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ふるっぴ@ Re:時は流れても、私は流れず(08/26) もうすぐ2016年の夏です。みんな元気…
ヤンスカ@ Re[1]:時は流れても、私は流れず(08/26) furuさん ふるっぴ、お久しぶりです! よ…
ヤンスカ@ Re[1]:時は流れても、私は流れず(08/26) gate*M handmadeさん うお~!お久しぶり…
furu@ Re:時は流れても、私は流れず(08/26) 勝手に匿名コメントを残し、怪訝にさせて…
furu@ Re:時は流れても、私は流れず(08/26) やっぱり元気やったな!? 良かった。

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2012.12.22
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カテゴリ:カテゴリ未分類
「ああ、ウィル、ウィルなのね!嬉しいわ」


私は、何も言えずに黙り込んでしまった。

エレノア。昔、私がCIAのエージェントだった時代に、監視していた女。敵国のスパイの愛人。
そして、私は彼女を愛してしまい、二人で逃亡しようとしたのだ。
ケイマン諸島に財産を移し、私たちは無事にマイアミ空港にたどりついて、
旅立ちに乾杯しようと彼女に言われた。
「ウィル、愛してるわ。やっと、自由になれるのね」
彼女は私の両ほほを柔らかな両手で引き寄せて、
初めてのキスを交わしたのだ。情熱的で、頭が真っ白になるような…。


そして目覚めたら、私はマイアミの湿地帯の中にシャツとショーツだけの姿で
縛られて転がされていたというわけだ。強烈な睡眠薬をしこまれたらしい。

私の絶対安心な偽名のパスポートで、
エレノアは自分の愛人と逃亡に成功したのだ。
まんまと、私はだまされたってわけ。

だのに、あの緑の瞳を思い出すと憎み切れない。
私を殺そうとしたら、できたはずなのに、
自力で生き延びられる状況に私を置いていったのは、せめてもの情けなのだろう。


「エレノア、何のつもりだ」
「ウィル、許してちょうだい、昔のことを」

すっかり、聴きなれたヤンスカ様の少しだけ低めの安定した声と違って、
エレノアは、細くて高い声で話す。
今も、ささやくような、意識を集中させないと聞き取りにくいような声で
私の耳の中に、頭の中に、そして、心の中にと入りこんでくる。

「助けて、ウィル。あなたしか頼りにできないの、お願い」
「待て、エレノア。落ち着いて話すんだ。何があった?
 そもそもどうして私の居場所を知った?」
「冥土喫茶の、マルセルからきいたのよ。貴方がここにいるって」

なぜ、マルセルが出てくるのだ。

「なぜ、あんな場所を君が知っているんだ?」
「ウィル!私のあの人が、死んでしまったのよ。殺されたの。
 だから、私、死んだ人に会えるという冥土喫茶に行きたいの。
 問い合わせたら、そこへ行くには特別な乗り物でないとだめだっていうじゃない。
 貴方の列車に尋ねてみたらいいと、管理人が言ったのよ」

「聞くんだ、エレノア。私の列車ではないのだ。オーナーはヤンスカ様と言うお方だ。
 彼女のための列車であり、私はただの運輸部長に過ぎない。残念だが彼女のゲストしか
 この列車には乗ることができないのだ」
「お願い!どうか、その方に頼んで!私にできることなら、何でもするわ。お願い!」
「だめだ、エレノア。あそこに行ってはいけない」
「貴方は一度いらしたんでしょう?そのオーナーと一緒に。聴いてるのよ、マルセルから」
「君は、あの世に行くつもりなのか?絶対にダメだ」

急に黙りこくったエレノアの様子を、私は後になってから変だったと思いだす。
泣きながら彼女は言った。

「そうね、あんなひどいことをした私を、貴方が許してくれるわけがないわね」
「そうじゃない!大切な人を亡くして、君も辛いだろう。だけど、生きて行かなくては」
「ウィル。もう、いいわ。わかったわ」
「エレノア、冥土喫茶に行くこと以外で、私にできることがあれば…」
「いいえ、ウィル。私がかなえたいことは、たった、ひとつよ」

そして、電話が切れた。
再度かけなおすと、この電話は使われていないと言う案内が流れてくる。

なんともいえない不安と、過去から蘇った彼女が今どんな姿をしているのかと考えながら
私はいつまでも、テーブルに肘をつきながら座り続け、知らぬ間に眠りに落ちていたらしい。


ドンドンという、ノックの音で立ち上がり、急いでドアを開けると
マリアが血相をかえて立っていた。
「カーステアーズさん、大変なことになったわ。この列車が乗っ取られたの!
 すぐにいらしてください」
「どういう事だ、マリア?」
「クリスマスの寄付金を集めに、教会のシスターがお越しになったのです。
 ヤンスカ様がお茶を差し上げなさいとおっしゃるので、中にお通ししたら、
 おお!神様、シスターがヤンスカ様に銃を向けて、この列車を冥土喫茶に
 向かわせろと言うのですよ」
「冥土喫茶に?わかった、すぐに行こう」


ヤンスカ様のサロンカーに入ると、
私は信じられない光景を見た。
わがオーナーの右手とシスターの左手が手錠でつながれており、
シスターの右手はヤンスカ様の頭に銃をつきつけている。

