マスP文庫

2020/04/12(日)00:00

ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~怨霊玉梓(たまずさ)の巻き

ニャン騒シャーとミー八犬伝(63)

里見義実の家臣金碗八郎は主君を諫めた。「殿、この玉梓なる者、逆臣山下定包の妻にて、定包と共に里見家を乗っ取ろうと企んだ張本人でござりまする。たとえ女と言えど情に圧されて道を誤ってはなりませぬ。」まだ安房の国で流浪の身であったころから支えとなってくれた老臣第一席の金碗八郎の進言に、義実は玉梓の哀れを装う芝居に危うく騙されて情けを掛けそうになった弱き心を恥じた。彼はそこで大きく息をして、目の前の安堵に頬を緩ませる一人の女にまっすぐ視線を合わせて告げた。「山下定包が女房、玉梓。我が安房の国を乱し転覆せしめようと計ったこと、決して許されまじきことなり。よって打ち首申しつける。」 それまで唇に笑みを浮かべていた玉梓の顔は次第に青ざめたが、やがて目に刺すような殺気をみなぎらせて、たった今助命を口にしながら意を覆した義実を睨みつけて呪いの言葉を吐き捨てた。「おのれ義実、一度は助けると口にしながら一家臣の諫言に惑わされ、我に死を命ずるとは許し難し。かくなる上はお主の子孫の代まで浅ましき畜生の身に貶めてくれようぞ。」果たして悪女玉梓は斬首された。 その後、悪霊と化した玉梓の霊は義実の娘である伏姫の、体に八つの牡丹のような模様をもつため八房と名付けられた飼い犬に宿った。それから間もなく滝田城が敵の安西景連に攻められた折に、義実は傍らに居た犬の八房につい、景連の首を取ってくれば娘の伏姫を嫁にやるものをと愚痴をこぼしてしまう。ところが八房は本当に景連の首を咥えて戻って来た。義実は驚き喜んだが、畜生のしたことと見過ごそうとしたが、伏姫は主君が口にしたことを相手が畜生であっても必ず果たさねばならぬと、自ら八房を伴い富山に赴いてしまう。 玉梓の怨霊が宿る八房は、富山に住む仙人の役行者(えんのぎょうじゃ)の祈祷により怨霊は除かれるが、伏姫は八房の気を受けて孕んでしまっており、やがてその子らが八つの珠とともに世に現れ、彼女の父と夫の下に現れるという予言を告げられる。夫とは義実が伏姫の夫にと望んだ金碗八郎の息子の金碗大輔である。彼女は犬の子を孕んだことを恥じ八房と共に入水しようとするが、そこに伏姫を救おうと現れた金碗大輔に八房は撃ち殺され彼女も負傷してしまう。彼女は身の潔白を晴らすため、犬の子を身籠っていないことを示すために、自ら腹を裂いてみせた。その時、彼女の腹からほとばしった白い煙が首にかけていた数珠に連なる八つの大珠を宙に押し上げ、四方八方に飛散させた。 伏姫はこうして身の潔白を示すために自ら命を絶った。 そこで金碗大輔は以後、丶大(ちゅだい)という名の僧として関八州を巡る八犬士探索の旅に出るのである。 この里見家に悲劇をもたらした正に元凶が玉梓なのである。金碗大輔に撃ち殺された八房の体から抜け出た玉梓の霊は、富山に巣くう牝狸に憑りついて妙椿(みょうちん)という尼に化けて上総館山城の城主である蟇田素藤(ひきたもとふじ)に近づく。妙椿は蟇田を騙して里見家を攻めるように仕向けた。  役行者より親兵衛に与えられた三度目の試練は、この蟇田の野望を砕き、妙椿を退治することだった。

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