱の…」船員の声が静止しようとし
たようだ。
「嘘をおっしゃい、本当は隠しておるな。ちゃんと見せて下さいませ」奈良屋は、無理や
り覗こうというのだ。
「奈良屋殿、そうは参りませんぞ」が、窓がすこし開く。覗く眼。その奈良屋と呼ばれた
男が、囚人だまりをのぞき込んっでいる。
「本当だ。貧相な男ロボットばかりだ」
「貧相なとは酷いなあ、ははは」

「よいか、お前たち、生きて帰れると思うな。あそこはロボット地獄なのじゃ。ふっふっ
ふっ」
 看守長が、船室の中で、収容されている犯罪ロボットたちに向かって、偉そうにのたま
わっている。一応、福次郎たちは無期懲役なのだが、どうしても生きて外には出さぬとい
うのが西日本政府の方策のようだ。ロボットに対して、西日本政府は何やら、いろいろと
恨みがあるようなのだ。そこが初めから解放されていた東日本とは違うのだ。
 レイガン島の桟橋に着いた。先刻の商人たちは、別のブリッジからレイガン島へ上陸し、
迎えの馬車が待っている。いずこへとも走り去るのを、福次郎はぼんやりと見ている。
「くそっ、あいつらいいことしゃがって」
 と看守のつぶやきが、福次郎の耳に入って来た。
 福次郎を初めとする囚人ロボットは、いくつかの班に分けられた。各々の班が、このレ
イガン島を治めている七人の親分衆、七人委員会のところへ連れて行かれるのである。
 ちょうどそのころ、島中央にある会議所で、島の七人委員会の会議が開かれている。
「どういたします。あの福次郎とかいう男」NO.2が問題を提示する。
「しばらく様子を見たらどうだね」穏健なNO.3が考えを述べた。「何、福次郎ですって。
そいつは石狩の福次郎って奴じゃないのですか」 NO.7の女ロボットが声をあげてい
る。なかなかの美女ロボットなのである。
「おやおや、お竜姐さん。あのような男が好みなのですか。ふふふ」 と、お竜に少しば
かり気のあるNO.4の権太親分が嫌みを言う。「あんたに関わりはないでしょう」
 と、権太の方を向いて、キッとした表情を見せ、
「私にその福次郎とやらを預けていただけませんか」
と会議の議長NO.1に言った。

 会議後、先刻のNO.4が全ロボットデータベースを探っていたようなのだ。NO.7
のお竜の言葉が、どうも気に掛かっていたらしい。データベースのモニターを見ながら、
「そうか、そういうことなのか。これは面白い関わりではないか」 と、独りごちて、N
O.1の議長の方を向いた。
「NO.1、どうやらNO.7と福次郎はすくなからぬ関わりあいがあるようです」
「何、NO.7本人とか…」
「いえいえ、そうではないようなのです。NO.7の姉とね。どうぞこのモニター画面を
ご覧ください…」
「ふむふむ、そういうことなのか。それでは一度、NO.7に当たらせてみるか」 NO.
1もにんまりとほくそ笑んでいた。

ロボザムライ第2部
ロボット死闘人「石狩の福次郎」第1章 襲撃
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yama-kikaku.com/


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