2016/10/07(金)20:15
落窪物語 その6
<落窪物語 第一巻 その6>
中納言の一行が、がやがやとして出かけてしまうと、人気がなくなりとても心細い。姫君と話をしていると、帯刀のところから、
「お供に行かれないと聞きましたが、本当ですか、それなら参りましょう。」と手紙が来た。
「姫君の御加減が悪いので行かれないのに、何をしにおいでになるのですか? もしおいでになるのでしたら、つれづれを慰めるためにおいでください。『ある』とおっしゃっていた絵を必ず持ってきてくださいね。」とあこぎの返事。(注1)
というわけで、ついにお話が動き始めました。
少将は、白い紙に小指をくわえて口をすぼめた絵をお描きになって、
「絵をお召しになりましたので
つれなきを 憂しと思へる人はよに
絵見せじとこそ思ひ顔なれ
(お返事を下さらないつれないあなたのことを悲しいと思っている私は、笑みせじ(絵みせじ)と、こんな顔をしています。)
このようなことをするのは、幼稚ですね。」と手紙を書いて、帯刀に持たせました。
(注1)
当時は、テレビもパソコンもスマホもありません。物語や絵などが、とても喜ばれる、貴重なものだったようです。少将の妹は帝の女御でしたので、そんな貴重な絵がたくさんあったので、帯刀は、あこぎを通じて姫の気をひくようなことを言っていたのでしょうね。
さて、帯刀は、自分の母親(少将の乳母)に「見た目の良いお菓子をひと袋用意してください。」と頼んでから、中納言邸に向かいました。
帯刀は、さっそくあこぎを呼び出しお手紙を渡しました。そして、誰が邸内にいるのか、様子をさぐり、お菓子を取り寄せて、二人で共寝しながら姫君の話などをしていました。
姫君が、だれもいないので安心して、琴をたいそう魅力的にお弾きなっているのを聴いて、
「姫君はこのようなことをなさるのだね。」
「そうよ、亡くなられた母君が、六歳の時からお教えになられたのよ。」
などと話していると、少将が忍んでこられた。
人をたてて
「お話したいことがございます。こちらへおいでください。」と言わせると、帯刀は心得て(おいでになったのだ!)と思うと、心がせかされる。
「すぐに行きます。」と言って出ていったので、あこぎは姫のところに参上しました。
「どうなっている、わざわざこんな雨の中を来たのだから、むだに帰すなよ。」
「まずはお手紙をおよこし下さい。突然おいでになっても、姫君のご気性も存じませんのに、難しいことです。」
「ひどくまじめだな。」と言って、帯刀の方をお叩きになる。
少将は、帯刀と一緒にお入りになり、お車は「まだ暗いうちに迎えにこい」といって、帰された。(もう、やる気まんまんです。)
そして、あこぎの部屋の前で手はずを話していたけれど、
人が少ないので気が楽だ、まずはのぞき見させろよ、などとおっしゃる。
「少しお待ちください、醜いかもしれませんよ。『物忌みの姫君』のようだったらどうなさいますか?」と帯刀が尋ねると、
「その時は、笠も忘れて、袖をかぶって逃げ帰るだけだ。」とお笑いになります。
さて、ようやく、少将は姫君をすき間がのぞき見できることになりました。
それは、次回に。