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カテゴリ:小説
太田夫妻が去っていってから、玲はフリーハウス住人たちの感謝の声にさらされた。
「よくやったわ、玲ちゃん!」 「あなたのおかげでフリーハウスの平和は保たれたのよ!」 片手を顔の前で振りながら、玲は遠慮がちに反論する。 「あれは偶然、グレンがここに戻ってきたからです。べつに俺のおかげってわけじゃないですよ」 勇作が玲に歩み寄って、背中を優しく叩いた。 「そこがポイントなんじゃないか。きっとグレンは、お前が帰ってくるのを見計らってここに戻ってきたんだよ」 「どうしてグレンがそんなことを……」 玲の問いに、姫子ママがきっぱり答えた。 「グレンはあなたを試してたのよ。フリーハウスの管理人にふさわしいかどうかを。それを太田夫妻がかぎつけて、利用しようとしたの。アランから聞いたわ。あなた、本当は今日、大作家の先生とミーティングして、再デビューの策を練るはずだったんでしょ。それを蹴ってまで、ここに来てくれたなんて……私、あなたを見直したわ。そうじゃなかったら今頃フリーハウスはどうなっていたことか……」 姫子ママが目頭を押さえると、愛ちゃんが満面の笑みで叫ぶ。 「あたしもよ!」 他の住人たちもそれに従った。 「そうよ、あなたこそがフリーハウスの管理人にぴったりだわ!」 「勇作さんとずっとここにいて! 彼のそばにいて!」 その言葉に、ひっかかるものがあった。 レイはどう思っているのだろう。自分の前で勇作と交わっていたレイは。また、勇作自体もどう感じているのだろう。 そっと二人の表情を窺うと、二人は意味ありげに目配せし合っていた。 (もしかして悠実の言うとおり、この二人は俺を利用使用としてただけなんじゃ……) そんな疑念を抱いた時、レイが歩み寄って来て耳打ちしてきた。 「大事な話があるの。屋上のテラスに来て」 その顔は怒りの表情こそ浮かべていなかったが、重大な決意を秘めていることはたしかだった。 「どうする?」というように勇作が顔をのぞきこんでくる。 玲は黙ってレイにうなずきかけ、後に従った。 間違いなく、勇作を挟んだ関係に何らかの大きな転機が迎えられることは確実だった。 ポチっと押していただけると嬉しいです! ↓ ↓ ↓ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年08月13日 01時37分03秒
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