文春新書『英語学習の極意』著者サイト

2007/06/22(金)09:50

ヴェトナムの出版文化の底力

越南のオモチャ箱(5)

夕方近く、「本屋に行きたい」と言ったら、 勤務先の事務所のあるビルの2階にもあると言われた。 ハノイ駐在員、ホーチミン市現地社員と3人で行ってみた。 越英辞典、英越辞典、例文豊富な日越辞典、子供用の絵入り越英単語集2冊の、合計5冊を買った。 しめて20米ドル弱だった。 絵入り単語集のうちの1冊は、 バービーちゃんといっしょにカラー写真を見ながら500の英単語を勉強しようね、という本で、 逆にヴェトナム語初心者にとっても楽しい学習教材なのですね。 こういう教材は日本ではまず買えないから、貴重だ。 えび茶色の表紙で1333ページの日越辞典の例文豊富ぶりは狂喜もの。 たとえば「思う」をひくと、 まず訳語があり、そのあと 「考える」との違いをヴェトナム語で4行にわたり説明したあと、 「それはうそだと思います」 「彼女は自分が美人だと思っている」 「物事は思うように行かないものです」 といった例文が14もあり、ヴェトナム語の訳文がついている。 「彼は 憂 愁 な選手だと思います」 と漢字を間違えているのは“ご愛嬌”の域を超えているが、まあヴェトナム語のほうは(たぶん)正確だろう。 小さな本屋だったが、品揃えをみてヴェトナムの出版文化はタイとどっこいどっこい、あるいはそれ以上かもしれないと思った。 造本のレベルはタイのほうが上だ。 が、小さな本屋にもかかわらず多種多様なヴェトナム語の国語辞典(越越辞典)が置いてある。 それが何だ? と思われるかもしれないが、 タイ国民の場合、 国語辞典(泰泰辞典)の出版・販売に不熱心で、 王立学士院編纂の国語大辞典と、マティチョン新聞社の写真豊富な国語辞典などを除けば、 子供だましのような小辞典しかなくて、 しかもそもそも国語辞典を置いていない本屋がざらにある。 ところが、ホーチミン市のオフィスビルの一角の本屋さんには、 ヴェトナム語の国語辞典が大から小までいろいろ揃っている。 外国語辞典のコーナーも、英語のみならず、 フランス語、日本語、中国語、韓国語、ロシア語とヴェトナム語の対訳辞典の、使いやすそうなものが揃っていて、 この充実ぶりはタイはおろか、台湾の上を行っている。 台湾の場合、 国語辞典(中中辞典)は極めて充実していて、英語と日本語の辞書もいいものがあるが、 その他の言語の辞書の出版はほとんど無きに等しい貧弱さだから。 こういうところで、一国の文化レベルが分かる。 褒めすぎるといけないので付け加えると、 テレビ文化のほうは、ヴェトナムは23年前に初めて行った中国にも劣る感じがする。 外国ドラマの吹き替えを見たら、もとの俳優の声を小さくバックに流しながら、同じアナウンサーが全俳優の台詞を読み上げている。 23年前の中国でさえ、男女の声優さんたちを配役ごとに当てて、ちゃんとした吹き替えをしていたが。 時間つぶしのためとしか思えない踊りや歌が突然始まり、なかなか終わらない。 タイのテレビ放送など、ことばが分からなくてもつけているだけで楽しいのだが、ここヴェトナムはさにあらずだ。

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