HANNAのファンタジー気分

2005/06/28(火)22:01

長野まゆみ『夏至祭』のレトロモダン

ちょっとなつかしのファンタジー(112)

 夏至を過ぎ、7月2日が「半夏生」です。こんな言葉は知らなかったけれど、長野まゆみの『夏至祭』を読むと、急に以前からの親しみ深い暦のように思えるから不思議。  『夏至祭』は、少年の姿にもなる美しい2匹の野良猫の物語で、むかし高校生?向けの課題図書にもなった『野ばら』の「初期形」だそうです。  長野まゆみの作品は、いつも登場人物の名前に忘れがたい“一癖”があります。2匹の猫=少年の名は、その毛色から「銀色」と「黒蜜糖」。  バックの花は、半夏生草、棠梨(ずみ)、芍薬など。たいてい知らない植物なので、『日本大歳時記』でさがしてみます。  小道具は、足踏みミシン、祖父の腕時計、羅針盤、琥珀色の上布など。私の世代だと、かすかになつかしいにおいはすれど実際にはもう知らない時代の言葉が並びます。透明な夏の初めの夕暮れの、レトロモダン。  猫たちの夏至祭の開かれる棠梨の木の下で、今は亡き祖父が拾ったという腕時計。もうメッキがはがれたその時計を別世界へのカギにして、月彦は猫たちと知りあい、野茉莉(のまり)の実の白い粉を鼻筋へ塗って夏至祭へ出かけます。  (お祭自体の描写が、前後にくらべていまひとつ幻想性に欠けるのは、残念というべきか、それとも作者の意図的なものかしら。)  帰り道、祖父の姿を見かけたあと、腕時計は失われます。家へ帰るとメッキも真新しい腕時計が出てくる。   時がたち、腕時計の鍍(メッキ)がふたたび剥がれ落ちる日が来れば、もう一度彼らと逢うことがあるかもしれない。月彦はそう思った。  時計をカギに、時間は円環となって永遠化されています。こういう終わり方、私は好きなんですねえ。  毎年、この時期に読みたくなる本です。

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