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よろず屋の猫

『あなたに不利な証拠として』ドラモンド著

私は図書館で借りた本で気に入ったものは購入する事にしています。
基準はずばりもう一度読みたくなるかどうか、です。
ミステリーの場合、謎解き、犯人探しの面白さで一気に読ませる物は多いですが、再読したいと思うものは、正直そんなにありません。

良く出来たミステリーですと、伏線の貼り方が上手かったりするので、再読すると“あぁ、ここで伏線を入れてたのか”を見つける楽しみがあります。
でもこの程度でもすぐには購入しません。
読みたくなったらその時に買えば良いことだし、手に入らないなら(海外ミステリーの場合、これが本当に多い)、もう一度図書館で借りれば良い事ですから。

読んでいてすぐに購入したくなるのは、これは繰り返し読みたくなるだろうと予感させる小説。
この『あなたに不利な証拠として』は、きっとこれから何度も本棚から抜き取って、読むことになるだろうと思いました。



ルイジアナ州バトンルージュ市警の五人の女性警官の話を描いた短編集です。
この小説に謎解きはありません。
生身の人間としての主人公の心を綴った小説です。

最近、ロマンスミステリーとでも言うのでしょうか、女性作家による女性を主人公としたミステリーが多く翻訳されています。
著者はハーレクインロマンスの書き手だったと言う人もいます。
主人公は美しく、恋人は有能でセクシー、猟奇殺人など扇情的な事件、主人公自身が死の危険に会うストーリー展開。
主人公はトラウマを持っている場合も多いですが、その描写が上滑りで私には“記号”として付けられているように思えます。
(もちろんハーレクインロマンス出身の作者の小説でも傑作はあります)

この『あなたに不利な証拠として』には上記のような女性は出てきません。
警官である事、そして警官である事で身に付けたしまったものを剥ぎ取れば、おそらく誰の隣にもいる女性でしょう。

たとえばキャサリンは警官としての職務を果たしていくうちに、死体、又は“死の可能性への臭い”を嗅ぎ取るようになりました。
事件現場へ赴いて、視覚や嗅覚、味、音、臭い・・・・それらを敏感に嗅ぎ取らなければ、自らを死に追いやる危険性をはらんでいるから。
著者はそれを詳細な死体の描写と言う形で、読者に感じ取らせようとしています。
それでも尚、たとえ優秀な警官であっても、死が訪れることがある。

キャサリンのみならず、この小説の女性警官達は、被害者、加害者だけでなく、自分も対象として、死が日常的にまわりにあることに膿んでいく様子が描かれます。

文章は落ち着いて淡々としています。
ですが、例えばモナの場合、射殺死体とその加害者、足元にある銃と言う切羽詰った場面で、モナ自身の過去の話とリンクして語られて、緊張感があります。

主人公の子供の頃の記憶として語られる風景が美しく、目に浮かんできたりもします。

あとがきによれば、題はミランダ警告からきているもの。
「あなたは黙秘する権利がある。」から始まる加害者に告げられる権利です。
「あなたの発言は法廷で不利な証拠として扱われる可能性がある。」

著者はこの主人公達と同じく、バトンルージュの警官だったそう。
『あなたに不利な証拠として』は十二年かけて完成した処女作だそうです。



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