安藤裕子が新譜を出すと聞いた時にまず感じたのは期待半分不安半分でした。不安の方が多かったかもしれません。なぜなら、前作「勘違い」が私の個人的な感想では100点満点で200点か300点くらいあげられるほどの素晴らしい完成度だったからで、当然、次回作のハードルはかなり高くなっていたからです。新作がその期待に応えられないガッカリになるパターンは多かったですからね。安藤裕子の作品は、3rdアルバムの「shabon songs」から「chronicle」「JAPANESE POP」そして「勘違い」と聞いてきましたが、その中でも「勘違い」の素晴らしい完成度は飛び抜けていました。おそらく安藤裕子の音楽として頂点ではないか、ではこの先どこへ行くのか、その期待と不安を持って新作を拝聴させていただきました。最初に聞いて、アルバムの宣伝文句にあるように、原点回帰っぽい音楽になったなと思いました。安藤裕子の音楽は、聞けばすぐわかる個性的なものなんですが、特徴的なのが、非常にアンバランスなバランス、混沌の平穏、無秩序な規則性とても言えばいいのか、綱渡りを見ているような音楽なんですよ。それも、安心して見ていられる綱渡りじゃなくて、ふらふらしてて今にも落っこちそうな綱渡り、でもヒヤヒヤしない不思議な感覚、それが安藤裕子の音楽なんですが、全然わかりにくい説明ですね。これが好きな人にはタマランでしょうが、気に入らない人にはわからないでしょう。その前作「勘違い」はそのアンバランスなバランスが非常に調和がとれてきて、アルバムを出すたびに進化してきた事がよくわかるんですが、これ以上、調和がとれたら安藤裕子の音楽でなくなってしまうくらいのところまできてたのかもしれません。そこで原点回帰を選択したのは正解だったと言えるでしょう。聞いてみたらわかるのですが、冒頭の「ようこそここへ」から「ローリー」の曲調は「shabon songs」に収録された名曲「“I”novel.」や「The Still Steel Down」を彷彿させます。折り返しの「サイハテ」はアンバランスなバランスを象徴するような曲調、そして後半はどちらかというと地味な曲が続き、アルバム表題曲「グッド・バイ」で締められます。聞き始めは、この後半の地味なところが物足りなかったんですが、何度も聞込んでいるうちに、安藤裕子の不思議な世界に毒されてしまったのか、この後半こそがこのアルバムの真骨頂ではないかと思えてきました。特に「貘砂漠」から「愛の季節」の流れが感動ものです。安藤裕子のアンバランスなバランスのバランスがとれていない案配があやういところに戻った本作、ということで「勘違い」に勝るとも劣らぬ新作、必聴です。