「おはよう、ウィル」
「どういうこと?カーステアーズ!この女はあなたのお友達なの?」
ヤンスカ様の目は怒りで燃えさかっていて、銃が向けられていることなど
気にもなさっていない様子だ。
「エレノア、なんで、こんな真似をするんだ。どうしてここへ」
「エエ~っ!もしかして、カーステアーズをまんまと騙した、あの麗しのエレノア?」
ヤンスカ様は、シスターをまじまじと眺める。
「緑の瞳じゃないわ」
「黙りなさい。カラーコンタクトってものを知らないの?バカ女」
エレノアが、鼻を鳴らす。
「んまあ~!バカ女って言ったわね~。確かに列車へ入れた私はバカだけど、
 カーステアーズ、あなたの好きだった方はサイテーよ」

とたんに、エレノアはヤンスカ様のこめかみを銃で殴り、
ヤンスカ様は崩れ落ちた。
私は駆け寄ろうとしたが、すぐさまエレノアがヤンスカ様の頭に銃を向けて笑う。
「はあ、手のかかる女ね。さて、倒れちゃったから私も座らせてもらうわね。
 ウィル、列車を出しなさい。冥土喫茶へ。それから、外部への連絡は無理よ。
 ここに来る前に、全ての通信を不可能にする細工をしてあるからね」

「ウィル、貴方も銃を持っているのね?私を撃つならどうぞ。でも、このバカ女も
 道連れよ。さあ、出発しましょう。いう事をきいて」

マリアには、ウー様と奥の部屋に籠っているように言い渡してある。
ヤンスカ様だけでなく、小さな子供が乗っていると知られたら、ウー様も危ない。

「エレノア、よく聞くんだ。まず、この列車は普通のエネルギーでは走行しない。
 オーナーの並外れた妄想力が動力源なんだ。だから、この方を傷つけてはいけない。
 彼女の手当てをさせてくれ。必ず君の願いはかなえるから」


そこへ、何も知らない私の妄想列車かわうそが入ってきてしまった!
「おはようございますう~ご主人様あ。あれ、何やってるんですかあ?」

エレノアは、びっくりしてミニチュア汽車を眺めている。
そして、かわうそに銃を向けて私に言う。
「まさか武器じゃないでしょうね?」と。
「とととと、とんでもないですう~、ボクはただのカーステアーズ様の妄想列車ですよ」
「喋るの?このオモチャは」
「あ~!言ったな。小さくたってボクは役にたつきかんしゃなんだからあ~」

「かわうそ、黙るんだ」
私が、冷静に声をかけても、オモチャ呼ばわりされたかわうそは黙らない。

「なんで、シスターのくせに銃なんか持ってるんだよう~、あ、カーステアーズ様あ、
 昔、角川映画で、シスターがやくざっていう設定の映画ありましたよね。ね、ね。
 そのモノマネなのかなあ~。それより、ヤンスカ様にこんな事しちゃって、
 ボク知りませんよう~、すっごい怖いんだからあ!
 それにね、ボクのご主人様はヤンスカ様のことすっごい好きなんだから、やめてあげてよう」

あちゃあ、かわうそ、それを言うのか。

エレノアは、にやりと笑って私を見つめる。
「ウィル。さあ、彼女を起こしましょうか。早く」

かわうそが、ヤンスカ様の耳元で汽笛を鳴らす。

意識を戻したヤンスカ様は、エレノアを睨みつける。
エレノアはすました顔で、冥土喫茶に向かうようにと、理由を話し出した。


私を騙した後に、ケイマンへ旅立った二人は、そこからさらにブエノスアイレスへ飛び、
しばらく暮らしていたこと。やがて、また悪の道に舞い戻ったエレノアの愛人は、
ニューヨークで暗殺されてしまったこと。どんなに堕ちていった男であろうとも、
エレノアは彼を愛していたこと。

なんてことか。
ヤンスカ様は、涙と鼻をふきながら、エレノアの話に聞き入っているではないか。
「あなたって、本当にその方のことを愛してらしたのね。ステキだわ~」
そして、私に冥土喫茶へ向かうように指示するのであった。
「だって、私はマルセルとディナーの約束をしているじゃな~い。ついでですもの、
 ご一緒すればいいじゃない」


そうして、妄想列車は冥土喫茶に向かって走るのであった。

「エレノア、私は着替えをしたいのよ、だからこの手錠を外してちょうだい」
「それは、ダメよ。本当に到着するまで、あの人に会えるまではダメよ」
「ちょっと、待ってよ!私はデートのためにバレンシアガのキュートでセクシーな
 ドレスを着なくてはいけないのよ!」

「ええ!ヤンスカ様~、カーステアーズ様のことはどうなるの?」
「なあに?かわうそ」
わがオーナーが目を細めてかわうそを睨みつける。
「だって、だってえ、二人とも好きなもん同士じゃなかったのお~?
 ああ、イワン様がいたらなあ~、ご主人様、なんでちゃんとヤンスカ様に
 好きだって言わないんだよう~!他の人とデートなんかして平気なの?」

わがオーナーは、私を無表情に眺め、抑揚のない声でおっしゃったのだ。
「あれは、錯覚だったのよ、かわうそ」と。


(後編に続く)





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Last updated  2012.12.23 00:08:16
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