先輩ふたりが結婚をする。
結婚式であたしは司会と、バンドをやる。
その打ち合わせの最中、
あたしは恋人と別れたことをふたりに報告した。
あたしの恋人は、かれらの友人でもあったから。
結婚を控えたふたりにする話ではない、
そうは思ったけれど我慢できなかった。
報告をして、そしてあたしの中で少しでも早く、
すっきりとした事実にして前に進みたかった。
同い年の友人たちに話すよりもなぜだか素直に、
静かに、正直に、話が出来て、
なんだか泣きそうになったけれどさすがにこらえた。
あたしたちのことを最初から知っていて、
もめたり離れたりしたことも知っている人たち。
この人たちに話しながら、
ああ、終わらせたんだなって実感がすこし、湧いた。
あまりにも遠すぎて、
恋人であるという実感のなさに苦しんでいた頃と、
あまりにも遠すぎて、
別れたのだという実感によるくぎりの付けられない今。
なによりも欲しいのは実感で、
それをこの手に入れるまでは誰にも、
もたれかかってはいけない気がしている。
そうでなければ不用意に、
優しい人たちと自分とを結果的に傷つけた、
あの頃とまったく同じになってしまうよ。
この、れっきとした根拠のない自制に似たものは、
あたしを今まで何よりも苦しめていたもの。
なのに別れた今でさえも、
同じものに心を圧迫されていてどうしようもないよ。
たぶんあの人が旅立つ前、
ふたりで行った山奥の滝への小さな旅。
きっとあの場所で、あの夜で、
すべては終わっていたし、
終わらせてしまうべきだったのだろう。
何人かに嘘もついた。
たくさん泣いたよと笑って言った。
だけど本当は、きちんと泣くことさえできていない。
終わりによる悲しみを、感じることさえ出来ていない。
今のあたしにあるのは、妙な心もとなさと、
そして、あの人をひとりにしてしまったことへの罪悪感。
続けることも、けりをつけることも出来ない。
一体どうすればいいんだろう。
何をすればいいんだろう。
優しい人を目で探してしまう。
なんの解決にもならないと頭では分かっていても。
始めることによって終わりが造られるなら、
終わりを得ることができるならば、
それでもいいのではないかとさえ考えてしまう。
泣くための実感が欲しいよ。
せめて泣くことくらいできなければ。
せめて泣くことくらい許されても。
あまりに脆いこんな夜は、
自分が怖くなるから扉を閉めなければいけない。
どれだけ我慢のできない人間かは、
あたしの歴史がまざまざと見せてくれる。
いつか誰かを欲しがる理由が、
昔のようにあたたかさに依るものに還りますように。
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Last updated
2006/04/29 09:16:39 PM
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