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風光る 脳腫瘍闘病記

吐血!?

私は先生から借りた本を読んでみた。しかし・・・

「何コレ?意味解んない、漢字読めないし、難しすぎる・・・」

先生の嫌がらせに違いない、私の事バカかどうか試してるんだ。先生ならそれぐらいの事はしかねない。ページが進まない。どうしよう?でも

「とりあえず100ページ」先生はそう言っていた。私は頑張って読む事にした。

不思議な事に100ページを過ぎたぐらいから「アレ?ちょっと面白くなってきた」のである。そこからは一気に読んでしまった。

翌日、「先生、本読んだ。最初意味分からなかったけど途中からページをめくる手が止まんなかったよ」と絶賛した。それ以降、魍魎の匣 狂骨の夢 鉄鼠の檻 と貸してくれた。

白血球の数がついに600まで落ちた。さすがの私もちょっと怖かった。風邪でも引いて肺炎になりかねないからだ。

白血球の数値が低すぎて、放射線もその日は出来ず、白血球を増やす注射を打ってもらった。この注射がまた、痛くてシャレになんなかった。でも痛い思いをしたおかけで週明けには2000まで上がっていた。

リハビリも今までみたいな激しい運動はさせてもらえず抑え目のメニューになっていた。そんなある日、先生が

「どうせだったらこの機会にキャスター上げの練習でもするか」と提案してきた。「キャスター上げ?」

先生は車イスで前車輪を浮かせてウィリーを見せてくれた。

「すごい。」この一言で先生はその場でキャスター上げをしたままクルクル回転したり前に進んだり、バックしたりいろんな芸を見せてくれた。

「でも何でキャスター上げなんかやるの?意味あるの?」
「うん。これが出来れば外での活動範囲が広がるよ、段差が乗り越えられるし・・」

私はその言葉にものすごいショックを受けた。

手術して3ヶ月。半年は様子を見ましょうと言われていて残す所あと3ヶ月。

あと3ヶ月の間で歩ける様になるかもしれないと思っていたので、それだけに先生の発言はとてもショックだった。

外での活動範囲が広がるって事は「あなたは一生車イス生活ですよ」と言われてる気がして泣きそうになった。必死で涙をこらえて

「練習なんてしなくていいよ。だって歩いて退院するんだもん。歩いて帰るから!」と言った。先生は

「え~、そんな事言わずにとりあえずやっとこうよ」と言って結局練習するハメになった。見た目は簡単そうなのにいざやってみるとバランスが全然とれなくて何度も後ろに倒れそうになった。

「ちくしょ~」いつしか私は夢中になっていた。何度かトライしているうちに一秒停止出来て、次には二秒停止出来て、何となくコツがつかめて来た。

一度コツさえ掴めればこっちのもんだった。最後には完璧にバランスが取れる様になっていた。

「何か、楽しいね~」その日以来、リハビリが出来る日はキャスター上げの練習をして、クルクル回ったり、段差を乗り越える練習をしたりして楽しんだ。

放射線のおかげで今度は血小板の数値が下がってきてちょっと打っただけなのにゴルフボールぐらいの青あざがバンバン出来る様になった。白血球も800まで落ちた。

抗がん剤は一週間ごとに3回投与する予定だったが白血球の数値が低い為、投与する事が出来ずにいた。

一か月間も治療していると今度は照射してる部分の皮膚が日焼けした後みたいに真っ赤になっていって毛穴という毛穴は黒く焼けこげて、ものすごいグロテスクな状態になっていた。

放射線ってすごいな。治療自体は痛くもかゆくも無いのに・・。ちょっとした火傷状態になっていた為、尻尾骨がある所の皮膚が焼きただれて皮がめくれて悲惨な状態になっていた。

すぐに皮膚科の先生に診てもらい薬を処方してもらった。幸いな事に感覚が無いので痛みは全然感じられなかった。アレで感覚があったら相当痛かったに違いない。

ある日私は売店にアイスを買いに出かけようとしたが途中で気持ちが悪くなり吐いてしまった。次の瞬間ビックリした。血を吐いてしまったのである。

「げっ、血、吐いちゃった。ヤバイんじゃないの?」急いでナースステーションまで行って吐血した事を伝えた。

「えっ?ほんと?大丈夫?」でも看護婦さんが「コレって血にしたらやけにピンクじゃない?」

たしかにそう言われるとピンク色をしている。私は「あっ」と思い出した。と同時に笑いが止まらなかった。

「ごめん、コレ梅しばだ・・」1時間ほど前に梅しばを10個ぐらいカリカリ食べていたのである。梅しばで良かった(笑)

約、一ヶ月間、長かった放射線治療も終わり、当初、心配されていた抗がん剤の副作用も大した事はなく、多少髪の毛は抜けたがそこまで気にするほどの量ではなかった。

白血球の数値も正常にもどり毎日リハビリが出来る様になったが毎日同じ事の繰り返し。残された時間はあと3ヶ月。私は先生にボソッと呟いた。

「車イス飽きた・・・」先生は困惑していた。しばらくして

「立ちたい?」と聞いてきた。私はコクリと頷いた。








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