日のあたる電車の中で、
おじいさんが、
たまたま乗り合わせた赤ちゃんに、
微笑みかけていた。
赤ちゃんは、
おじいさんを、
不思議そうに楽しそうに見ていた。
お母さんは、
おじいちゃんと赤ちゃんのやり取りに、
ほほえんでいた。
一人で電車に乗っていたおじいさんは、
大きな袋をひとつ持っていた。
赤ちゃんとお母さんは先に降りて行った。
いくつか先の駅で、おじいさんも降りた。
おじいさんは、赤ちゃんをあやした。
電車の中で隣に居合わせただけで。
赤ちゃんよりお母さんより、
そのおじいさんが一番幸せそうだった。
あの三人は、もうきっと会わない。
親子はおじいさんを覚えていない。
でもおじいさんは赤ちゃんを覚えているかも知れない。
あの子が大人になる頃には、
おじいさんはもういないのかも知れない。
いつか、何かがあった時、
あの子は思い出すだろうか。
見ず知らずの自分に、
ひょうきんな笑顔で笑いをくれた老人のことを。
きっとそれは起こらないこと。
あのおじいさんは、あの瞬間、幸せだった。
向かいで見ていた私は、泣きそうだった。
おじいさんが、電車を降りた後、
もしくはその日の夕飯の時間に、
一人ではなかったことを祈る。
こんなことが、至る所で起こっている。
自分に向けられた愛に気付くだけで、
人はどれだけ幸せになれるかしれない。
ああいう笑顔を無償の愛というのだと信じている。
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