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「みづからの光のごとき明るさをささげて咲けりくれなゐの薔薇
・・・略・・秀れた先人のこの歌があるために、私は紅薔薇をうたい切ることがなかなかできない。 ・・略・・いきおい私はせめて野茨をうたうことが多くなる。が、蕪村の句に、 愁ひつつ岡にのぼれば花いばら があり、これがまたすばらしい句で、私は野茨さえもうたい切れない始末である。 (12日付朝日新聞夕刊文化欄、尾崎左永子『薔薇の記憶』より抜粋)」 これを読んで何とも言えない深深とした感覚におそわれました。 師である佐藤左太郎のこの歌はもちろんすばらしいが、私は負けないくらい好きな尾崎左永子の薔薇の歌があります。 ためらひもなく花季(はなどき)となる黄薔薇何を怖れつ吾は生き来し 黄がなんとみごとなことだろう。この歌はいつでも私の励みです。 薔薇は花の数だけ様々な名をもっていて、薔薇に魅せられた人々の想いの数とも言えましょう。 そして薔薇の名歌は、言葉だけでありありと薔薇の色も形も香りも感触も与えてくれます。 くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる/正岡子規 花びらをかさねて淡き薔薇のいろゆらば消ゆがに色さし匂ふ/今井邦子 あ!と驚愕した薔薇はこちらの薔薇 パソコンの横にバイオの薔薇は咲き日々しろがねの水を欲るなり/栗木京子 いろいろにいろはにほへどちりぬるを薔薇は薔薇であつてあくまでも薔薇/紀野 恵 たそがれにひとひたすらにあゆむとき朱なる色素をバラというなり/村木道彦 私はどんな薔薇を詠えばよいのか、もう、くらくらとしてきて薔薇園の中で迷子になったような気持ちになってしまう。 陽の下にわれを待ちゐし長身は薔薇の芽嗅ぐと不意にかがみぬ/河野祐子 薔薇はほんとうに切ない花です。 今日、抱えるほどの赤い薔薇をいただきました。公園の前のお宅Nさんから。 「あのね、いつでしたかバスタオルにくるんだピクリとも動かないワンちゃんを抱いて、最後のお散歩している貴方が、洗濯を干していて見えたのですよ。玄関をでたのですが、あなたの表情を見たら、もう声をかけられなくなってしまって。 ごめんなさいね。こんど新しいワンちゃんが来たとお聞きして、安心しました。」 Nさんと二人で泣いてしまいましたが、今、玄関も、リビングもNさんの薔薇の香りに溢れています。ポリーも嗅いだ薔薇のかおり。 ほんとうに薔薇は切なくて、そして、愛という字が最も似合う花ですね。 *題詠マラソン2004 こころに残ったうた (天晴娘々さん、一時間少しで完走されてしまいました。圧巻です。五首選させていただきました。イラクの歌がとくに素晴らしいと思いました。) 098:溺 天晴娘々 2004年05月13日 (木) 22時10分 溺愛をしたことあります あの人を通して寂しいわたしのことを 081:イラク 天晴娘々 2004年05月13日 (木) 22時01分 いつ・どこで・だれの元へ、も選べない誕生 わたしの隣はイラク 070:にせもの 天晴娘々 2004年05月13日 (木) 21時56分 哀しみがどんどん濁つてゆくやうで 時が生み出すにせものの色 039:モザイク 天晴娘々 2004年05月13日 (木) 21時41分 モザイクのやうにだんだん美化される記憶 やりきれないつてかういふのだらう 001:空 天晴娘々 2004年05月13日 (木) 21時21分 これ以上ないほどちひさくうずくまる 窓の向かうは空の隅つこ 011:犬 兵庫ユカ 2004年05月13日 (木) 00時53分 咬んでも咬んでもさみしい犬を飼っているあなたのことを、犬ごと愛す 028:着 芳井 奏 2004年05月12日 (水) 09時05分 落ち着きのないカメレオンゆっくりと眠れよ全て忘れてしまえ 031:肌 渡部光一郎 2004年05月12日 (水) 01時24分 さざんかの人肌色に朽ちゆくもざわつきざわつくはるかぜのゆえ 021:胃 青山みのり 2004年05月12日 (水) 01時05分 鶴の胃をさがしあぐねて色紙のすじ幾重にも刻まれてゆく 048:熱 大辻隆弘 2004年05月11日 (火) 00時14分 熱心な機械だぼくは ゆるやかにしなうあなたの弓を鳴らして 065:水色 五十嵐きよみ 2004年05月10日 (月) 23時12分 後悔は洗い忘れたパレットの水色絵の具の手ざわりがする 005:名前 大江ケンジ 2004年05月10日 (月) 01時18分 「あしたから名前を変えてみましょうか」西日さしこむ診察室で 051:痛 我妻俊樹 2004年05月10日 (月) 00時11分 欠けているあと半分を痛がれば月のあかりのふりつもる皿 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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