武功55 決戦への序章
子明の策を聞いた孫権は、「内容はわかったが、そううまくいくのか?」「絶対にそうなる、とは言い切れませんが、 多かれ少なかれ何かしら動いてくると思います」「そうかぁ、・・・にしてもなぁ」孫権は別のところに気がかりがあるようだった。「ほかに気になることがおありのようですね」「病気を装うっていうのがな、 そもそもお前、病気じゃないんだよな?」「もちろん、この通り何もありません。 しばらく骨を休めてきます、決戦の時のために」「わかった、その時が来るまで私も努力しよう」「では、お願いします」子明は療養と称して前線から離れる。それから間もなくして任を引き継いだ陸遜は、関羽へ手紙を送った。「呂蒙が病気で前線から離れた? で、後任した奴の名前が・・・」「陸遜、という者です」「これがそいつからの手紙か」中身を読み終えた関羽は、「こびへつらいばかりだな。 それほど呉には人材がいないのか?」「あの呂蒙の後釜にしては、少し妙です。 何か狙っているのかもしれません」「そうだな、引き続き警戒を怠らぬよう注意してくれ」関羽はそのあとも勢いを増して侵攻していく。だが、さすがに人も物資も足りなくなってくる。「おい、物資はまだか。いつになったら来るのだ?」「何度か連絡はしているのですが・・・」「くそっ、帰ったらただじゃ済まさん」「関羽様、孫権に頼んで少し分けてもらいましょう」「むぅ・・・」関羽は押し黙り、思案する。「孫権に何か動きはあったか?」「いえ、何もありません」「そうか。ならば拝借するとしよう」「わかりました。文の用意をいたします」だが、関羽はそれを制止し、「その必要はない。時は一刻を争う。適当に奪い取って参れ」「しかし、そんなことをしては孫権も黙ってはいますまい」「いや、孫権は動き出すのが遅い。 動き出す前に攻め取ればいい。 そのためにも並行して警備兵も前線に呼び寄せてくれ」「わかりました、そのように・・・」ついに関羽が動いた。「半信半疑ではあったが、本当に関羽が物資を奪うとはな」「早速、呂蒙殿を呼び戻しましょう」「それには及びません、もう来ております」「さすがに早いな」「まぁ、これだけしかすることがなかったですからね」「それならバリバリ仕事してもらうぞ」「ははっ」子明は密かに前線へ復帰。「お帰りなさいませ」「見事な働きだったな、陸遜。これからも頼んでいいか?」「できうる限り頑張ります」「よし、じゃ行こうか」荊州侵略が静かに始まった。