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カテゴリ:小説
祥と話しているのは、日頃あまりテレビを観ない凛太郎でも知っているニュースキャスターだった。たしか中田という名前の、初老の男だ。きっちりと着こなされた背広の肩を揺すりながら、中田は面食らったように訊ねた。
「それはどういうことなのでしょうか。政府から正式な見解があったとお聞きしましたが、私は――いえ、日本中の視聴者が納得できていない事柄だと思うのですが」 明が舌打ちした。 「祥の奴、いつの間にか政府も味方につけちまったのか」 柊子が眉をひそめた。 「おそらく弓削家に出入りしていた吉原さま方のバックアップがあってのことでしょう」 「ってこたァ、あいつらも祥に付いたってわけか。ひょっとして、何かの利権につられてってことか?」 「かもな」 秀信が低く答える。腕組みをし、冷笑を浮かべて彼はブラウン管の中にいる祥を見つめていた。かつての自分を見つめるかのように。 明が足を踏み鳴らす。 「まったく人間って奴ァ、汚ねェったらありゃしねェ!」 「そんなこと言わないで、明」 凛太郎が哀しげに制した。 「僕らは人間なんだから」 「す、すまねェ」 飼い主に叱られた犬のように、明が縮こまる。 その間に、画面が切り替わった。スタジオの風景から、どこかで撮影されたであろう勾玉憑きたちの光景が映し出される。うつろな目で、両手をだらりと垂らし、自衛隊たちと戦う彼らは間違いなく視聴者に恐怖を与えるだろう。その映像に、中田と祥の会話がかぶった。 「これは全国で流行している謎のウィルスに感染した人々の映像ですが……」 中田の言葉を、凛太郎は不思議に思ってつぶやく。 「ウィルス患者って?」 「どうやら俺たちが黄泉比良坂に行っている間に、政府はそう発表していたらしい」 秀信の説明に凛太郎は納得してうなずいた。大人たちの判断は妥当なものと思えた。鬼だの勾玉だの言われてもいきなり信じられないだろうし、パニックを起こさないためにはそういった処置が必要だろう。 が、これからそれに対して、祥は何を言おうとしているのだろうか。 凛太郎の疑問に答えるように、ブラウン管の中で祥は口を開いた。 「中田さんはこのウィルス患者が何によって生み出されたと思いますか?」 「そ、それは……」 つづく ポチっと押していただけると嬉しいです! ↓ ↓ ↓ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年01月09日 20時23分04秒
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