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3-17 新たな危機

***17*** 

有芯は、何となくしてきた嫌な予感に眉を顰めた。「ああ……大丈夫だけど」

宏信は、口調を変えずにすぐさま話し出した。「じゃあ早速……君を銃撃してきた奴のことなんだけど、取り調べてみるといろいろ分かってきたんだ。彼は九州全土を根城にしている、丸村組系『向芯会』のメンバーなんだ」

朝子の話を期待していた有芯は、全く関係のない話題だったことに少なからずショックを受けたが、宏信が大事な話と言うからにはと、後ろ頭をがさがさ掻きながら話に応じた。

「“コウシンカイ”? ……丸村組っていったら、ニュースでもたまに見る有名なヤクザだよな」

「そう、その丸村組だ。で、その丸村組の流れを汲んでいる向芯会が、主に九州のヤクザ連中を取り仕切っている。……そして、これはつい何日か前に分かったことだが、奴らは裏でヤクザ同士の大規模な取引を計画していた。その下準備のために、ちょろちょろと一般人から金を巻き上げていたのさ。……薬物でね」

「薬物ね……」有芯は、本屋が描いた地図の場所で一瞬だけ見た、白い粉の入った袋を思い出した。

宏信は滑らかに話を先へ進めた。

「そう。で、あの本屋を入り口にして、カモが奴らからヤクを買う。その合言葉っていうのが、“携帯”」

「携帯ねぇ。………あ」

“地図です。携帯の店を探したいので”

有芯は携帯を持っていないほうの手で頭を抱えた。―――合言葉なら、普通に使われねぇようなのにしろよ……クズ野郎!!

宏信は有芯に同情したのか、沈んだ声で言った。「あんなに寂れた本屋だからね、まさか一般の何も知らない人間が入ってきて、携帯と口にするとは、あの店主も思わなかったんだろう」

有芯はしばらく黙ると、ため息混じりにぼやいた。

「何て傍迷惑な………全く、こっちはそれで殺されかけたっていうのに」

「全く、いい迷惑だ。……それはともかく、ここからが本題なんだが……君の身が危ないかもしれないんだ」

「……は? ……意味がわかんねぇ、どういうことだ?!」

宏信は、言いにくそうにゆっくりと言った。「君のくれた情報と捕まえたメンバーの供述によって、向芯会はほぼ壊滅した。……だが、どうやら残党が君を狙っているらしいんだ」

「俺を?! ……またどうして? 俺、はっきり言ってやつらのこと何も知らねぇんだぜ?!」

宏信は、変わらず沈んだ声で言った。「なぜかは僕にもわからない。腹いせなのか、それとも何か秘密を握られたと思ったのか……確かなのは、どうやらこの情報がガセじゃなく本物だ、ってこと」

「そんな……」有芯はがくりとベッドに腰を下ろした。「嘘だろ……何てこった、この大変な時に……!!」

宏信は思い出したように聞いた。「……そういえば有芯、僕に用事があったのかい? さっき、何か言いかけただろう?」

「……あ、そうそう!! お前に折り入って頼みがあるんだ」

有芯は事の次第を説明すると、電話の前で頭を下げた。

「頼む………朝子を探してくれ。……お前しか頼れるやつがいないんだ」

宏信は電話の前で黙りこくっているようだった。表情の読み取れない沈黙に屈しないように、有芯は頭を垂れながら自分の膝の上でズボンを掴んだ拳を握り締めた。

やがて、宏信は搾り出すような声で言った。

「……ふざけるな」

その声は、先ほどまでの優しい声と全く違ったので、有芯は一瞬、体の弱い宏信が体調を崩したのかと思ったほどだった。

宏信は、有芯が心配するほど声を張り上げ言った。「君は朝子さんを傷つけたんだぞ! そんなことをするヤツに、彼女を追いかける資格なんて無い!!」

有芯は宏信がそんなにも怒鳴ったことに驚きながらも、携帯に向かって持てる気持ちの全てを込め叫んだ。「資格とかじゃない!! 俺は自分でしたことの責任をちゃんととりたい!! だから、朝子をこのままにしてはおけないんだよ!! このままだと腹の赤ん坊が殺されてしまう! 朝子はそれを望んでいないはずだ!!」

有芯はそれだけ言うと、部屋で一人、また頭を下げた。

「………頼む。……今の俺があるのは、あいつのおかげなんだ」

宏信はしばらく無言だったが、言葉を返さないまま、受話器を置いた。




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