千葉詩人会議ーその5-
最後に三好達治の4行詩をご紹介しましょう。 南窗集(なんそうしゅう)、けん(けんの字は環境依存文字のためブログには載せられません。)()()花集、山果集などに収められています。叙情的な詩もあれば、モダンなシンボリックな詩もあります。三好はフランス文学専攻ですからサンボリックと言っていますが・・・。 これは西洋の詩の影響を受けたと思われます。西洋の詩は行の最後がrain trainと重なることを韻を踏むと言って、その続きの行末がnight sightと重なればA,A,B,Bの韻を踏むといいます。行末がrain night train sightとなればA,B,A,Bの韻を踏むといいます。19世紀ごろまで西洋の詩も韻を踏んでいましたが、だんだん韻を踏まなくなり、自由詩を書くようになりました。日本の詩も同じですね。七五調では無くなってきました。俳句や短歌には残っていますが・・・。 西洋の詩は四行を基本に一六行の詩もあり、それをソネットと呼びました。 達治の詩はもちろん韻は踏んでいませんが、短詩を書く場合この基本の4行が頭にあったことと思われます。 難しいことはさておき、いくつかをご紹介したいと思います。 椿花 これはいづこの国 いづれの世の建築だらう 私の夢なら こんな建ものの中に住みたい 今朝の雨に濡れて 掌上に ややに重い一輪の紅(べに)椿(つばき) その壁に凭(もた)れて 私は楽器を奏でる この騎士(ナイト)の唇(くちびる)を 花粉が染める 滝 それの向こうの 一つの屋根の高みから 炭焼きの煙が揚(あが)る 耳鳴りほどの谿谷(たに)の声 薪を割る遥(はる)かな木霊(こだま) 一羽の鶸(ひわ)の飛びすぎる 狭間(はざま)の奥の絶壁に 五寸ばかりに躍(おど)ってゐる 滝 ざくろ 柘榴 ( 風に動く 甘い酸っぱい秋の夢 柘榴 空にはぢけた 紅宝玉の 火薬庫 チューリップ 蜂の羽音が チューリップの花に消える 微風の中にひっそりと 客を迎へた赤い部屋 以上のように三好達治の詩のスタイルは多岐に渡っています。豊穣な語彙を駆使して三好ワールドを形成した詩に圧倒される思いでした。またその描き出すイメージの豊かさにも驚かせられます。 最後に達治が自分の詩をどう思っているか覗いてみたいと思います。 枕上口占( ちんじょうこうせん) - - - - 私の詩は 明け方西の空にある 昨日の月 やがて地平の向こふに沈む 昨日の月への餞( はなむけ)だ 既に私はそこにない それは私の住処(すみか)でない 読む人よ 憐れと思へ 私の詩が私を駆る 私を駆る 涯( はて)しない流砂(りゅうさ)のうち これは長い詩の最後の一節です。ここからも達治の自分の詩に寄せる思いを感じることができるでしょう。 長い文をお読みいただいてありがとうございました。 おわり