あたしは、耳から入って来た言葉を全て、
一旦頭の中で文字に置き換えて理解する。
だから、文字が好きなのだ。
だって、頭の中のプロセスが少なくて、楽だからね。
夕方の少し前の時間。
蝉が競っている。
何を。
あたしの言葉。
本当すぎる。
何が。
下手な鶯下手な蝉。
下手な鶯は春の始まりの印。
地面で泣く蝉は何なのだろう。
あたしは笑って起きている。
女は立ち直りが早いなどと言われても仕方がない有り様。
自分でもまだよく分かっていない。
悲しいのかもしれないけれど今はそれを見ない。
そのコントロールが自分でできるところを、
あの人は嫌いだったのかもしれないけれど。
ただ一つ確かなのは、
覚えておかなければというものごとが、
また一つ増えたのだという事実。
夜になって部活が終わってから、
友だちと懐かしの遊びをたくさんした。
「グリーンピース」から始まって、
はないちもんめ、だるまさんがころんだ、
かごめかごめ、とおりゃんせ。
汗をかいていた。
みんな肩で息をしながら、
当たり前みたいに笑ってた。
「もう遅いから早く帰りなさい」
友人のひとりが冗談半分で言った。
何となく静かになった。
だってそんなことを言われたのが、
ものすごく昔になっていたから。
子供の遊びは今でもこれからもできる。
だけど、あの声はもうしないのだ。
チャイム、夕方、ごはんの匂い。
遠くかすかに。
まだ覚えていた。
帰り道、おじいさんを見た。
木の枝のようなものをたくさん抱えていた。
おじいさんはゆっくりと歩いていた。
おじいさんが立ち止まってしゃがみ込んだ。
何かを掴んで立ち上がった。
おじいさんの手の辺りから蝉の声がした。
地面に落ちていた蝉を拾ったのだろう。
おじいさんの後ろ姿と蝉の声。
夏の夜。
おじいさんと、地面に落ちた蝉。
あたしは悲しくなった。
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2004/08/11 10:09:46 PM
コメント(0)
|
コメントを書く